71 / 121
第1章
カルロはその頃 カルロside
しおりを挟む外套を身に纏い、目的地に向かって歩いていたカルロは出掛ける前にもらったネックレスについたペンダントを手にして、じっと見つめた。
いつからだったか、分からない。予め俺は予感がしていた。
俺は多分、こいつを好きになる。と言う嫌な予感。
それを一目惚れと言うのか、何と言うかは人それぞれだろうが。
帰ってきたあの夜、2人でサンドイッチを食べて夜空を見ていた。特段変わったことをしていた訳じゃ無い。
隣にあいつが居ると言うだけで、俺は楽しく心地よく。もっと此処に居たいと思っていた。
だからと言って、向こうからの好意を期待している訳じゃ無い。
俺は多分嫌われているだろうと初めから思っていたし。俺も嫌いだと思おうと必死だったし。今思えばくだらない事をした。
だから、王宮から出る前に一目見たかっただけ。見返りを、求めた訳じゃなかった。
けれど。去り際にこのペンダントのついたネックレスを俺に渡して、あいつは念を押して言った。
『ちゃんと、返してよ。』
「…ちゃんと、帰って来いってか。」
ふっと口元に小さな笑みを浮かべて、ネックレスを胸ポケットにしまった俺に、かつての腹心が反応した。
「お元気そうで、何よりでしたよ。」
「おかげでな。
当分音沙汰もなく。最後の言葉はあれだ。俺はおまえに本当に裏切られたと思い始めていたぞ。」
「…貴方がまた別の者に同じ事をしたら今度こそ詰んだでしょうからね。
外に行っては、もう手助けも出来ない。ならば恨まれたままで良いから貴方を生かしたいと思って居ました。
ですが、見つけましたから。貴方の助けになる術を。
…数百年前に現れた異世界の聖女が残した泉を。」
「結局、異世界の聖女の力は必要…か。」
「けれど貴方も暗黒龍を倒せば無二の存在になれます。どうせ、異世界の聖女は数百年も現れていない。
神殿は色々と模索していますがね…だからこそ、とにかく貴方は1人で暗黒龍を仕留める。
これを果たせば神殿は貴方を指示するでしょう。」
神殿は異世界の聖女の為にある。王宮が政治をまわしているなら、神殿は聖なる力を持った者の集まりで、いわばこの国の神…いな、神に仕える異世界の聖女の住処を守っている。
異世界の聖女が現れたら、王宮より神殿が権力を持つ時代になる。
だが今は神殿と王宮で拮抗している。
神殿は皇帝の花冠式で神のもとに皇帝を指示する声明を出す。
これが無いと皇帝にはなれない。
神殿は異世界の聖女にしか興味がない。
というより、この世を混沌垂らしめる
暗黒龍を討伐出来る者の存在は貴重なのだ。
異世界の聖女を所有する権限を持った神殿。
始皇帝の大剣の使い手が生まれる王宮。
神話に出てくる暗黒龍を討伐出来る2人がそれぞれ所有される場所。
それぞれの権力が拮抗するのは当然だったが、異世界の聖女の役割はそれだけで終わらないので、数百年も不在だと言うのにやはりその存在は大きい。
俺が大剣を使えるのは、たまたまだ。始皇帝の血さえ混ざっていたら、使える者が1人は必ず生まれる。
つまりセリウムが子供を産んだら、もしかしたらその子も使えるかもしれない。
そうなったら俺の存在意義も完全に消えるから、まだあいつが幼いうちに。
俺は暗黒龍を1人で討伐したと言う無二の存在になる。
そう、これは俺の賭けだ。
この討伐を成功させたら俺が皇帝。
失敗したなら…
「まぁ、失敗する訳にもいかないか…。」
王宮には守らなくてはならない者が残っている。
俺の妹、アリスティナ。
そしてー…
「ん?皇太子、大剣が…。」
「?」
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる