70 / 121
第1章
帰り道に義弟に会いました
しおりを挟むアリスティナと話し終えたあと、瑠璃宮から寄り道せずに、自分の宮へと戻ろうとしたテリアだったが、目の前に現れた存在に足を止めた。
アレンとユラが間に入る。
「やぁ、義姉様。」
ユラは目の前の幼子が浮かべる笑顔に、悪寒がした。
それは、アリスティナの話を聞いてしまったからなのか、この間のことが思い出されるせいか、それとも得体のしれなさを元々感じていたせいか。
目の前の存在はユラにちぐはぐさを感じて、それが何処か恐ろしいと初めから感じていた。
返事をしないで、真っ直ぐセリウムを見ているテリアに、セリウムは笑顔のまま言った。
「もしかして、ボクの事が怖いの?」
可愛らしくコテンっと動かした仕草1つ1つが、ユラにはどうにもゾッとしてしまう。
「はははっ。言葉を発せないくらいに怖いんだね。そうでなくちゃボクもつまらないよ。本当、こんな幼子相手に滑稽に動く人達を見たてたら面白いよね。」
セリウムは、まるでありの巣を壊して遊んでいる子供のような無邪気さで言った。けれど、先程から黙って聞いていたテリアはポツリと呟く。
「…可哀想な人ですね。セリウム王子は。」
「?」
「赤子が皆に愛でられる容姿で生まれるのは、自分が1番弱い存在である事を知っているからです。
力も心も身体も。皆もそれを分かっていて赤子を面倒見ているのです。
けれど、貴方は頭が良すぎて。恐らく赤子の時から大人顔負けのレベルで何でも見通せてきたのでしょう?」
「……。まぁね。なんだ。馬鹿なだけかと思ったけどわかってたんだ。」
「心も身体も発達しないまま、頭だけは良くて、そんな貴方にこの王宮の環境は悪すぎたのでしょうね。
誰かを信用する強い心を持つ前にリスクを理解した。
裏切られる前に裏切り、貶められる前に貶める。その方が、簡単ですもんね。
合理的だと思っているのですよね。
自分が可哀想な存在になってしまった事にも気付いていないのでしょう?」
「……。」
普段ここで黙る事をしないセリウムが…口をつぐんだ事で、周りのメイド達は内心ハラハラしていた。
「聞きましたよね。カルロ皇太子が暗黒龍を討伐するという事を。」
「馬鹿だよね、出来っこないのに。」
「でも貴方は、恐れていたでしょう。
王族の中で唯一、カルロ皇太子が始皇帝と同じ大剣を使えると言う点を。
だから、貴方は貴方の持てる武器でカルロ皇太子を潰そうとした。」
「ー…。へぇ。君、何者なの?」
「ただの元子爵令嬢です。
今の私は頭フル回転してますからね。
貴方は私の逆鱗に触れる行いをしました。絶対赦せません。」
「…何の事か知らないけど、昨日の事?
結果何もなかったじゃん?」
「人に濡れ衣を着せて…無い罪を償わせる。
この行為についての代償は高くつきますよ。」
「義姉様がボクに何が出来るかな?」
「私じゃありません。
この決着は、皇太子が自らつけるのでしょう。私はそれを。ただ見ています。
だから貴方は皇帝になれません。」
そう言い残して、テリアはセリウムを避けて自分の宮へと足を進めた。
その後ろ姿を見て、セリウムは小さい手で拳を握り目を細めて呟く。
「暗黒龍を1人で討伐出来ると思ってんのかな…やっぱり馬鹿。」
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる