61 / 121
第1章
不穏な足音 ユラside
しおりを挟む
「ユラ~!聞いて聞いて聞いてよもー!」
テリアはベッドでジタバタしながら荒ぶっていた。
「どう致しました?」
「カルロ皇太子がアレンを引き抜こうとしてたのね、それをアレンが断ってる訳よ。私はそれを何にも聞いてなかったの!」
先日へこんでいた同僚を思い出して、ユラは聞いた。
「テリア様は、どちらに怒っているんですか?」
「?」
「カルロ皇太子が勝手にアレンを引き抜こうとした事ですか?
それともアレンが断った事ですか?」
「そんなの、決まってるじゃない。」
身を起こしてユラにキメ顔を向けながらテリアは言った。
「どっちもよ!」
「…つまり?」
「勝手にアレンを引き抜こうととした皇太子にまず怒ってるでしょ!」
「はい。」
「勝手にそれを断るアレンもにも怒ってるのよ!」
「引き抜かれたくないのか引き抜かれたいのかどっちですか?」
「引き抜かれたくないに決まってるでしょ。当たり前じゃない。だから皇太子に怒ってるのよ。」
「じゃあ何で断ったアレンを怒っているんですか?」
「勝手に断ったからよ。」
「勝手と言っても。引き抜かれなかったのだから良くないですか?」
「良くないわよ、何だかんだで皇太子の話は悪い物ではなかったもの。」
「……引き抜いて欲しかったんですか?」
「だから嫌よ!嫌だけど、アレンが断る前に私に相談してくれていたら、断らせなかったわ。」
(あ、これ、同僚が聞いたらさらにへこむやつだ。)
ユラは気付いた。これはアレンに聞かせない方が良い話だ。
前のテリアであれば、アレンはほっといても不死身くらいの感覚で良くも悪くも全てを任せ、多少危険でも無茶な要求もしていた。
アレンの身を案じる必要もないと言わんばかりに容赦なく接していたと思う。
それは、絶対にアレンは死なないと信頼していたからだ。
だけど、あの祠に行った事で前世について何かがわかってしまったんだろう。
今のテリア様は、アレンが危ういと感じている。テリア様だけ何かを見てしまったのかもしれない。
(それはつまり、テリア様はアレンを巻き込むのを辞めようとしている。)
この様子じゃ、そのうち子爵家へ帰すとか言いだしてしまうかも。
そうなったら、私の同僚は…うーん。想像つかない。どうするんだろう?
重症かもしれない。
「ユラ、相談したい事があるの。」
「何でしょうか?」
「実はね…やっぱりアレンは子爵家でフェリミアの側に居てくれた方が、良いと思うのよねユラはどう思う?今更だけどさ。まだフェリミアも不安定だし…」
「……。テリア様。」
「あのね、実はユラもアレンと一緒にフェリミアの側に居てくれたら私安心ー…」
「テリア様!」
ユラは言葉の続きを遮ってテリアを抱きしめた。
「それ以上言ったら私は怒りますよ。」
「ユラ、でも、でもね。聞いて。
前世でね、アレンはあの後…」
抱きしめているユラの腕を掴む。ユラの細い手が震えていることにテリアは気付いて、自分が今言ったことをがユラやアレンを傷付ける物だと思い出した。
「大丈夫です。アレンも私も死にません。お約束いたしますから。何時ものテリア様に戻ってください。
とにかく今は、何も考えないでください。」
「……ごめん。そうね。私には貴方達が必要だわ。それなのに、貴方達を傷付ける言葉を言っているわね。わかってたんだけど…。」
「……。」
震えているユラの腕の中で、テリアは頭をユラの胸にそっと預けた。
「ごめん、もう言わない。これは私の間違いだったわ。」
テリア様がこうして私達を側に置いていたのは、何も出来ずフェリミア様を助けられなかった歯痒さを誰よりも知っているから。
それが無ければ、幾ら願い出てもこの王宮に呼ばれなかったと思う。
最悪失敗しても、自分が処刑されるだけなのなら良いかと思っていたんだろう。
だけど、今はテリア様を助けようとして私達が死ぬ可能性がある事を実感してしまっている。
何とか関心を別の所に持って行かせないと。テリア様の内心が思いの外揺れている。
(私は今世でテリア様を絶対殺させない。そう決めているのよ。こんな所に1人で置いていくなんて論外だわ。)
「テリア様、気分を変えに外へ出ましょう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
王宮の庭園をテリアは気に入っていた。ユラの思った通り少し気が紛れているようだ。
「そう言えばね、ユラ、私最近、手からビーム出るようになったのよ。」
「ビーム?」
(うん、意味の分からないことを言い始めた。テリア様はそのくらいでないと逆に心配だわ。)
首を傾げているユラに、テリアは左手をかざして目を閉じた。
すると、左手の指先が光りを宿らせている。
「これは…聖なる力ですか?光ると何がおこるのですか?」
「夜中に出歩くのに便利そうってくらいかな?
ちょっと気合を込めると光るようになっちゃって。
ただ光るだけなんだけどね。でも手が光って凄くない?」
楽しそうに笑っているテリアに、先程の弱気さは感じられなかった。
ひとまずはテリアの立ち直りの早さに心の中で胸を撫で下ろすユラ。
ーーーーーー
そんなテリアとユラのやり取りを、離れた王宮の廊下で見ていた小さな人影が、柱から姿を表して、紅蓮の目を細め、呟いた。
「あれが、子爵家から来た兄上の…。」
ユラと笑い合うテリアを見て、何か思い付いたように口元が弧を描く。
「最近退屈だったけど、楽しい事思いついちゃった」
ただ、無邪気な笑顔を浮かべて、5歳の男の子は機嫌よく廊下を歩く。
セリウムのお気に入りの侍女やメイド達がセリウムに声をかけてきた。
「セリウム王子さま~、今日は隠れんぼにしますか?追いかけっこですか?」
「えへへ!じゃあおにごっこ!ほら捕まえたっ。」
メイドに抱きつくと、嬉しそうにメイド達がはしゃく声が辺りには響いた。
テリアはベッドでジタバタしながら荒ぶっていた。
「どう致しました?」
「カルロ皇太子がアレンを引き抜こうとしてたのね、それをアレンが断ってる訳よ。私はそれを何にも聞いてなかったの!」
先日へこんでいた同僚を思い出して、ユラは聞いた。
「テリア様は、どちらに怒っているんですか?」
「?」
「カルロ皇太子が勝手にアレンを引き抜こうとした事ですか?
それともアレンが断った事ですか?」
「そんなの、決まってるじゃない。」
身を起こしてユラにキメ顔を向けながらテリアは言った。
「どっちもよ!」
「…つまり?」
「勝手にアレンを引き抜こうととした皇太子にまず怒ってるでしょ!」
「はい。」
「勝手にそれを断るアレンもにも怒ってるのよ!」
「引き抜かれたくないのか引き抜かれたいのかどっちですか?」
「引き抜かれたくないに決まってるでしょ。当たり前じゃない。だから皇太子に怒ってるのよ。」
「じゃあ何で断ったアレンを怒っているんですか?」
「勝手に断ったからよ。」
「勝手と言っても。引き抜かれなかったのだから良くないですか?」
「良くないわよ、何だかんだで皇太子の話は悪い物ではなかったもの。」
「……引き抜いて欲しかったんですか?」
「だから嫌よ!嫌だけど、アレンが断る前に私に相談してくれていたら、断らせなかったわ。」
(あ、これ、同僚が聞いたらさらにへこむやつだ。)
ユラは気付いた。これはアレンに聞かせない方が良い話だ。
前のテリアであれば、アレンはほっといても不死身くらいの感覚で良くも悪くも全てを任せ、多少危険でも無茶な要求もしていた。
アレンの身を案じる必要もないと言わんばかりに容赦なく接していたと思う。
それは、絶対にアレンは死なないと信頼していたからだ。
だけど、あの祠に行った事で前世について何かがわかってしまったんだろう。
今のテリア様は、アレンが危ういと感じている。テリア様だけ何かを見てしまったのかもしれない。
(それはつまり、テリア様はアレンを巻き込むのを辞めようとしている。)
この様子じゃ、そのうち子爵家へ帰すとか言いだしてしまうかも。
そうなったら、私の同僚は…うーん。想像つかない。どうするんだろう?
