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第2章
本殿での初夜5
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「……い」
「??」
抱きしめていた力を緩められた次の瞬間、鼻先にカルロの顔が現れた。
真剣な眼差しからは目を逸らすことなど出来ず、あまりにも強い眼光に後退りそうになるも、腰に添えられた手が離れることを許してはくれない。
風に揺られている髪が、頬をくすぐる。
「俺は、おまえを誰にも触れさせたくない」
熱を帯びた紅蓮の瞳に差し込む光が余りにも力強く印象的で、心を真っ直ぐ射抜いてくる。
(まって……何か、カルロが格好良く見える)
え?カルロってこんなのだったっけ?
私がカルロを見ていなかっただけ?初めからこんな顔してた?
いや、そもそもこんなに近くで、カルロの顔を見た事があっただろうか?
いいや無い。初めて見た時はその不遜な態度と言動が憎たらしくてしょうがなくて、全く考えたことは無かったし、出来れば見たくなかった。
ーーけれども、こうしてちゃんと見てみると凄く端正な顔立ちをしているーー
初めて会った時は確かに、怖いほど攻撃的で、突き刺してくる険しい印象しか受けなかった紅蓮の瞳だったのに。
いつの間にそうなっていたのか、今では攻撃から一転して芯から静かに、けれど強く赤く気高い光沢を放てるようになった宝石に思えた。
ーーそうか、激しい言動ばかりに目がいって、気にしたことは無かったけれど、カルロは俗に言う美形というやつだったのね。
私にとって前世で皇帝であったカルロに対する印象は全く良くなかった。外見どうこう以前の問題があった。
妹の夫だったのに、妹を守ってくれなかった。私の大切な妹を大切にしてくれなかった。
皇帝が処刑に関わっているかどうかなんて、私の立場からはわからない。
けれど確かなのは、妹を王宮で独りぼっちにして泣かせていたと言うことが、妹が大好きな姉として、どうしても許してはいけないと思っていた。
その一方で、王宮住まいが長くなるほど色んなことを知った。
この人はいつの間に、己の内に潜む激しさをコントロール出来るようになっていたんだろう。
私がここへ来て見ているだけでも、カルロの周囲は目覚ましくかわり、それはカルロが行動して得た変化ばかりだ。
カルロはいつだって、不遇過ぎる立場から取り繕う余裕もなく、己と大切なものを必死に守りたいともがいていた。
病弱で消え入りそうに儚かったアリスティナ姫を必死に守ろうとしていつも周囲に攻撃的だった。
処刑されたと言うカルロの忠臣の話を聞いたときに、その行動原理が理解できてしまった。
幼いながらに策略を巡らしてくる第2王子に処罰をくだしていた。
それだけで無く、先代皇帝と皇妃にも処罰を下して皇帝となった。
肉親でさえも、カルロにとっては切り捨てることに戸惑いはないのかと言えば、そう言うわけでもない。
カルロは暗黒竜の討伐に行く前日、私の居る離れの宮へと立ち寄って話をしにきた。
あの夜、1人では色んな感情に押し潰されそうだったからじゃないだろうか?
無事に暗黒龍を倒せたとしても、その先に見据えて居たのは血族の断罪だ。
そうしなければカルロは自分の命も大切な者達も守れなかったから。
それがどれ程重くて、辛くて不安定だったのか私には想像もつかない。
正解かどうかもわからない中、歩かなくてはならない、痛くて棘だらけの血塗られた道。
そうだ、カルロが直情的に見えたのはいつだって。
不遇過ぎる立場から取り繕う余裕もなく、己と大切なものを必死に守りたいともがいていたからだ。
ーーカルロのそんな姿が、痛々しくて、悲しくて、けれども応援したいと思えのは、いつからだったのだろう。
「おまえが好きなんだ。
だから…すまないが、約束は守れない。
俺はおまえと 離縁が出来ない」
心なしか、自分の頬が熱い。触れられているところがやけに気になる。
何かを言わないといけないと焦りがわいて、口を開こうとしているが、言うべきことが思い浮かばずにいる。
「??」
抱きしめていた力を緩められた次の瞬間、鼻先にカルロの顔が現れた。
真剣な眼差しからは目を逸らすことなど出来ず、あまりにも強い眼光に後退りそうになるも、腰に添えられた手が離れることを許してはくれない。
風に揺られている髪が、頬をくすぐる。
「俺は、おまえを誰にも触れさせたくない」
熱を帯びた紅蓮の瞳に差し込む光が余りにも力強く印象的で、心を真っ直ぐ射抜いてくる。
(まって……何か、カルロが格好良く見える)
え?カルロってこんなのだったっけ?
