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第1章
その夜は静かだった1
しおりを挟むテリア達が帰路へついたのは、もう夕暮れ時の事で、約束した時刻ギリギリだった。
約束通り戻った事を伝えてくると、アリスティナはカルロのいる執務室へ己の足で歩いて行き、テリアは自分の宮へと戻った。
そして今、テリアは1人で夜空を見上げている。月見をしているのだ。
この日は、沢山動いたと言うのに胸がいっぱいで、晩餐は用意してもらわなかった。
夕立が降った事もあり、湿った匂いが妙に心地よく、降った後に直ぐ雲は晴れ、テラスに置いた椅子に腰掛けて見る星々が良く見えた。
「はぁ、何か力抜けた…」
まさか、寿命伸ばすどころかアリスティナ姫が立てるようになるとは思っていなかったら。
太陽神の力を痛感している。威張ってただけの事はあるなぁ。
聖女教育では戦闘要員ぽく記載されてたのに。でも、確かに文献では太陽神の記録は神々の中でも少ないから架空の妄想で書いたのかもしれない。
(最後、気を失う前、何か言ってた気がするけど…なんだっけ?まぁいっか。)
ーコンコン
開けっぱなしにした窓の内側から、部屋の戸をノックする音が聞こえた。
(何だろう?ユラとアレンはもう就寝時間だろうし…)
「入るぞ。」
その声を聞いて、首を傾げて夜空へ視線を戻す。
(空耳が聞こえてきたなぁ。今日はもう疲れてるのかも。そろそろ寝ようかなぁ。)
「返事くらいしろ。」
音もなく頭上からかけられた声に、ビクンと身体を揺らす。
ぎこちなく声のした方を向くと、部屋の蝋燭がその姿を浮き彫りにしてくれた。
紅蓮の目立つ髪と瞳が暗闇と蝋燭により影を帯びるも、哀愁漂わせながらくっきりと見える。
「カ、カルロ皇太子…。」
「おまえ、晩餐来なかったろ。
夜食と飲み物を持ってきた。」
普通に隣に座るカルロに目を瞬かせる。テラスにあるガラスの机に、サンドイッチとグラスが乗ったトレーを置かれた。
「何で知ってるんですか?」
「……。」
「このサンドイッチ晩餐の残りですか?」
「俺が物乞いのような事をするか。」
「じゃあ…使用人をこの時間に…」
「俺が作ったんだよ、良いから何か食え。おまえは肉付きが足りん。貧弱すぎて腕なんか直ぐポッキリ折れそうだ。」
「まさか、そんなエロい目で私を…!?太らせてどうするの?」
ギッと睨まれたので、揶揄うのはこのくらいにした。私もびっくりして反応に困ってるんだから許して欲しい。
わかってますよ、貴方がアリスティナ姫といたところを見たから知っていますとも。案外お兄ちゃん気質な所があることを。
「…では。いただきます。」
皿の上にあるサンドイッチに手を伸ばして、口に含むと案外美味しかった。
噛み締めている間、テリアは再び夜空を見上げているが、カルロはそんなテリアの横顔をじっと見ている。その視線が何か物言いたげで、気になる。
(何?この人何しに来たの?)
「おまえ…、アリスに何をした?」
「ご、誤解です!え!?何かありました?いや誓って何も危害を加えてません!!私ではありません!」
カルロの目を見て両手を上げると無実を必死に主張する。
「そうじゃなくて、まさか、歩けるようになって帰ってくるとは…」
(ぁあ、そっちか。びっくりした。今まで尋問される問いかけしか来なかったし。)
1人で納得して満足しているテリアの様子に、カルロは続けた。
「アリスに聞いても、詳細がわからなかった。気付いたらこうなっていたと」
そう、今回参加したメンバーにはお互い何があったかは心の内に秘めておこうと言う事になったのだ。
アリスティナ姫はたまたま、遠出をきっかけに歩けるようになった事にしようと。
あの獣人の隠れ里を守る為に必要な事だから。情報は一切漏らさないと決めた。
「さぁ、私もびっくりしました。こんな事って有るんですね。」
優しい風が髪を揺らす中、テリアが自然と笑みを浮かべて言うと、カルロはそれ以上追求する事を辞めたのか、グラスにボトルの中身を注いでいく。
「ワインだ。おまえも飲むか?」
「…い、いえ。」
実はアルコールを飲んだ事がないので妙な苦手意識がある。カルロは「そうか。じゃあそっちのお茶でも飲んどけ」と言って別に注いでくれた。
今日は機嫌が良いのかもしれない。そりゃアリスティナ姫が歩けるようになったもんね。
テンションMAXなのかな…。
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