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第1章
それは、一瞬の出来事だった
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カルロが出立して、一月も立たない間に、暗黒龍討伐の話が王宮に伝わって、王宮内は大混乱状態だ。
暗黒龍を倒す為には、神話で語り継がれているように聖女と大剣の使い手両方いて初めて可能な事なのに。しかも半年と言っていたのに、一月もたっていない。
カルロは今神殿に居て、討伐した龍の鑑定をしていたとか。
そう、もう既に鑑定が終わり、討伐されたのが暗黒龍である事が神殿により立証された。
そして共に神殿は、王宮の王侯貴族に収集をかけてきたのだ。
異世界の聖女なき今、その異世界の聖女がおらずとも、異世界の聖女が行うべき偉業を1人で成し遂げた皇太子カルロは、神殿にとったら異世界の聖女に変わる従うべき存在になったようだ。
そして同時に王族で唯一、大剣を1人で使いこなしたとされる歴代初の人間。
王宮の中でも、チラホラと雰囲気が変わり始めた。
セリウム王子が大剣の使い手を生む可能性はある。
だが現在は何とも言えない上、その子が異世界の聖女無くしてこの偉業をはたせるのか?
それはほぼ0%だからだ。
王宮内の内情を探っていたユラとアレンには、その事実一つでゴロリと変わる人心の様がわかった。
セリウムは地位の高い王侯貴族の後ろ盾はあるが、それだけなのだ。
派閥の者は元々中立に近い者から1人。また1人と抜けてゆく。
伝説級の事が為せる者との勝負など、火を見るよりも明らかなのだ。
こうした中で神殿による王侯貴族の収集は、過去の事件の真相を明らかにする為の物だった。
皇太子妃であるテリアは、カルロの隣に座っていた。だから証言台の真前…いや、上にある席に座っている。
そして、結果は、当時加担していた者が告発という方法で、己の風当たりを少しでも弱めようとこぞって証拠や証言を持ってきた。
カルロには全て把握されているのを知っているからだ。
そう、今後皇帝になり、唯一暗黒龍を屠れる貴重な存在であり、神殿でも重宝される事が〝確定〟しているカルロに煙たがられては、後々良い事など一つもない事が皆わかっていると言うのもある。
そして皆本当は第2王子の知能の高さが怖かったと口を揃えて証言した。
幼子にあるまじき頭の良さから出る策略と、王妃の背景にある後ろ盾が怖かったと。
全てを罰する訳にもいかないので、自主的に協力してくれた者には何の咎め立てもしなかったが、やはり第2王子はそういう訳にもいかなかった。
「ー…以上が、2年前の事の真相だが。
異論はあるか?セリウム。」
5歳の子が、証言台に1人立たされている異様な光景。
入室時は、まだ可愛い子供のふりをしていたセリウムだったが、裁判が進むにつれて徐々に演技をといていった。
そして今にいたる。
「いいえ。何も。全ては皆の証言した通り、私が兄上を失脚させる為企んだ事で間違いありませんよ。」
そう言ったセリウムに、皇妃は髪を振り乱して「セリウム!」と叫んでいる。
「それが意味するところは…わかるか?」
「はい、兄上。でもボクは、自分の行いが間違いだったと今でも思って居ませんよ。何故なら現在の力関係が物語っている。ボクの読みは正しかった。」
周りの王侯貴族や神殿の人間達は、セリウムの言葉でざわめいた。
おおよそ、幼子とも思えない口調に、こうした事態に畏怖を僅かも顔に出さない。その異質さに。
カルロは周りに聞き取れない声でポツリと呟いた。
「……。成る程、確かに俺よりおまえが相応しかったのかもしれないな。」
セリウムと視線を交差させている事で、テリアには相手にもカルロが言った言葉が伝わっている気がした。
「ー…だが、俺には守らなくてはならない者がいる。故に、おまえに譲れる物はない。」
隣にいるテリアには、全ての呟きが聞こえている。
(……。カルロ皇太子…)
「では、第2王子の刑は後ほど言い渡す事とする。
さてー…、実は此処からが本題だ。」
カルロの言葉に周りは再びざわざわと煩く騒めく。
だが、カルロが片手を上げて下ろした瞬間に、ピタリと止んだ。
その光景に、テリアは目蓋を瞬いた。
「……!」
(この現象、まるで…ー。)
「此処に悪しき現皇帝を廃位し、新皇帝の即位を神殿の指示の元宣言する。」
その発言を聞いて、皆の空気が張り詰めたのがわかった。
〝現皇帝〟とされた者の元へと視線が集まる。
「…。ほう?皇帝である余を廃位だと?皇太子の分際でか?」
「…父上、いや。元皇帝陛下。
貴方は元々勤勉だったと聞いたが、その歳で耄碌されましたか?