重症かもしれない。
「ユラ、相談したい事があるの。」
「何でしょうか?」
「実はね…やっぱりアレンは子爵家でフェリミアの側に居てくれた方が、良いと思うのよねユラはどう思う?今更だけどさ。まだフェリミアも不安定だし…」
「……。テリア様。」
「あのね、実はユラもアレンと一緒にフェリミアの側に居てくれたら私安心ー…」
「テリア様!」
ユラは言葉の続きを遮ってテリアを抱きしめた。
「それ以上言ったら私は怒りますよ。」
「ユラ、でも、でもね。聞いて。
前世でね、アレンはあの後…」
抱きしめているユラの腕を掴む。ユラの細い手が震えていることにテリアは気付いて、自分が今言ったことをがユラやアレンを傷付ける物だと思い出した。
「大丈夫です。アレンも私も死にません。お約束いたしますから。何時ものテリア様に戻ってください。
とにかく今は、何も考えないでください。」
「……ごめん。そうね。私には貴方達が必要だわ。それなのに、貴方達を傷付ける言葉を言っているわね。わかってたんだけど…。」
「……。」
震えているユラの腕の中で、テリアは頭をユラの胸にそっと預けた。
「ごめん、もう言わない。これは私の間違いだったわ。」
テリア様がこうして私達を側に置いていたのは、何も出来ずフェリミア様を助けられなかった歯痒さを誰よりも知っているから。
それが無ければ、幾ら願い出てもこの王宮に呼ばれなかったと思う。
最悪失敗しても、自分が処刑されるだけなのなら良いかと思っていたんだろう。
だけど、今はテリア様を助けようとして私達が死ぬ可能性がある事を実感してしまっている。
何とか関心を別の所に持って行かせないと。テリア様の内心が思いの外揺れている。
(私は今世でテリア様を絶対殺させない。そう決めているのよ。こんな所に1人で置いていくなんて論外だわ。)
「テリア様、気分を変えに外へ出ましょう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
王宮の庭園をテリアは気に入っていた。ユラの思った通り少し気が紛れているようだ。
「そう言えばね、ユラ、私最近、手からビーム出るようになったのよ。」
「ビーム?」
(うん、意味の分からないことを言い始めた。テリア様はそのくらいでないと逆に心配だわ。)
首を傾げているユラに、テリアは左手をかざして目を閉じた。
すると、左手の指先が光りを宿らせている。
「これは…聖なる力ですか?光ると何がおこるのですか?」
「夜中に出歩くのに便利そうってくらいかな?
ちょっと気合を込めると光るようになっちゃって。
ただ光るだけなんだけどね。でも手が光って凄くない?」
楽しそうに笑っているテリアに、先程の弱気さは感じられなかった。
ひとまずはテリアの立ち直りの早さに心の中で胸を撫で下ろすユラ。
ーーーーーー
そんなテリアとユラのやり取りを、離れた王宮の廊下で見ていた小さな人影が、柱から姿を表して、紅蓮の目を細め、呟いた。
「あれが、子爵家から来た兄上の…。」
ユラと笑い合うテリアを見て、何か思い付いたように口元が弧を描く。
「最近退屈だったけど、楽しい事思いついちゃった」
ただ、無邪気な笑顔を浮かべて、5歳の男の子は機嫌よく廊下を歩く。
セリウムのお気に入りの侍女やメイド達がセリウムに声をかけてきた。
「セリウム王子さま~、今日は隠れんぼにしますか?追いかけっこですか?」
「えへへ!じゃあおにごっこ!ほら捕まえたっ。」
メイドに抱きつくと、嬉しそうにメイド達がはしゃく声が辺りには響いた。
0
お気に入りに追加
2,121
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる