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第1章
カルロはその頃 カルロside
しおりを挟む外套を身に纏い、目的地に向かって歩いていたカルロは出掛ける前にもらったネックレスについたペンダントを手にして、じっと見つめた。
いつからだったか、分からない。予め俺は予感がしていた。
俺は多分、こいつを好きになる。と言う嫌な予感。
それを一目惚れと言うのか、何と言うかは人それぞれだろうが。
帰ってきたあの夜、2人でサンドイッチを食べて夜空を見ていた。特段変わったことをしていた訳じゃ無い。
隣にあいつが居ると言うだけで、俺は楽しく心地よく。もっと此処に居たいと思っていた。
だからと言って、向こうからの好意を期待している訳じゃ無い。
俺は多分嫌われているだろうと初めから思っていたし。俺も嫌いだと思おうと必死だったし。今思えばくだらない事をした。
だから、王宮から出る前に一目見たかっただけ。見返りを、求めた訳じゃなかった。
けれど。去り際にこのペンダントのついたネックレスを俺に渡して、あいつは念を押して言った。
『ちゃんと、返してよ。』
「…ちゃんと、帰って来いってか。」
ふっと口元に小さな笑みを浮かべて、ネックレスを胸ポケットにしまった俺に、かつての腹心が反応した。
「お元気そうで、何よりでしたよ。」
「おかげでな。
当分音沙汰もなく。最後の言葉はあれだ。俺はおまえに本当に裏切られたと思い始めていたぞ。」
「…貴方がまた別の者に同じ事をしたら今度こそ詰んだでしょうからね。
外に行っては、もう手助けも出来ない。ならば恨まれたままで良いから貴方を生かしたいと思って居ました。
ですが、見つけましたから。貴方の助けになる術を。
…数百年前に現れた異世界の聖女が残した泉を。」
「結局、異世界の聖女の力は必要…か。」
「けれど貴方も暗黒龍を倒せば無二の存在になれます。どうせ、異世界の聖女は数百年も現れていない。
神殿は色々と模索していますがね…だからこそ、とにかく貴方は1人で暗黒龍を仕留める。
これを果たせば神殿は貴方を指示するでしょう。」
神殿は異世界の聖女の為にある。王宮が政治をまわしているなら、神殿は聖なる力を持った者の集まりで、いわばこの国の神…いな、神に仕える異世界の聖女の住処を守っている。
異世界の聖女が現れたら、王宮より神殿が権力を持つ時代になる。
だが今は神殿と王宮で拮抗している。
神殿は皇帝の花冠式で神のもとに皇帝を指示する声明を出す。
これが無いと皇帝にはなれない。
神殿は異世界の聖女にしか興味がない。
というより、この世を混沌垂らしめる
暗黒龍を討伐出来る者の存在は貴重なのだ。
異世界の聖女を所有する権限を持った神殿。
始皇帝の大剣の使い手が生まれる王宮。
神話に出てくる暗黒龍を討伐出来る2人がそれぞれ所有される場所。
それぞれの権力が拮抗するのは当然だったが、異世界の聖女の役割はそれだけで終わらないので、数百年も不在だと言うのにやはりその存在は大きい。
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つまりセリウムが子供を産んだら、もしかしたらその子も使えるかもしれない。
そうなったら俺の存在意義も完全に消えるから、まだあいつが幼いうちに。
俺は暗黒龍を1人で討伐したと言う無二の存在になる。
そう、これは俺の賭けだ。
この討伐を成功させたら俺が皇帝。
失敗したなら…
「まぁ、失敗する訳にもいかないか…。」
王宮には守らなくてはならない者が残っている。
俺の妹、アリスティナ。
そしてー…
「ん?皇太子、大剣が…。」
「?」
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