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第1章

限られた灯の先に2

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…ヒタ…ヒタ…ヒタヒタ。

 ゆっくり、でも確実にその足音は近付いている。
 どうにかして板に書いた暗号文を一刻も早く解かなければと古代聖書文字で綴られたそれを、睨みつけら勢いで暗号が書かれた板を眺める。後ろのヒタ…ヒタ…の音が凄く気になるけど、それはうちの執事と侍女に任せた。
 
(ていうか、私が見たところでやっぱ何書いてるかわからない。)

「アリスティナひ…め。」

 アリスティナ姫に解読を手伝ってもらおうと後ろを振り向くと、アレンに抱えられていた筈のアリスティナの身体が宙に浮いて、目を閉じている。
 
「え…と。どういう状況?」

 テリアの声に応えるように、アリスティナの薄く開いた口からアリスティナとは違う声が話しかけてきた。


[古代聖書の文字は古代に生きていた者のための物。
それを犯して此処に入る者は其方達で500年ぶりか。]

 女の声でも、男の声でもない。言えば天から聞こえてくる声のように語りかけてくる。
 
「あ…アリスティナ姫じゃ、無いですよね?貴方は誰ですか?」

 [我の名は太陽神アルテミス。天地を繋ぐ神獣ケミストロフィアに呼ばれて此処へ来た。]


 (知らない名前が2つ出てきた…覚えられるかな…覚えなくちゃだよね多分。)

「ケミストロ?と言うのはどなたでしょうか?」

[其方達を此処まで導いたものだ。ほら、そこに。]


 先程からヒタヒタと足音がしていた暗闇から、蝋燭の灯った場所まで来て、その姿をようやく現した。
 
「にゃお。」

「ね…こ?猫がケミストロフィア?」

 王宮に来た初期から殆ど一緒にいた猫がそうだと言わんばかりに鳴いた。そうか、この猫、名前付けようとしても何時も首を横に振るから付けるの諦めてたけど、本当の名前があったんだね。…ケミストロ…フィア?
 何か呼びにくいから今後も猫で良いか。

[天地の神獣は我の友。友は人間を見つけては何故か此処へ連れてきて願いを叶えさせようとする。500年前も然り、そして今日も。

この娘の命を延命したい…と聞いたが。まことか?]

「そ、そうなんです。その為に聖水を作れるようになりたいのです。」
[…それは何故だ?]
「何故って…私がアリスティナ姫に生きていて欲しいからです。」
[成る程、やはりまた浅慮な人間を連れてきたか。]

 …おかしい。神だと言うのに何かこの太陽神、アレンくらい腹立つかもしれない。でも何とか聖水貰わなきゃだし我慢をしよう。

「そうなんです。もし、試練をクリアできれば聖水が作れると聞いたので…ー。」
「聖水は水神の分野だな。そんなもの我には無関係だ。」
「……。じゃあ、その…貴方様は何用でここに?」
[これだから愚かな人間と話すと疲れるのだ。わざわざ我を呼びつけるのでどんな人間を見つけたかと思えば。察しの悪さは歴代1だな。]

 分からないのは私だけでは無い筈だ。そう反論したいが、堪えているところにアレンが答えた。

「聖なる力を使える聖女候補はこの場でテリア様のみ。神獣がわざわざ神様に引き合わせたと言う事は聖女になれる見込みが充分にある。
しかしテリア様の適性が水神様ではなく、太陽神様なのですね。」
[そうだ。おまえは幾らかマシだな。全く。聖女は知性や品格も必要と人間の世界では言われてるのだろう?大丈夫なのか?]
「本当に…同感です。」

 何か同類同士のアレンと太陽神様で意気投合し始めてる予感がする…。
 王宮帰ったらもう今まで以上に勉強してやる。いつかこいつらに私の底力見せつけてギャフンと言わせてやる。

「わ、私は別に聖女になりたい訳じゃないんです。聖水に関係ない神様の力で聖女になっても全く嬉しくないです!」
[ぁあん?貴様我の力がよりにもよって水神以下と申しておるのか?]

 何か…段々ガラ悪い感じになってる…。アリスティナ姫の姿でそんな言葉遣いしないで頂きたい…。神様相手に言えないけど。

「そういう訳じゃ無くてですね。私の目的はアリスティナ姫の延命に必要な…毎日飲める聖水を作れるようになる事なんです!」
[はん!要するに、この娘を常人のように天寿を全うさせたいという事だろう?]
「そうです!太陽神様は攻撃力特化型と聖女教育で習いましたので…今回の私の願いには答えられないかと。」
[これだから知性のない聖女は嫌なのだ。神の序列は天に近い程上であるとは習わなかったのか?]
「習いました。」
[ならばわかるだろう!我は神の頂点に立つ神の中の神だ!]

   言ってる事が知らない人が聞くとまるで14才前後の子供みたいだ。

 話せば話すほど神様っぽさが抜けていくのに。確かに太陽神様はまさかの神様の頂点なんですよね。本当に世の中何があるか分からないです。

「故に、水神に出来る事が我に出来ぬ筈がないのだ!!」
「でも、聖水は無理じゃないですか。」
[やかましい。結果が勝れば良いだろう。我に力を欲するのならば膝まずけ。]

 この人は本当に神様なのだろうか。独裁政治をしている王みたいな態度だ。
 だけど、確かに神々の序列一位の太陽神様に不可能な事は無い気がしてきた。
 
 テリアは土下座の姿勢をとって、地面に頭を擦り付けた。

「力を貸してください!太陽神様!何でも試練を超えてみせますから、だから…」
[そんな面倒な事はせん。おまえの聖なる力は企画外な事くらい一眼見たらわかる。数千の年月を経てやっと我の力を御せる聖女を見つけたるはケミストロフィアの功績としておこうではないか。]
「え?」



[テリア・ロナンテス 汝、太陽神アルテミスの名に置いて此処に聖女の称号を与える。我は癒し、照らし、浄化せし天地の力をかの者に授けよう。]

 初めて見た神様は、かなりマイペースなお方で、訳も分かっていない最中、アリスティナを中心に皆が目を開けられない程の強い光が放たれ、その光によって視界は白一色になったのに、テリアは目を閉じる事なくただ光の先を見て右手を無意識に伸ばした。

 すると、手の甲に光が吸い込まれて、光の文字が刻まれてゆく。

わが力の偉大さにせいぜい、崇め奉れよ。愚かな人間テリアよ。]
 

 耳元で声がしたかと思うと、まるで自分はやる事やったから天に帰ると言わんばかりに、何かが天に帰っていく気配がした。


 
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