46 / 121
第1章
アレンの過去3 アレンside
しおりを挟む
テリア様が入った時に、その男はテリア様の容姿を覚えていたのか、わたしに気付くことなく再び慌てふためいて膝跨いだ。
「その節は、本当に、本当にお見苦しい所を見せて、またあろう事か御身を…誠に、誠に申し訳ございませんでした!まさかお貴族様があの場にいらっしゃるとは…っ」
「ちがう。」
「へ?」
「アレンなの。アレンにあやまって。」
男はわたしの姿に目を瞬かせる。そりゃあ分からないだろう。あのガリガリの見窄らしい子供が、衣食住保証された場所で貴族に仕える為の教育を受けた。
身嗜みも整っている。
男はわたしをジッと見上げて、そして瞳の色を見て思い出したのか、震える声で呟いた。
「まさか、あの時の…。」
「ぇえ。」
「な、なんで…、え?」
それはわたしにも、分からない。貴族の執事や侍女は育ちの良い家から見繕う。だけど男から見た私はただの孤児、物乞いとしか思っていなかっただろう。
上流階級の専属執事は普通身元のしっかりした中流階級から選出されるはずなのに。
つまり男が散々蹴飛ばした相手が上の立場になって現れてしまった。
「す、すみませんでした!
申し訳ありませんでした!!どうか、子供と妻が居るんです!どうか許してください!」
…立場が変わっただけで、こうも変わるのか。
反吐が出る。険しい表情になった私を見て、テリア様が言った。
「アレンもこのひとける! おもいっきり!いっぱい!それでおあいこ!」
ニコニコと無邪気な顔しているけど、わたしにはテリア様が考えている事が全く分からない。物凄くキラキラした目を向けてくるが、返って蹴り辛い。
因みに混血種と人のクオーターのわたしは、並の獣人よりも身体能力が高い。思いっきり蹴ったらこの男は良くて骨折。悪くて死ぬだろう。
まぁ、テリア様には弟とどう言う関係かも言ってないし、聞いてこないから知らないのかもだけど。
「…いえ、もう気が治りました。こんな汚い店にテリアお嬢様が長居する必要はありません。行きましょう。」
「えー。」
(…めちゃくちゃ残念そう。)
名残惜しそうにしているテリアの背中を押して店を出る。
「…なんで、こんな事を?」
「?なんで?」
「こんな…わたしを執事にして…ていうか今のはなんですか?」
「だって、あのときアレン〝たすけて〟って言ってないてた。」
「わたしが?」
「うん、くやしい、やりかえしたい。たすけてって。」
「……。」
「スッキリした?」
「いえ、あんまり…いやまぁ、はい少しは」
そう答えると、テリア様は悪戯をしてやったかのように、ニッと満面の笑みを浮かべた。まるで〝私も〟と言ってるみたいだった。テリア様も、弟の死に憤り、あたり処を探していたのかもしれない。何故かそう思った。
それが正しいとかそうでないとか、どうでも良かった。
でも、『助けて』と言ったわたしの心に気付いて助けてくれる人が居るとは思わなかったから。心から弟の死を悼んでくれる人が自分の他に居ると思っていなかったから。
その時不覚にも泣き出してしまった。テリアお嬢様は急な事で慌てふためいていたっけ。
彼女は今まで会ってきた人間の中で、変わった人で、この先も彼女ほど変わった人は見ないだろう。
それから、わたしはパーティーに連れて行かれるたびに引き抜きをしたいと言う話を幾つかいただいたが、お嬢様のいる子爵家の執事をやめる事は無かった。
いつか、お嬢様が〝助けて〟と言ったとき。
どんな事でも助けようと誓いを立てて居るのは、此処だけの話。
「その節は、本当に、本当にお見苦しい所を見せて、またあろう事か御身を…誠に、誠に申し訳ございませんでした!まさかお貴族様があの場にいらっしゃるとは…っ」
「ちがう。」
「へ?」
「アレンなの。アレンにあやまって。」
男はわたしの姿に目を瞬かせる。そりゃあ分からないだろう。あのガリガリの見窄らしい子供が、衣食住保証された場所で貴族に仕える為の教育を受けた。
身嗜みも整っている。
男はわたしをジッと見上げて、そして瞳の色を見て思い出したのか、震える声で呟いた。
「まさか、あの時の…。」
「ぇえ。」
「な、なんで…、え?」
それはわたしにも、分からない。貴族の執事や侍女は育ちの良い家から見繕う。だけど男から見た私はただの孤児、物乞いとしか思っていなかっただろう。
上流階級の専属執事は普通身元のしっかりした中流階級から選出されるはずなのに。
つまり男が散々蹴飛ばした相手が上の立場になって現れてしまった。
「す、すみませんでした!
申し訳ありませんでした!!どうか、子供と妻が居るんです!どうか許してください!」
…立場が変わっただけで、こうも変わるのか。
反吐が出る。険しい表情になった私を見て、テリア様が言った。
「アレンもこのひとける! おもいっきり!いっぱい!それでおあいこ!」
ニコニコと無邪気な顔しているけど、わたしにはテリア様が考えている事が全く分からない。物凄くキラキラした目を向けてくるが、返って蹴り辛い。
因みに混血種と人のクオーターのわたしは、並の獣人よりも身体能力が高い。思いっきり蹴ったらこの男は良くて骨折。悪くて死ぬだろう。
まぁ、テリア様には弟とどう言う関係かも言ってないし、聞いてこないから知らないのかもだけど。
「…いえ、もう気が治りました。こんな汚い店にテリアお嬢様が長居する必要はありません。行きましょう。」
「えー。」
(…めちゃくちゃ残念そう。)
名残惜しそうにしているテリアの背中を押して店を出る。
「…なんで、こんな事を?」
「?なんで?」
「こんな…わたしを執事にして…ていうか今のはなんですか?」
「だって、あのときアレン〝たすけて〟って言ってないてた。」
「わたしが?」
「うん、くやしい、やりかえしたい。たすけてって。」
「……。」
「スッキリした?」
「いえ、あんまり…いやまぁ、はい少しは」
そう答えると、テリア様は悪戯をしてやったかのように、ニッと満面の笑みを浮かべた。まるで〝私も〟と言ってるみたいだった。テリア様も、弟の死に憤り、あたり処を探していたのかもしれない。何故かそう思った。
それが正しいとかそうでないとか、どうでも良かった。
でも、『助けて』と言ったわたしの心に気付いて助けてくれる人が居るとは思わなかったから。心から弟の死を悼んでくれる人が自分の他に居ると思っていなかったから。
その時不覚にも泣き出してしまった。テリアお嬢様は急な事で慌てふためいていたっけ。
彼女は今まで会ってきた人間の中で、変わった人で、この先も彼女ほど変わった人は見ないだろう。
それから、わたしはパーティーに連れて行かれるたびに引き抜きをしたいと言う話を幾つかいただいたが、お嬢様のいる子爵家の執事をやめる事は無かった。
いつか、お嬢様が〝助けて〟と言ったとき。
どんな事でも助けようと誓いを立てて居るのは、此処だけの話。
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる