54 / 121
第1章
己の足 アリスティナside
しおりを挟むいつの間にか私は意識を手放していたようだった。
気付けば目蓋を閉じていた事で視界は暗闇。
せっかくワクワクしていたのに、勿体ない。まだまだ冒険の序盤だったと思う。
今私は何をしているのだろう。そのアレン様が抱えてくれてる?
いや、この土と草の匂い。地面にうつ伏せに横たわってるみたい。
あの後みんなに何かあったのかな?
テリア様は無事に祠を脱出できたのかな?
耳を澄ませるとみんなの呼吸音が聞こえてくるので、胸を撫で下ろした。
(良かった。皆近くにいる。)
体勢がうつ伏せなのは苦しいので、目を開けると体勢を整えようとしたその瞬間、身体の違和感に気が付いた。
腕にいつもより全然力が入る。普段なら腕で身体を起こすまでは出来ない。仰向けになる位だ。
だけど、いま、私はうつ伏せの状態から腕の力によりその身を起こした。
そして何より、失っていた筈の足の感覚があるのを感じた。
(いやまさか…そんな。だって。聖水でもそんな…)
まさかと思うのに、私は試したかった。
恐る恐る、感覚を動かしてみると先ずは膝が地面について、目を見開いた。
「…ー…」
胸が高鳴るとはこういう事だろう。私は今。こんなにも期待して胸が高鳴るのを抑えられない。
期待したらダメ、そんな話聞いた事がない。
聖水を毎日飲んで延命出来るかどうかなのにその上
だけどもし、奇跡があったなら。
ドキン…ドキン…
「……っ。」
先ずは、右足からー…
ジャリ…
足で地面を踏む音に、視線を下に向けた。
理屈ではあり得ないと思っていた。だけど胸の高鳴りはさらに膨らむ。だって地面を踏む感触もするのだ。
私の右足は今、私の意思で、私が思ったから。今地面を踏んでいる。
深呼吸する間もなく、焦る心は左足も動かして、私の視界は私の身長分高くなり、その瞬間。
一陣の風が私の髪とスカートを揺らした。
ただ唖然とする。
人が居なくては移動もままならない日々が脳裏をよぎる。出来るだけ身動きせずに。迷惑をかけるから。これ以上嫌われたくないから。
私は、 私はー…
「ご無事でしたか!アリスティ…ナ姫様…」
横から声をかけてきたユラ様と、後ろにいるアレン様は驚いた顔をして私を見ている。
「アリスティナ…姫?」
そして私の後ろから私にいつも奇跡をもたらしてくれた彼女の声がした。
足を動かして、身体ごと後ろへと振り向いた先には、目を覚まし身を起こしたばかりの体勢で私を見上げて同じく唖然としているテリア様がいる。
「…アリスティナ姫が…自力で立っている?」
フワフワとした様子で佇むその姿に、テリアはやっと目が覚めて来るようだった。
アリスティナ姫の瞳から、歓喜する感情が抑えられないかの如く、その美しくも愛らしい赤い瞳からすぅっと一筋の涙が伝う。
それを見た瞬間、テリアの胸にも込み上げるものが抑えきれずに、瞳いっぱいにたまったもので視界が滲む。
ずっと車椅子に乗っているか、誰かに抱えられてないと姿勢保持も難しいほど足の動かなかったアリスティナ姫が今。
確かに自らの足で立っていた。
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。
しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」
卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。
その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。
損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。
オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。
どうしてこんなことに……。
なんて言うつもりはなくて、国外追放?
計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね!
では、皆様ごきげんよう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる