身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第2章

本殿での初夜4

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「アネス卿がおまえの愛人だと言うのは、嘘だったと?」


 驚いた表情を浮かべたあと、唖然としていたカルロが我に返ってから、慎重に確かめるように問いかけて来た。


「そう、嘘!」

 
 愛人発言は嘘であることをきっぱりと告げると、今度は躊躇いながらも口をゆっくりと開いた。

「なんで…」


「?」


 眉間に皺を寄せ、カッと目を見開いたカルロの大きな声が辺りに響いた。


「何でそんなくっだらねぇ嘘をつくんだよ!?」


 
「だ…だって、カルロ陛下が凄く怒ってたから。私なりに原因を色々考えて「巫山戯るなよ、この馬鹿。

馬鹿だと思っていたが、おまえは本当に馬鹿だ!」


 最後まで話を聞かず、テリアの声に自分の声を被せてくる。

 このままではまた喧嘩になると察したテリアは、訳をちゃんと聞いてもらおうと声のボリュームをあげた。
 

「そんなに馬鹿馬鹿って連呼しなくても!
あの時カルロ陛下の顔、すっごい怖かったんだよ?そりゃもう処刑してやる!って意気込みを感じるくらいに。だから私はてっきり…ー、」

 テリアが言葉を紡いでいる途中で、赤い瞳の片隅に溜まった雫に気が付いた。

 
(目の縁が、赤くなってる)
 
 
 手を伸ばして、カルロの目尻に溜まっている雫を拭おうとしたのは無意識だった。

 触れる前に、腕を掴まれたテリアは我に返って腕を引っ込めようとした。



 けれど、掴まれた腕は強引に引き寄せられて、意図した方向とは逆の方向に身体が動く。

 胸板に頬が当たり、体制を整える前に自然と腰にまわされた腕に、より一層引き寄せられた。


 そのせいで、テリアの前方は黒い布地に、紫色の線が縫い付けられている衣服しか見えない。


ーー…、私に愛人が居ると思い込んで怒って、違うと分かってからこんなふうに抱きしめるなんて、まるで…



 これじゃあ、まるで…。


 カルロ陛下が私を好きみたいじゃない。



 こんな事を考えていると知られたら、また怒られるだろうなぁ…〝勘違いするな馬鹿〟って。

 人に懐かない猫が威嚇するように逆毛を立て怒っているカルロの様子を思い浮かべたテリアは、思わず「ふっ」っと声を漏らしてしまった。


「…おい」


「何?」

「何故笑いを堪えて震えてんだ?堪えきれていないが」


「だって、カルロ陛下の行動と言動が、まるでやきもちを妬いてるみたいだから」

「…それの何処がおかしいんだよ?」

「だって。
それじゃあまるで。

カルロ陛下が私に恋してるみたいじゃない」



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