53 / 121
第1章
限られた灯の先に2
しおりを挟む
…ヒタ…ヒタ…ヒタヒタ。
ゆっくり、でも確実にその足音は近付いている。
どうにかして板に書いた暗号文を一刻も早く解かなければと古代聖書文字で綴られたそれを、睨みつけら勢いで暗号が書かれた板を眺める。後ろのヒタ…ヒタ…の音が凄く気になるけど、それはうちの執事と侍女に任せた。
(ていうか、私が見たところでやっぱ何書いてるかわからない。)
「アリスティナひ…め。」
アリスティナ姫に解読を手伝ってもらおうと後ろを振り向くと、アレンに抱えられていた筈のアリスティナの身体が宙に浮いて、目を閉じている。
「え…と。どういう状況?」
テリアの声に応えるように、アリスティナの薄く開いた口からアリスティナとは違う声が話しかけてきた。
[古代聖書の文字は古代に生きていた者のための物。
それを犯して此処に入る者は其方達で500年ぶりか。]
女の声でも、男の声でもない。言えば天から聞こえてくる声のように語りかけてくる。
「あ…アリスティナ姫じゃ、無いですよね?貴方は誰ですか?」
[我の名は太陽神アルテミス。天地を繋ぐ神獣ケミストロフィアに呼ばれて此処へ来た。]
(知らない名前が2つ出てきた…覚えられるかな…覚えなくちゃだよね多分。)
「ケミストロ?と言うのはどなたでしょうか?」
[其方達を此処まで導いたものだ。ほら、そこに。]
先程からヒタヒタと足音がしていた暗闇から、蝋燭の灯った場所まで来て、その姿をようやく現した。
「にゃお。」
「ね…こ?猫がケミストロフィア?」
王宮に来た初期から殆ど一緒にいた猫がそうだと言わんばかりに鳴いた。そうか、この猫、名前付けようとしても何時も首を横に振るから付けるの諦めてたけど、本当の名前があったんだね。…ケミストロ…フィア?
何か呼びにくいから今後も猫で良いか。
[天地の神獣は我の友。友は目ぼしい人間を見つけては何故か此処へ連れてきて願いを叶えさせようとする。500年前も然り、そして今日も。
この娘の命を延命したい…と聞いたが。まことか?]
「そ、そうなんです。その為に聖水を作れるようになりたいのです。」
[…それは何故だ?]
「何故って…私がアリスティナ姫に生きていて欲しいからです。」
[成る程、やはりまた浅慮な人間を連れてきたか。]
…おかしい。神だと言うのに何かこの太陽神、アレンくらい腹立つかもしれない。でも何とか聖水貰わなきゃだし我慢をしよう。
「そうなんです。もし、試練をクリアできれば聖水が作れると聞いたので…ー。」
「聖水は水神の分野だな。そんなもの我には無関係だ。」
「……。じゃあ、その…貴方様は何用でここに?」
[これだから愚かな人間と話すと疲れるのだ。わざわざ我を呼びつけるのでどんな人間を見つけたかと思えば。察しの悪さは歴代1だな。]
分からないのは私だけでは無い筈だ。そう反論したいが、堪えているところにアレンが答えた。
「聖なる力を使える聖女候補はこの場でテリア様のみ。神獣がわざわざ神様に引き合わせたと言う事は聖女になれる見込みが充分にある。
しかしテリア様の適性が水神様ではなく、太陽神様なのですね。」
[そうだ。おまえは幾らかマシだな。全く。聖女は知性や品格も必要と人間の世界では言われてるのだろう?大丈夫なのか?]
「本当に…同感です。」
何か同類同士のアレンと太陽神様で意気投合し始めてる予感がする…。
王宮帰ったらもう今まで以上に勉強してやる。いつかこいつらに私の底力見せつけてギャフンと言わせてやる。
「わ、私は別に聖女になりたい訳じゃないんです。聖水に関係ない神様の力で聖女になっても全く嬉しくないです!」
[ぁあん?貴様我の力がよりにもよって水神以下と申しておるのか?]
何か…段々ガラ悪い感じになってる…。アリスティナ姫の姿でそんな言葉遣いしないで頂きたい…。神様相手に言えないけど。
「そういう訳じゃ無くてですね。私の目的はアリスティナ姫の延命に必要な…毎日飲める聖水を作れるようになる事なんです!」
[はん!要するに、この娘を常人のように天寿を全うさせたいという事だろう?]
「そうです!太陽神様は攻撃力特化型と聖女教育で習いましたので…今回の私の願いには答えられないかと。」
[これだから知性のない聖女は嫌なのだ。神の序列は天に近い程上であるとは習わなかったのか?]
「習いました。」
[ならばわかるだろう!我は神の頂点に立つ神の中の神だ!]
言ってる事が知らない人が聞くとまるで14才前後の子供みたいだ。
話せば話すほど神様っぽさが抜けていくのに。確かに太陽神様はまさかの神様の頂点なんですよね。本当に世の中何があるか分からないです。
「故に、水神に出来る事が我に出来ぬ筈がないのだ!!」
「でも、聖水は無理じゃないですか。」
[やかましい。結果が勝れば良いだろう。我に力を欲するのならば膝まずけ。]
この人は本当に神様なのだろうか。独裁政治をしている王みたいな態度だ。
だけど、確かに神々の序列一位の太陽神様に不可能な事は無い気がしてきた。
テリアは土下座の姿勢をとって、地面に頭を擦り付けた。
「力を貸してください!太陽神様!何でも試練を超えてみせますから、だから…」
[そんな面倒な事はせん。おまえの聖なる力は企画外な事くらい一眼見たらわかる。数千の年月を経てやっと我の力を御せる聖女を見つけたるはケミストロフィアの功績としておこうではないか。]
「え?」
[テリア・ロナンテス 汝、太陽神アルテミスの名に置いて此処に聖女の称号を与える。我は癒し、照らし、浄化せし天地の力をかの者に授けよう。]
初めて見た神様は、かなりマイペースなお方で、訳も分かっていない最中、アリスティナを中心に皆が目を開けられない程の強い光が放たれ、その光によって視界は白一色になったのに、テリアは目を閉じる事なくただ光の先を見て右手を無意識に伸ばした。
すると、手の甲に光が吸い込まれて、光の文字が刻まれてゆく。
[我力の偉大さにせいぜい、崇め奉れよ。愚かな人間テリアよ。]
耳元で声がしたかと思うと、まるで自分はやる事やったから天に帰ると言わんばかりに、何かが天に帰っていく気配がした。
ゆっくり、でも確実にその足音は近付いている。
どうにかして板に書いた暗号文を一刻も早く解かなければと古代聖書文字で綴られたそれを、睨みつけら勢いで暗号が書かれた板を眺める。後ろのヒタ…ヒタ…の音が凄く気になるけど、それはうちの執事と侍女に任せた。
(ていうか、私が見たところでやっぱ何書いてるかわからない。)
「アリスティナひ…め。」
アリスティナ姫に解読を手伝ってもらおうと後ろを振り向くと、アレンに抱えられていた筈のアリスティナの身体が宙に浮いて、目を閉じている。
「え…と。どういう状況?」
テリアの声に応えるように、アリスティナの薄く開いた口からアリスティナとは違う声が話しかけてきた。
[古代聖書の文字は古代に生きていた者のための物。
それを犯して此処に入る者は其方達で500年ぶりか。]
女の声でも、男の声でもない。言えば天から聞こえてくる声のように語りかけてくる。
「あ…アリスティナ姫じゃ、無いですよね?貴方は誰ですか?」
[我の名は太陽神アルテミス。天地を繋ぐ神獣ケミストロフィアに呼ばれて此処へ来た。]
(知らない名前が2つ出てきた…覚えられるかな…覚えなくちゃだよね多分。)
「ケミストロ?と言うのはどなたでしょうか?」
[其方達を此処まで導いたものだ。ほら、そこに。]
先程からヒタヒタと足音がしていた暗闇から、蝋燭の灯った場所まで来て、その姿をようやく現した。
「にゃお。」
「ね…こ?猫がケミストロフィア?」
王宮に来た初期から殆ど一緒にいた猫がそうだと言わんばかりに鳴いた。そうか、この猫、名前付けようとしても何時も首を横に振るから付けるの諦めてたけど、本当の名前があったんだね。…ケミストロ…フィア?
何か呼びにくいから今後も猫で良いか。
[天地の神獣は我の友。友は目ぼしい人間を見つけては何故か此処へ連れてきて願いを叶えさせようとする。500年前も然り、そして今日も。
この娘の命を延命したい…と聞いたが。まことか?]
「そ、そうなんです。その為に聖水を作れるようになりたいのです。」
[…それは何故だ?]
「何故って…私がアリスティナ姫に生きていて欲しいからです。」
[成る程、やはりまた浅慮な人間を連れてきたか。]
…おかしい。神だと言うのに何かこの太陽神、アレンくらい腹立つかもしれない。でも何とか聖水貰わなきゃだし我慢をしよう。
「そうなんです。もし、試練をクリアできれば聖水が作れると聞いたので…ー。」
「聖水は水神の分野だな。そんなもの我には無関係だ。」
「……。じゃあ、その…貴方様は何用でここに?」
[これだから愚かな人間と話すと疲れるのだ。わざわざ我を呼びつけるのでどんな人間を見つけたかと思えば。察しの悪さは歴代1だな。]
分からないのは私だけでは無い筈だ。そう反論したいが、堪えているところにアレンが答えた。
「聖なる力を使える聖女候補はこの場でテリア様のみ。神獣がわざわざ神様に引き合わせたと言う事は聖女になれる見込みが充分にある。
しかしテリア様の適性が水神様ではなく、太陽神様なのですね。」
[そうだ。おまえは幾らかマシだな。全く。聖女は知性や品格も必要と人間の世界では言われてるのだろう?大丈夫なのか?]
「本当に…同感です。」
何か同類同士のアレンと太陽神様で意気投合し始めてる予感がする…。
王宮帰ったらもう今まで以上に勉強してやる。いつかこいつらに私の底力見せつけてギャフンと言わせてやる。
「わ、私は別に聖女になりたい訳じゃないんです。聖水に関係ない神様の力で聖女になっても全く嬉しくないです!」
[ぁあん?貴様我の力がよりにもよって水神以下と申しておるのか?]
何か…段々ガラ悪い感じになってる…。アリスティナ姫の姿でそんな言葉遣いしないで頂きたい…。神様相手に言えないけど。
「そういう訳じゃ無くてですね。私の目的はアリスティナ姫の延命に必要な…毎日飲める聖水を作れるようになる事なんです!」
[はん!要するに、この娘を常人のように天寿を全うさせたいという事だろう?]
「そうです!太陽神様は攻撃力特化型と聖女教育で習いましたので…今回の私の願いには答えられないかと。」
[これだから知性のない聖女は嫌なのだ。神の序列は天に近い程上であるとは習わなかったのか?]
「習いました。」
[ならばわかるだろう!我は神の頂点に立つ神の中の神だ!]
言ってる事が知らない人が聞くとまるで14才前後の子供みたいだ。
話せば話すほど神様っぽさが抜けていくのに。確かに太陽神様はまさかの神様の頂点なんですよね。本当に世の中何があるか分からないです。
「故に、水神に出来る事が我に出来ぬ筈がないのだ!!」
「でも、聖水は無理じゃないですか。」
[やかましい。結果が勝れば良いだろう。我に力を欲するのならば膝まずけ。]
この人は本当に神様なのだろうか。独裁政治をしている王みたいな態度だ。
だけど、確かに神々の序列一位の太陽神様に不可能な事は無い気がしてきた。
テリアは土下座の姿勢をとって、地面に頭を擦り付けた。
「力を貸してください!太陽神様!何でも試練を超えてみせますから、だから…」
[そんな面倒な事はせん。おまえの聖なる力は企画外な事くらい一眼見たらわかる。数千の年月を経てやっと我の力を御せる聖女を見つけたるはケミストロフィアの功績としておこうではないか。]
「え?」
[テリア・ロナンテス 汝、太陽神アルテミスの名に置いて此処に聖女の称号を与える。我は癒し、照らし、浄化せし天地の力をかの者に授けよう。]
初めて見た神様は、かなりマイペースなお方で、訳も分かっていない最中、アリスティナを中心に皆が目を開けられない程の強い光が放たれ、その光によって視界は白一色になったのに、テリアは目を閉じる事なくただ光の先を見て右手を無意識に伸ばした。
すると、手の甲に光が吸い込まれて、光の文字が刻まれてゆく。
[我力の偉大さにせいぜい、崇め奉れよ。愚かな人間テリアよ。]
耳元で声がしたかと思うと、まるで自分はやる事やったから天に帰ると言わんばかりに、何かが天に帰っていく気配がした。
0
お気に入りに追加
2,121
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる