上 下
66 / 121
第1章

帰路の途中に

しおりを挟む
 第2王子の宮は敷地が広くて、来た時みたいに乗り物に乗っけてくれると助かるけれど、今の状況ではそうも言ってられなかった。

 ようやっと出口に着くとなったときの事だった、兵士が門前に立っているのが見えて、会釈してそのままでようとしたが、両サイドの肩に手を置かれそうになった。それをユラが払ってテリアを引き寄せて怒りだす。


「テリア様にお手を触れようとするとは!」


 牽制するユラに兵士は冷静に言った。

「お言葉ですが、テリア皇太子妃は、セリウム王子暴行の容疑がかかっています。」


 それを聞いてユラは手の両袖からナイフをそれぞ一本ずつ取り出した。


「下がっていてください、テリア様。」

「え?何で?私に用事があるんでしょ。この人達。暴行?ビンタした事かしら?そりゃあ誰でも叩くわよあれは。」


   騒めく兵士達。ここまで堂々と言われると、かえってテリアに得体の知れなさを感じて兵士達は後退る。

 もうユラは無心になる事にした。
 戸惑いながら兵士は言う。


「そ、その言葉ー…「何をしている。」

 兵士のテリアを掴もうとする腕を掴み、言葉を遮ったカルロが険しい目で彼等を睨んでいる。その後ろにはアレンの姿もあった。

「こ、皇太子殿下…。」

「こんな所で、おまえ達は何をしている。」

「それが…。セリウム王子に、皇太子妃が暴行を加えたようで、事のあらましを調査するため監査部の方へ連れて行かねばならなくて。」

「監査部?誰の妃と心得て、誰の許可を得てこのような事をしているのか答えろ。」

「ですが…。」

「誰の妃だと心得ている?」


  カルロの目付きの悪さと、口の悪さは、普段とはまた一味違う。
 テリアが見たこともない威圧を含んでおり、兵士はたじろぎながらも、迷いの含む手を引いた。

 その姿を一瞥して、カルロはテリアの手を掴み、その場を去ろうとしてゆく。その後ろから、アレンと、ユラも続いてくる。最後に振り返ると、兵士達の戸惑っている姿を確認した。


ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー


 テリアは黙々と歩くカルロに声をかけた。
「ねぇねぇ。何でカルロ皇太子があそこにいたの?何かセリウム王子に用事あったんじゃないの?いいの?」
「……。」
「ねぇってば。」


 そこで、やっとカルロは足を止めた。そして振り返って早々にテリアの額を突きながら言った。




「おまえ、何でわざわざセリウムの宮に行ってるんだよ!?」

「えぇ?だって…」

「おまえのいる宮はあいつと正反対の立地だろうが。」

「いや、遊びに来たの!あのセリウム王子が昨日私の所遊びに来て、明日は自分とこに遊びに来いって言うから。

それよりカルロは良いの?セリウム王子に用事じゃないの?」



「…っち。」

(なんか舌打ちされた…)



 そこへ、アレンが説明してくれた。

「皇太子はテリア様の宮に用事があって来た所、わたしが弟君の所へ行ったと報告致しましたら、血相変えて此処に走ってきたわけです。
…ていうか、何があったんですか?」

(そう言えば…何か汗で手が湿ってるわ。) 

 握られたままの手をじっと見ているテリアに気付いて、カルロは勢いよく離した。



 

しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの! 私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

処理中です...