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第1章
帰り道に義弟に会いました
しおりを挟むアリスティナと話し終えたあと、瑠璃宮から寄り道せずに、自分の宮へと戻ろうとしたテリアだったが、目の前に現れた存在に足を止めた。
アレンとユラが間に入る。
「やぁ、義姉様。」
ユラは目の前の幼子が浮かべる笑顔に、悪寒がした。
それは、アリスティナの話を聞いてしまったからなのか、この間のことが思い出されるせいか、それとも得体のしれなさを元々感じていたせいか。
目の前の存在はユラにちぐはぐさを感じて、それが何処か恐ろしいと初めから感じていた。
返事をしないで、真っ直ぐセリウムを見ているテリアに、セリウムは笑顔のまま言った。
「もしかして、ボクの事が怖いの?」
可愛らしくコテンっと動かした仕草1つ1つが、ユラにはどうにもゾッとしてしまう。
「はははっ。言葉を発せないくらいに怖いんだね。そうでなくちゃボクもつまらないよ。本当、こんな幼子相手に滑稽に動く人達を見たてたら面白いよね。」
セリウムは、まるでありの巣を壊して遊んでいる子供のような無邪気さで言った。けれど、先程から黙って聞いていたテリアはポツリと呟く。
「…可哀想な人ですね。セリウム王子は。」
「?」
「赤子が皆に愛でられる容姿で生まれるのは、自分が1番弱い存在である事を知っているからです。
力も心も身体も。皆もそれを分かっていて赤子を面倒見ているのです。
けれど、貴方は頭が良すぎて。恐らく赤子の時から大人顔負けのレベルで何でも見通せてきたのでしょう?」
「……。まぁね。なんだ。馬鹿なだけかと思ったけどわかってたんだ。」
「心も身体も発達しないまま、頭だけは良くて、そんな貴方にこの王宮の環境は悪すぎたのでしょうね。
誰かを信用する強い心を持つ前にリスクを理解した。
裏切られる前に裏切り、貶められる前に貶める。その方が、簡単ですもんね。
合理的だと思っているのですよね。
自分が可哀想な存在になってしまった事にも気付いていないのでしょう?」
「……。」
普段ここで黙る事をしないセリウムが…口をつぐんだ事で、周りのメイド達は内心ハラハラしていた。
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「でも貴方は、恐れていたでしょう。
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この決着は、皇太子が自らつけるのでしょう。私はそれを。ただ見ています。
だから貴方は皇帝になれません。」
そう言い残して、テリアはセリウムを避けて自分の宮へと足を進めた。
その後ろ姿を見て、セリウムは小さい手で拳を握り目を細めて呟く。
「暗黒龍を1人で討伐出来ると思ってんのかな…やっぱり馬鹿。」
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