身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第1章

アレンは処刑日前に

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 テリアは先程カルロに聞いたアレン引き抜きの話を、ユラに聞かれないよう、王宮の談話室にアレンを呼び出して問い詰める事にした。 
 
 席に座ると後ろに立つアレンの顔が見れないが、何となく気まずいのでそのままの状態で話す。


「アレン!貴方ねぇ、引き抜きの話あったなら言いなさいよ!」

「引き抜きって、別に異動でしょう。断ったし話す事もないでしょう。」

「全然違うわよ、皇太子付と、皇太子妃付では全っっ然違うけど?」

   妃の実家からただついて来た執事から、後の皇帝陛下が欲しいと言ってるんだから大出世だ。

 しかも将来罪人になるか子爵家に戻る私と、後の皇帝である皇太子ではその後の身の振り方が全く違う。

「言ったところで、さして変わらないでしょう。不都合がある訳でもないですし…」
「そんな事ない。アレン、私やユラに遠慮しないで欲しいのよ。」

  座っていた椅子をくるりと回転させて、後ろにいたアレンに向き直った。
 
「遠慮?」
「…貴方は前世でも忠誠心を示してくれた。私には過ぎたとても優秀な執事だと思っているの。」
「どうしたんですか、急に殊勝な事言って…」
「茶化さないで。
つまりね、私は貴方にもユラにも感謝しているのよ。」
「はぁ…。」
「だから…ー。出世のチャンスを掴んで欲しいの。」

  その場の空気が変わったのが分かった。アレンがテリアの言っている事を理解したからだ。

「正直に言うわ。貴方達の協力は必要としている。だけど、万一に備えて…処刑が回避出来なかった場合に備えていて欲しいの。」

「それは、皇太子側の人間になって探りを入れてテリア様が失敗した時はそのまま皇太子側に居座れと。」
「そうよ。」


  真剣な眼差しで頷いたテリアに、アレンは「はっ」と嘲笑うような声を漏らした。

「いつもそう言った事には疎いのに、急にどうしたと言うのですか?」

「そんな事も言ってられないでしょう。私は貴方達の命も預かっているのだから足りない頭を働かせるわよ。今まで考えて来なかった分。いっぱいね…。」

 前世、私は父と共に、追放され護送されている途中だった。

 妹の公開処刑を護送している兵士達の会話から聞いた。私は夜の闇に紛れて妹の所へ行こうとして、結局連れ戻されそうになった。

 そこにアレンとユラが出てきてアレンが追手を引き受けて、ユラが私を妹のいる王都まで御者から奪った馬を飛ばし、連れて行ってくれた。処刑日に間に合うように。

 アレンは後で追うと言っていた。

 そして 

 私は処刑場で妹の処刑を止めようとして殺された。
 妹は多分私の死後直ぐに処刑された。
 だけど、アレンとユラはどうなったのだろうと、ずっと思っていた。

 時が戻って、私達4人の中でユラと私と妹には前世の記憶があったのに。アレンには無かった。
 てっきりあの処刑場に居なかったせいかとも思ったけれど。何か引っかかっていた。

 結論を言うと、アレンは処刑日前に死んでしまったんじゃないだろうか。

 処刑を待たずに。私が死ぬ前に。
 
 私達一家を主人と定めたばかりに。

 先日祠の光に包まれた時、その事がふと過ぎって、そして確信した。



 アレンは、処刑日前に死んでいたから私達4人の中で1人だけ前世の記憶が無かったのだと。




「今更、何をそんなに怖がっているのか分かりませんが…。」

 椅子の手摺りに両手をついて、アレンは琥珀色の鋭い眼光でテリアを睨む。

「クビにしたいなら、此処で今すぐ死ねと命じれば良いですよ。」

「え…。」

「主人に要らないと言われるくらいなら、仕える身としてはそれしか無いでしょう。」

「いえ、そうじゃなくて、仕える主人を他にも吟味しても良いのではと言っているのよ。
アレンがその辺、器用でないのは知っているけど…。でもね。
貴方も記憶が無いとは言え人生2度目な訳だし、経験を活かした身の振り方をしても良いと思うのよ。
その…保険というか…」

「馬鹿にしてるんですか?」

「……。すみません…」

  項垂れるテリアに、アレンは片手で顔を覆って深いため息をついた。




 



 


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