身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第1章

義妹は教えてくれた

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 宮の外にはなるべく出るなとは言われた。

 だけど、アリスティナの所に行くのは別腹と捉えたテリアは今、瑠璃宮にいる。

 アレンとユラはもはや呆れた顔をして居た。あの手この手で此処へ来ようとして現在に至るので、結局2人がおれた。


  そこでテリアはこの間のセリウムの話をすると、アリスティナは話を聞き終わった後、静かにティーカップを置いた。


「……この話を、私の口からするべきでは無いのだと、思っていました。必要以上に怖がらせたくも無かった。
でも、テリア様はセリウムの目に止まってしまった。だから。お話します。

お兄様と、第2王子陣営にあったことを。」


「やはり、何かあるんですか?でも今まで言わなかったと言う事は、カルロ皇太子が知られたく無い話じゃ…」

「いえ、こうなっては知っておかなければなりません。二の舞にならないように。」

「二の舞?」

「……お兄様は2年前まで、腹心の部下が2人おりました。どちらも優秀な方々です。年齢はかなり上でしたが、ご学友でした。」

「2年前。まで?」

「はい、2年前、1人が絞首刑になり、1人は僻地へ追放となりました。」



  〝絞首刑〟その言葉が、テリアの脳の中にあの日の記憶を蘇らせる。

 アリスティナは話を続けた。

「2人とも、王族の暗殺計画を立てていた事が発覚しました。」

「….!」


(まさか……。)

 (あの時セリウムがした質問。『毒を飲むならどっちがいい?』っていう。あれはー…。)


「1人目の時は…あっという間でした。彼は身分が致命的に低かったせいです。きちんと調べられないまま…罪は確定して刑は執行されました。」

「……。」

「2人目も、絞首刑を言い渡されました。ですが、お兄様が…ずっと、皇帝の住う宮に向かって跪き、減刑を嘆願しました。
本来なら、関わってはいけなかった。
わかってはいても。
お兄様はなりふり構って居られなかったと思います。信用して居た者が立て続けに2人ですから。」

「……。」

「明らかに、何者かに嵌められたにしても。皇帝は嵌められる者が愚かである。

そう考えている人であると知りながら。
 
下手をしたら自分が、暗殺を支持した者だと疑われかねないと知りながら。

王宮にいる殆どの者が、そんなお兄様を、愚かで皇帝の器ではないと。判断しました。 

そこで哀れに思った皇妃様が提案したのです。被害にあった第2王子宮と皇太子宮を入れ替えてはどうかと。
そこまで誠意を見せたなら、第2王子派の溜飲は幾らか治るだろうと。

お兄様は迷わず承諾しました。」




「……。そんな。…。」

「第2王子派には目は光らせていたと言うのに、何があったのか、当時はわかりませんでしたが…テリア様の話を聞く限り、信じられませんが…当時もセリウムが、直接絡んでいたのでしょうね。」



  なんて…ことを。


 なんで、そんなことを出来てしまうと言うの。


 そんな事をされた側がどんな気持ちになるのか、全く考えもしない。


 私は、誰よりも。人に濡れ衣を着せる人間を赦せはしない。   


「赦せない、そんなの赦してはならないわ。
そんな奴が皇帝になるというの?却下!却下!絶対いや!
ならカルロ皇太子の方がまし!
愚か?人の命を惜しむのが愚かだというの?今の皇帝の方が愚か者よ!!!」



  アリスティナは、テリアの言葉に薄ら涙ぐんだ。その意見を言ってくれる者は、誰1人として此処には居なかったから。でもずっと、アリスティナが1人で抱えてきた想いだった。


「テリア様、だからテリア様には誤解をしないで欲しいのです。カルロお兄様の本質を。」

「誤解?」

「カルロお兄様は、本来とても、優しいんです。とてもわかりづらいのですが。

例えば、テリア様の事を決める権限はお兄様にあります。

今テリア様がいる宮を決めたのもお兄様です。一見はテリア様に意地悪をしているかのような、ひっそり目立たぬ奥地にありますが。

権力も何も無い、発言権の弱い皇太子の妃である者が余計な視線を受けぬようにする為です。セリウムも含めて。」


 「つまり。私が余計な人に目をつけられないためにあの宮を与えられたと?

まさか。考えすぎですよそれは。今はともかく。初期はとても私を嫌っていましたし。」


「否定はしません。でも初めから嫌われるようにしていたでしょう。 
お兄様は、意図的では無かったかもしれませんが、でも無意識下で理解していました。
権力のない者が今の自分と仲良くなればどうなるのか。お兄様はわかっていたから。」

「……。」

「気を許した者が、目の前で裁かれるのを今後見なくてはならない苦痛が待っている事を知っていたから。」

「……。」

「だから、2年前からずっと。お兄様は王宮内で私以外に親しい者を作ろうとしませんでした。とてもそれが痛々しくて。だけど、私も死を待つ人間だったからこそ何も出来なくて。

最近は、また。優しく笑う瞬間も見えてきました。雰囲気も、柔らかく…。  

だから。

お兄様はきっと、皇帝になります。その時はテリア様が側に。居てあげてください。」



     


 
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