悪政を続ける愚帝が出ぬようにと、始皇帝が定めた不滅の法をお忘れでは有りませんよね?
神殿の指示と、王侯貴族の3分の2の賛成。そして悪政の証拠が揃えば、次期皇帝が現皇帝を廃する事が可能となる。
…使われた者は数百年誰も居られぬそうですが。」
「悪政だと?」
「ええ、今回幼き王子が愚かな道へ足を踏み外した。それは、暗に親である皇帝と、皇妃の責任でしょう。」
「…馬鹿馬鹿しい。それの何処が悪政と申すのか?」
「言わねばわかりませんか?
継承権の為に兄弟が争う…完全なる王室の醜聞です。それを生み出した原因は、貴方と皇妃のその、〝嵌められた者が悪い〟と言う観点から発生しています。…ついでに言うなら、暗黒龍の増加に何の策も講じてこなかった暗君だ。」
それを聞いた元皇帝は、すっと目を細めた後、俯いてクツクツと笑い声を上げ出した。
「ふふっ!くはははっ!成る程。
余の今までの発言を肯定してしまえば、今の状況は嵌められた余が悪いとなるか…」
「……。」
「…まぁ良い。余もそろそろ疲れてきていた。抵抗したところでもう決めているのだろう?余をどうするのか。
如何様にでもしろ。」
「では、衛兵。拘束して牢へお連れせよ。沙汰は後に下す。」
カルロの指示で動く衛兵達に、テリアはただ此処までの流れを呆然と見ている。
(え?今、…何が起こっているの?)
捕らえられ、連れて行かれる皇帝…否、元皇帝の姿に、テリアはただ口を開けている事しか出来ない。
そんな興奮冷めやらぬ会場で、高らかに神殿の大神官が宣言した。
「神殿の権限において、此処に、カルロ・デ・クワムントを新たなる皇帝として指名する事を宣言する!!」
暗黒龍を倒す為には、神話で語り継がれているように聖女と大剣の使い手両方いて初めて可能な事なのに。しかも半年と言っていたのに、一月もたっていない。
カルロは今神殿に居て、討伐した龍の鑑定をしていたとか。
そう、もう既に鑑定が終わり、討伐されたのが暗黒龍である事が神殿により立証された。
そして共に神殿は、王宮の王侯貴族に収集をかけてきたのだ。
異世界の聖女なき今、その異世界の聖女がおらずとも、異世界の聖女が行うべき偉業を1人で成し遂げた皇太子カルロは、神殿にとったら異世界の聖女に変わる従うべき存在になったようだ。
そして同時に王族で唯一、大剣を1人で使いこなしたとされる歴代初の人間。
王宮の中でも、チラホラと雰囲気が変わり始めた。
セリウム王子が大剣の使い手を生む可能性はある。
だが現在は何とも言えない上、その子が異世界の聖女無くしてこの偉業をはたせるのか?
それはほぼ0%だからだ。
王宮内の内情を探っていたユラとアレンには、その事実一つでゴロリと変わる人心の様がわかった。
セリウムは地位の高い王侯貴族の後ろ盾はあるが、それだけなのだ。
派閥の者は元々中立に近い者から1人。また1人と抜けてゆく。
伝説級の事が為せる者との勝負など、火を見るよりも明らかなのだ。
こうした中で神殿による王侯貴族の収集は、過去の事件の真相を明らかにする為の物だった。
皇太子妃であるテリアは、カルロの隣に座っていた。だから証言台の真前…いや、上にある席に座っている。
そして、結果は、当時加担していた者が告発という方法で、己の風当たりを少しでも弱めようとこぞって証拠や証言を持ってきた。
カルロには全て把握されているのを知っているからだ。
そう、今後皇帝になり、唯一暗黒龍を屠れる貴重な存在であり、神殿でも重宝される事が〝確定〟しているカルロに煙たがられては、後々良い事など一つもない事が皆わかっていると言うのもある。
そして皆本当は第2王子の知能の高さが怖かったと口を揃えて証言した。
幼子にあるまじき頭の良さから出る策略と、王妃の背景にある後ろ盾が怖かったと。
全てを罰する訳にもいかないので、自主的に協力してくれた者には何の咎め立てもしなかったが、やはり第2王子はそういう訳にもいかなかった。
「ー…以上が、2年前の事の真相だが。
異論はあるか?セリウム。」
5歳の子が、証言台に1人立たされている異様な光景。
入室時は、まだ可愛い子供のふりをしていたセリウムだったが、裁判が進むにつれて徐々に演技をといていった。
そして今にいたる。
「いいえ。何も。全ては皆の証言した通り、私が兄上を失脚させる為企んだ事で間違いありませんよ。」
そう言ったセリウムに、皇妃は髪を振り乱して「セリウム!」と叫んでいる。
「それが意味するところは…わかるか?」
「はい、兄上。でもボクは、自分の行いが間違いだったと今でも思って居ませんよ。何故なら現在の力関係が物語っている。ボクの読みは正しかった。」
周りの王侯貴族や神殿の人間達は、セリウムの言葉でざわめいた。
おおよそ、幼子とも思えない口調に、こうした事態に畏怖を僅かも顔に出さない。その異質さに。
カルロは周りに聞き取れない声でポツリと呟いた。
「……。成る程、確かに俺よりおまえが相応しかったのかもしれないな。」
セリウムと視線を交差させている事で、テリアには相手にもカルロが言った言葉が伝わっている気がした。
「ー…だが、俺には守らなくてはならない者がいる。故に、おまえに譲れる物はない。」
隣にいるテリアには、全ての呟きが聞こえている。
(……。カルロ皇太子…)
「では、第2王子の刑は後ほど言い渡す事とする。
さてー…、実は此処からが本題だ。」
カルロの言葉に周りは再びざわざわと煩く騒めく。
だが、カルロが片手を上げて下ろした瞬間に、ピタリと止んだ。
その光景に、テリアは目蓋を瞬いた。
「……!」
(この現象、まるで…ー。)
「此処に悪しき現皇帝を廃位し、新皇帝の即位を神殿の指示の元宣言する。」
その発言を聞いて、皆の空気が張り詰めたのがわかった。
〝現皇帝〟とされた者の元へと視線が集まる。
「…。ほう?皇帝である余を廃位だと?皇太子の分際でか?」
「…父上、いや。元皇帝陛下。
貴方は元々勤勉だったと聞いたが、その歳で耄碌されましたか?
悪政を続ける愚帝が出ぬようにと、始皇帝が定めた不滅の法をお忘れでは有りませんよね?
神殿の指示と、王侯貴族の3分の2の賛成。そして悪政の証拠が揃えば、次期皇帝が現皇帝を廃する事が可能となる。
…使われた者は数百年誰も居られぬそうですが。」
「悪政だと?」
「ええ、今回幼き王子が愚かな道へ足を踏み外した。それは、暗に親である皇帝と、皇妃の責任でしょう。」
「…馬鹿馬鹿しい。それの何処が悪政と申すのか?」
「言わねばわかりませんか?
継承権の為に兄弟が争う…完全なる王室の醜聞です。それを生み出した原因は、貴方と皇妃のその、〝嵌められた者が悪い〟と言う観点から発生しています。…ついでに言うなら、暗黒龍の増加に何の策も講じてこなかった暗君だ。」
それを聞いた元皇帝は、すっと目を細めた後、俯いてクツクツと笑い声を上げ出した。
「ふふっ!くはははっ!成る程。
余の今までの発言を肯定してしまえば、今の状況は嵌められた余が悪いとなるか…」
「……。」
「…まぁ良い。余もそろそろ疲れてきていた。抵抗したところでもう決めているのだろう?余をどうするのか。
如何様にでもしろ。」
「では、衛兵。拘束して牢へお連れせよ。沙汰は後に下す。」
カルロの指示で動く衛兵達に、テリアはただ此処までの流れを呆然と見ている。
(え?今、…何が起こっているの?)
捕らえられ、連れて行かれる皇帝…否、元皇帝の姿に、テリアはただ口を開けている事しか出来ない。
そんな興奮冷めやらぬ会場で、高らかに神殿の大神官が宣言した。
「神殿の権限において、此処に、カルロ・デ・クワムントを新たなる皇帝として指名する事を宣言する!!」
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