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第1章
己の足 アリスティナside
しおりを挟むいつの間にか私は意識を手放していたようだった。
気付けば目蓋を閉じていた事で視界は暗闇。
せっかくワクワクしていたのに、勿体ない。まだまだ冒険の序盤だったと思う。
今私は何をしているのだろう。そのアレン様が抱えてくれてる?
いや、この土と草の匂い。地面にうつ伏せに横たわってるみたい。
あの後みんなに何かあったのかな?
テリア様は無事に祠を脱出できたのかな?
耳を澄ませるとみんなの呼吸音が聞こえてくるので、胸を撫で下ろした。
(良かった。皆近くにいる。)
体勢がうつ伏せなのは苦しいので、目を開けると体勢を整えようとしたその瞬間、身体の違和感に気が付いた。
腕にいつもより全然力が入る。普段なら腕で身体を起こすまでは出来ない。仰向けになる位だ。
だけど、いま、私はうつ伏せの状態から腕の力によりその身を起こした。
そして何より、失っていた筈の足の感覚があるのを感じた。
(いやまさか…そんな。だって。聖水でもそんな…)
まさかと思うのに、私は試したかった。
恐る恐る、感覚を動かしてみると先ずは膝が地面について、目を見開いた。
「…ー…」
胸が高鳴るとはこういう事だろう。私は今。こんなにも期待して胸が高鳴るのを抑えられない。
期待したらダメ、そんな話聞いた事がない。
聖水を毎日飲んで延命出来るかどうかなのにその上
だけどもし、奇跡があったなら。
ドキン…ドキン…
「……っ。」
先ずは、右足からー…
ジャリ…
足で地面を踏む音に、視線を下に向けた。
理屈ではあり得ないと思っていた。だけど胸の高鳴りはさらに膨らむ。だって地面を踏む感触もするのだ。
私の右足は今、私の意思で、私が思ったから。今地面を踏んでいる。
深呼吸する間もなく、焦る心は左足も動かして、私の視界は私の身長分高くなり、その瞬間。
一陣の風が私の髪とスカートを揺らした。
ただ唖然とする。
人が居なくては移動もままならない日々が脳裏をよぎる。出来るだけ身動きせずに。迷惑をかけるから。これ以上嫌われたくないから。
私は、 私はー…
「ご無事でしたか!アリスティ…ナ姫様…」
横から声をかけてきたユラ様と、後ろにいるアレン様は驚いた顔をして私を見ている。
「アリスティナ…姫?」
そして私の後ろから私にいつも奇跡をもたらしてくれた彼女の声がした。
足を動かして、身体ごと後ろへと振り向いた先には、目を覚まし身を起こしたばかりの体勢で私を見上げて同じく唖然としているテリア様がいる。
「…アリスティナ姫が…自力で立っている?」
フワフワとした様子で佇むその姿に、テリアはやっと目が覚めて来るようだった。
アリスティナ姫の瞳から、歓喜する感情が抑えられないかの如く、その美しくも愛らしい赤い瞳からすぅっと一筋の涙が伝う。
それを見た瞬間、テリアの胸にも込み上げるものが抑えきれずに、瞳いっぱいにたまったもので視界が滲む。
ずっと車椅子に乗っているか、誰かに抱えられてないと姿勢保持も難しいほど足の動かなかったアリスティナ姫が今。
確かに自らの足で立っていた。
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