私がカルロを見ていなかっただけ?初めからこんな顔してた?
いや、そもそもこんなに近くで、カルロの顔を見た事があっただろうか?
いいや無い。初めて見た時はその不遜な態度と言動が憎たらしくてしょうがなくて、全く考えたことは無かったし、出来れば見たくなかった。
ーーけれども、こうしてちゃんと見てみると凄く端正な顔立ちをしているーー
初めて会った時は確かに、怖いほど攻撃的で、突き刺してくる険しい印象しか受けなかった紅蓮の瞳だったのに。
いつの間にそうなっていたのか、今では攻撃から一転して芯から静かに、けれど強く赤く気高い光沢を放てるようになった宝石に思えた。
ーーそうか、激しい言動ばかりに目がいって、気にしたことは無かったけれど、カルロは俗に言う美形というやつだったのね。
私にとって前世で皇帝であったカルロに対する印象は全く良くなかった。外見どうこう以前の問題があった。
妹の夫だったのに、妹を守ってくれなかった。私の大切な妹を大切にしてくれなかった。
皇帝が処刑に関わっているかどうかなんて、私の立場からはわからない。
けれど確かなのは、妹を王宮で独りぼっちにして泣かせていたと言うことが、妹が大好きな姉として、どうしても許してはいけないと思っていた。
その一方で、王宮住まいが長くなるほど色んなことを知った。
この人はいつの間に、己の内に潜む激しさをコントロール出来るようになっていたんだろう。
私がここへ来て見ているだけでも、カルロの周囲は目覚ましくかわり、それはカルロが行動して得た変化ばかりだ。
カルロはいつだって、不遇過ぎる立場から取り繕う余裕もなく、己と大切なものを必死に守りたいともがいていた。
病弱で消え入りそうに儚かったアリスティナ姫を必死に守ろうとしていつも周囲に攻撃的だった。
処刑されたと言うカルロの忠臣の話を聞いたときに、その行動原理が理解できてしまった。
幼いながらに策略を巡らしてくる第2王子に処罰をくだしていた。
それだけで無く、先代皇帝と皇妃にも処罰を下して皇帝となった。
肉親でさえも、カルロにとっては切り捨てることに戸惑いはないのかと言えば、そう言うわけでもない。
カルロは暗黒竜の討伐に行く前日、私の居る離れの宮へと立ち寄って話をしにきた。
あの夜、1人では色んな感情に押し潰されそうだったからじゃないだろうか?
無事に暗黒龍を倒せたとしても、その先に見据えて居たのは血族の断罪だ。
そうしなければカルロは自分の命も大切な者達も守れなかったから。
それがどれ程重くて、辛くて不安定だったのか私には想像もつかない。
正解かどうかもわからない中、歩かなくてはならない、痛くて棘だらけの血塗られた道。
そうだ、カルロが直情的に見えたのはいつだって。
不遇過ぎる立場から取り繕う余裕もなく、己と大切なものを必死に守りたいともがいていたからだ。
ーーカルロのそんな姿が、痛々しくて、悲しくて、けれども応援したいと思えのは、いつからだったのだろう。
「おまえが好きなんだ。
だから…すまないが、約束は守れない。
俺はおまえと 離縁が出来ない」
心なしか、自分の頬が熱い。触れられているところがやけに気になる。
何かを言わないといけないと焦りがわいて、口を開こうとしているが、言うべきことが思い浮かばずにいる。
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