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第1章
予感にアリスティナはカルロの過去を思い出す アリスティナside
しおりを挟む(…。あの時みたいな…不穏な雰囲気を感じる…)
雲行きの怪しい空を見上げながら
アリスティナは、久方ぶりに、思い出さないようにしていた、ある日に想いを馳せていた。
ほんの2年前のカルロの姿。
人々の嘲笑、憐み、軽視、侮蔑。その視線を一身に浴びて、皇帝の住う宮の前。
会ってもくれない皇帝の座す建物に向かい、飲まず食わずで、太陽が照りつける中、数日の間跪いていた皇太子カルロ。
その側に、元々歩けなかったアリスティナは駆け寄る事も出来ず、後に使用人の噂話で聞く事となる。
それを楽しそうに語る使用人に吐き気を覚えたのを覚えている。
あの時、元々、血筋が卑しいと言われていたカルロの権威が完全に失せた。
あの瞬間を生み出した出来事の前兆が、思えば今感じている僅かな不穏さだったのだと思う。
しかしそうまでして、カルロが無実を信じていた幼馴染みであり、友であり、腹心であった筈の部下は、カルロの行いで命を拾ったというのに、こう言い残したそうだ。
『俺ですよ。全ては俺が企てました。だから貴方の行いは全てが無駄です。罪人を生かしただけですよ。憐れな皇太子。』
その腹心だった者の言う通り、後に出てきた証拠は全て彼が犯人である事を示唆していた。
それは2人目の裏切りの裏付けだった。そしてカルロが信用している腹心の部下が裏切るのはこれが初めてではなくて。
実はこの数ヶ月前にも腹心だと思っていた部下が侵した罪により、絞首刑を言い渡されていた。
この時は証拠も不確かだけれど、王族の命を害した疑惑は身分の低い彼には重く、大した調査も行われないままに刑は執行された。
その時カルロは彼に言った。
『おまえが違うと言うのなら俺は信じる。だからちゃんと黙秘せずに否定しろ。』
しかし1人目の男は首を横に振って、カルロに言ったのだった。
『いいえ、わたしが1人で企てました。』
2人ともカルロが最も信頼していた、昔染みであり、学友であり、皇帝となった時片腕になったであろうと誰もが考えていて。
どちらも稚拙な犯行により身を滅ぼした事で、そんな人間を将来の片腕になる事を示す、側付きと言う権限を与えた皇太子カルロの人を見る目の無さと、統率できなかった手腕の無さ、そして、皇太子でありながら感情に左右され、皆の見ている中、結局は罪人だった者の為にみっともなく皇帝にすがる姿に。
王宮内は血筋も良く天才と名高い、まだ幼児である第2王子を次期皇帝にと押す声一色に変わった。
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