56 / 121
第1章
その夜は静かだった1
しおりを挟むテリア達が帰路へついたのは、もう夕暮れ時の事で、約束した時刻ギリギリだった。
約束通り戻った事を伝えてくると、アリスティナはカルロのいる執務室へ己の足で歩いて行き、テリアは自分の宮へと戻った。
そして今、テリアは1人で夜空を見上げている。月見をしているのだ。
この日は、沢山動いたと言うのに胸がいっぱいで、晩餐は用意してもらわなかった。
夕立が降った事もあり、湿った匂いが妙に心地よく、降った後に直ぐ雲は晴れ、テラスに置いた椅子に腰掛けて見る星々が良く見えた。
「はぁ、何か力抜けた…」
まさか、寿命伸ばすどころかアリスティナ姫が立てるようになるとは思っていなかったら。
太陽神の力を痛感している。威張ってただけの事はあるなぁ。
聖女教育では戦闘要員ぽく記載されてたのに。でも、確かに文献では太陽神の記録は神々の中でも少ないから架空の妄想で書いたのかもしれない。
(最後、気を失う前、何か言ってた気がするけど…なんだっけ?まぁいっか。)
ーコンコン
開けっぱなしにした窓の内側から、部屋の戸をノックする音が聞こえた。
(何だろう?ユラとアレンはもう就寝時間だろうし…)
「入るぞ。」
その声を聞いて、首を傾げて夜空へ視線を戻す。
(空耳が聞こえてきたなぁ。今日はもう疲れてるのかも。そろそろ寝ようかなぁ。)
「返事くらいしろ。」
音もなく頭上からかけられた声に、ビクンと身体を揺らす。
ぎこちなく声のした方を向くと、部屋の蝋燭がその姿を浮き彫りにしてくれた。
紅蓮の目立つ髪と瞳が暗闇と蝋燭により影を帯びるも、哀愁漂わせながらくっきりと見える。
「カ、カルロ皇太子…。」
「おまえ、晩餐来なかったろ。
夜食と飲み物を持ってきた。」
普通に隣に座るカルロに目を瞬かせる。テラスにあるガラスの机に、サンドイッチとグラスが乗ったトレーを置かれた。
「何で知ってるんですか?」
「……。」
「このサンドイッチ晩餐の残りですか?」
「俺が物乞いのような事をするか。」
「じゃあ…使用人をこの時間に…」
「俺が作ったんだよ、良いから何か食え。おまえは肉付きが足りん。貧弱すぎて腕なんか直ぐポッキリ折れそうだ。」
「まさか、そんなエロい目で私を…!?太らせてどうするの?」
ギッと睨まれたので、揶揄うのはこのくらいにした。私もびっくりして反応に困ってるんだから許して欲しい。
わかってますよ、貴方がアリスティナ姫といたところを見たから知っていますとも。案外お兄ちゃん気質な所があることを。
「…では。いただきます。」
皿の上にあるサンドイッチに手を伸ばして、口に含むと案外美味しかった。
噛み締めている間、テリアは再び夜空を見上げているが、カルロはそんなテリアの横顔をじっと見ている。その視線が何か物言いたげで、気になる。
(何?この人何しに来たの?)
「おまえ…、アリスに何をした?」
「ご、誤解です!え!?何かありました?いや誓って何も危害を加えてません!!私ではありません!」
カルロの目を見て両手を上げると無実を必死に主張する。
「そうじゃなくて、まさか、歩けるようになって帰ってくるとは…」
(ぁあ、そっちか。びっくりした。今まで尋問される問いかけしか来なかったし。)
1人で納得して満足しているテリアの様子に、カルロは続けた。
「アリスに聞いても、詳細がわからなかった。気付いたらこうなっていたと」
そう、今回参加したメンバーにはお互い何があったかは心の内に秘めておこうと言う事になったのだ。
アリスティナ姫はたまたま、遠出をきっかけに歩けるようになった事にしようと。
あの獣人の隠れ里を守る為に必要な事だから。情報は一切漏らさないと決めた。
「さぁ、私もびっくりしました。こんな事って有るんですね。」
優しい風が髪を揺らす中、テリアが自然と笑みを浮かべて言うと、カルロはそれ以上追求する事を辞めたのか、グラスにボトルの中身を注いでいく。
「ワインだ。おまえも飲むか?」
「…い、いえ。」
実はアルコールを飲んだ事がないので妙な苦手意識がある。カルロは「そうか。じゃあそっちのお茶でも飲んどけ」と言って別に注いでくれた。
今日は機嫌が良いのかもしれない。そりゃアリスティナ姫が歩けるようになったもんね。
テンションMAXなのかな…。
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる