69 / 121
第1章
義妹は教えてくれた
しおりを挟む宮の外にはなるべく出るなとは言われた。
だけど、アリスティナの所に行くのは別腹と捉えたテリアは今、瑠璃宮にいる。
アレンとユラはもはや呆れた顔をして居た。あの手この手で此処へ来ようとして現在に至るので、結局2人がおれた。
そこでテリアはこの間のセリウムの話をすると、アリスティナは話を聞き終わった後、静かにティーカップを置いた。
「……この話を、私の口からするべきでは無いのだと、思っていました。必要以上に怖がらせたくも無かった。
でも、テリア様はセリウムの目に止まってしまった。だから。お話します。
お兄様と、第2王子陣営にあったことを。」
「やはり、何かあるんですか?でも今まで言わなかったと言う事は、カルロ皇太子が知られたく無い話じゃ…」
「いえ、こうなっては知っておかなければなりません。二の舞にならないように。」
「二の舞?」
「……お兄様は2年前まで、腹心の部下が2人おりました。どちらも優秀な方々です。年齢はかなり上でしたが、ご学友でした。」
「2年前。まで?」
「はい、2年前、1人が絞首刑になり、1人は僻地へ追放となりました。」
〝絞首刑〟その言葉が、テリアの脳の中にあの日の記憶を蘇らせる。
アリスティナは話を続けた。
「2人とも、王族の暗殺計画を立てていた事が発覚しました。」
「….!」
(まさか……。)
(あの時セリウムがした質問。『毒を飲むならどっちがいい?』っていう。あれはー…。)
「1人目の時は…あっという間でした。彼は身分が致命的に低かったせいです。きちんと調べられないまま…罪は確定して刑は執行されました。」
「……。」
「2人目も、絞首刑を言い渡されました。ですが、お兄様が…ずっと、皇帝の住う宮に向かって跪き、減刑を嘆願しました。
本来なら、関わってはいけなかった。
わかってはいても。
お兄様はなりふり構って居られなかったと思います。信用して居た者が立て続けに2人ですから。」
「……。」
「明らかに、何者かに嵌められたにしても。皇帝は嵌められる者が愚かである。
そう考えている人であると知りながら。
下手をしたら自分が、暗殺を支持した者だと疑われかねないと知りながら。
王宮にいる殆どの者が、そんなお兄様を、愚かで皇帝の器ではないと。判断しました。
そこで哀れに思った皇妃様が提案したのです。被害にあった第2王子宮と皇太子宮を入れ替えてはどうかと。
そこまで誠意を見せたなら、第2王子派の溜飲は幾らか治るだろうと。
お兄様は迷わず承諾しました。」
「……。そんな。…。」
「第2王子派には目は光らせていたと言うのに、何があったのか、当時はわかりませんでしたが…テリア様の話を聞く限り、信じられませんが…当時もセリウムが、直接絡んでいたのでしょうね。」
なんて…ことを。
なんで、そんなことを出来てしまうと言うの。
そんな事をされた側がどんな気持ちになるのか、全く考えもしない。
私は、誰よりも。人に濡れ衣を着せる人間を赦せはしない。
「赦せない、そんなの赦してはならないわ。
そんな奴が皇帝になるというの?却下!却下!絶対いや!
ならカルロ皇太子の方がまし!
愚か?人の命を惜しむのが愚かだというの?今の皇帝の方が愚か者よ!!!」
アリスティナは、テリアの言葉に薄ら涙ぐんだ。その意見を言ってくれる者は、誰1人として此処には居なかったから。でもずっと、アリスティナが1人で抱えてきた想いだった。
「テリア様、だからテリア様には誤解をしないで欲しいのです。カルロお兄様の本質を。」
「誤解?」
「カルロお兄様は、本来とても、優しいんです。とてもわかりづらいのですが。
例えば、テリア様の事を決める権限はお兄様にあります。
今テリア様がいる宮を決めたのもお兄様です。一見はテリア様に意地悪をしているかのような、ひっそり目立たぬ奥地にありますが。
権力も何も無い、発言権の弱い皇太子の妃である者が余計な視線を受けぬようにする為です。セリウムも含めて。」
「つまり。私が余計な人に目をつけられないためにあの宮を与えられたと?
まさか。考えすぎですよそれは。今はともかく。初期はとても私を嫌っていましたし。」
「否定はしません。でも初めから嫌われるようにしていたでしょう。
お兄様は、意図的では無かったかもしれませんが、でも無意識下で理解していました。
権力のない者が今の自分と仲良くなればどうなるのか。お兄様はわかっていたから。」
「……。」
「気を許した者が、目の前で裁かれるのを今後見なくてはならない苦痛が待っている事を知っていたから。」
「……。」
「だから、2年前からずっと。お兄様は王宮内で私以外に親しい者を作ろうとしませんでした。とてもそれが痛々しくて。だけど、私も死を待つ人間だったからこそ何も出来なくて。
最近は、また。優しく笑う瞬間も見えてきました。雰囲気も、柔らかく…。
だから。
お兄様はきっと、皇帝になります。その時はテリア様が側に。居てあげてください。」
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる