身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第1章

聖女の祠2

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 2人に反対されて、テリアは考えこむように目を閉じて折り曲げた人差し指を唇にあてて5秒静止した後、良い考えが浮かんだかのように目をパチリと開けて、祠の入り口と言われる空洞に2段の石垣を踏みしめて進む。

「テリア様?」

 ユラの疑問符を浮かべた声に、空洞に踏み込んだあと上下左右を見渡して祠に入る為のスイッチが無いか探しはじめていたテリアは振り向いた。

「ちゃんと適当じゃ無くて考えたよ!考えてみたら祠の試練を受けてみる価値があると思ったの!」

 ニコニコしながら、再度祠に入る為のスイッチ探しに戻ったテリアにアレンの口元が引きつる。

「…〝考えたら祠に入って良いですよ〟って意味じゃ無いんですけど。どんだけプラス思考に解釈してくれてんですか?(しかも数秒程度で考えたとか子供の理屈か。)」
 
 ハラハラと事の成り行きを見ていたアリスティナは、慌ててアレンの腕から身を乗り出しテリアを止めようと声を上げた。

「テリア様、今日頂いた聖水で幾らか元気が出ました。これでまた暫くは私の身体はもつでしょう。村の様子も見れてとても楽しかったです!
わざわざ危険を犯してまで聖水を作らずとも、外に出た甲斐は充分にありました! 
そろそろ帰らなければ、カルロお兄様と約束した夕暮れに間に合いませんし、もう、帰りましょう。」


  石垣の下からテリアを見上げているアリスティナ姫の表情はいつもの穏やかなものとは違って、必死さが滲んでいた。興奮しているのか頬が少し赤くなり、一気に捲し立てた事で肩で息をしている。
 そんな姿に、テリアは尚更に決意を固くした。

(興奮しても、体調を崩される様子がない。あんなに体力のない方が慣れない土地に来て数時間経つと言うのに…やっぱり聖水はアリスティナ姫を生かす事が出来る力を持ってる。)

「では、アリスティナ姫ご自身で聖水を手に入れるために手を伸ばしてみますか?」
「え?」
「聖なる力が使え無ければ祠に入れない訳ではないですから。
聖なる力を使わなければ、試練が現れないだけです。
皆んなで一緒に行けばちょっとした冒険みたいで、この中に何があるのかワクワクしませんか?」
「…そ、それは…あの。」

 〝冒険〟という言葉にいたく魅力を感じているのか、アリスティナは真っ赤になった両頬を両手で押さえて、猫耳をピコピコさせ始めた。
 テリアはニヤリと笑って追い討ちをかける。

「いいですか、アリスティナ姫。冒険には何時も危険は付きもの何です。危険だからドキドキ、ハラハラ、ワクワクするのです。
安全だけの人生なんかつまりません。そんな安全な人生が良いなら外に出たいとアリスティナ姫は望まなかったのでは無いですか?」

「ー…そ、そうですが…。」

「1人の冒険は心細くて、危険なだけにも思えるかも知れませんが、そこは安心してください。私がご一緒します!誰かと冒険するという事は色々と分かち合えるのです。」

「…テリア様…」

「分かち合えるとはつまり!背負う危険は半分こされます。2人で冒険したら危険は1/2!さぁ、どうですか?」

 最後の言葉にすかさずアレンは突っ込みを入れた。
「そんなこじつけみたいな分け方ある訳ないですよね。危険なもんな何分割しても危険です。」


「ちょっとアレンは黙ってて。今アリスティナ姫に聞いてるの。」



 
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