45 / 121
第1章
アレンの過去2 アレンside
しおりを挟む
わたしが次に目を覚ました時、弟は治療を受けていた。
この頃数こそ少ないが、子爵領には獣人が奴隷ではなく民として、普通に存在していた。その獣人達と、人の医者が協力して懸命に世話をしてくれていた。
その中に、あの小さな少女がいた。
村まで降りてきて、わたしと弟に良いのではと言う薬草を摘んできたりしていた。
彼女はテリア・ロナンテス。この子爵領の令嬢だと人伝に聞いた。想像していた上流階級の令嬢と違って、彼女は下層階級に混ざって行動をしている。その家族は顔を見せる様子はないが、家族揃って温厚な方々らしい。
わたしを拾った時は、親戚のパーティーからテリア様が抜け出していたそうで、だからその場にそぐわないドレスを着ていたのだと判明するのはまた後の事。
だがやはりどんなに無難な服でも、つぎはぎの無く小綺麗な様は、下層階級の中では光っているように見えた。
その瞳に宿る黄金色の瞳は、真っ直ぐで。
だけど、弟は皆の手当ての甲斐もなく、数週間後にこときれた。
墓の前で座るわたしの後ろで、テリア様が泣いていた。
「何で、見ず知らずの他人である貴方が泣くんですか?」
「そんなの。かなしいからっ。…っ!
だって、だってわたしのいもうとが、しんじゃったらてかんがえっ。ウェェェン!!!
アレンがなかないからぁっ!なんでぇぇぇ。」
大きな声で年相応に泣いているテリア様を見て、わたしの瞳からも涙が溢れてきた。もうこんなに素直に泣かないと思っていたのに。
心の中には小さな弟が『お腹すいたよ。お兄ちゃん。』『寒いよ。お兄ちゃん』そう言って、小さい身体を必死にくっつけて、わたしにしがみついていた。
見るからに獣人である弟を持って、煩わしく無かったと言ったらそれは嘘だ。
人間のフリをしていた方が、ただの奴隷や乞食だとしても何倍も生きやすい。
だけど、それでもやっぱり、守りたかったのだ。
守れるだけの力が欲しいと思った。でもこの世は生まれながらに既に運命が決められていた。
わたしが弟の為に出来る事は跪いて慈悲を乞う事だけだ。
この先、ずっと。1人でそう言う世の中で生きて行くのかと絶望した。もう守るものもない。
何も、ない。
それから3日間。行く宛のないわたしは弟の墓の前で座り続けた。
この領地の者達は優しくて、皆がチラホラと声を掛けてくれた。食事の心配をしてくれた。
だけど、もう遅いんだ。
助けて欲しい時に、欲しい言葉が無くて弟は手遅れになったのだから。
「アレン、わたしといもうとのしつじにきまったの。」
ある夕暮れ時の事、墓の前に座るわたしの横に立ってテリア様が言った。
正直何を言っているかわからない。
(しつじって言うのは、執事のことか?いや幻聴か。)
「何かの…ごっこあそびなら…他のものに頼んでください。」
「ここにいるひと、わたしのいえにおかねはらってる。
でもアレンはらってない。」
そう言われるとぐうの音も出ない。
(…テリア様って、もしかしてかなり頭が良いのか?)
「…働けと。…そうですね。もっともです。分かりました。」
この時既にわたしには、生きる為に働く気力は残っていなかった。そろそろこの地を去ろう。そして迷惑のかからない所でのたれ死のうとさえ思っていた所だ。
テリアは首を横にフルフル振って、にこりと笑う。
「めいれいなの!
アレンきょうからわたしのしつじなの!」
「ん?」
ボンヤリしていると、テリアの後ろから後の同僚となるユラと言う少女がわたしの腕を捻り上げる勢いで掴んで馬車に放り込んだ。
それからと言うもの、何ら説明もなく、逆らう気力もないわたしは言われるままに教育を数ヶ月に渡り受けた。
そして、テリア様はわたしを拾った店先へ連れてきた。
「此処で、何をする気ですか?」
「ふくしゅう!アレン、おこっていい。ここのひとアレンたちをけった。だからアレンもけっていい!」
「はい?」
この頃数こそ少ないが、子爵領には獣人が奴隷ではなく民として、普通に存在していた。その獣人達と、人の医者が協力して懸命に世話をしてくれていた。
その中に、あの小さな少女がいた。
村まで降りてきて、わたしと弟に良いのではと言う薬草を摘んできたりしていた。
彼女はテリア・ロナンテス。この子爵領の令嬢だと人伝に聞いた。想像していた上流階級の令嬢と違って、彼女は下層階級に混ざって行動をしている。その家族は顔を見せる様子はないが、家族揃って温厚な方々らしい。
わたしを拾った時は、親戚のパーティーからテリア様が抜け出していたそうで、だからその場にそぐわないドレスを着ていたのだと判明するのはまた後の事。
だがやはりどんなに無難な服でも、つぎはぎの無く小綺麗な様は、下層階級の中では光っているように見えた。
その瞳に宿る黄金色の瞳は、真っ直ぐで。
だけど、弟は皆の手当ての甲斐もなく、数週間後にこときれた。
墓の前で座るわたしの後ろで、テリア様が泣いていた。
「何で、見ず知らずの他人である貴方が泣くんですか?」
「そんなの。かなしいからっ。…っ!
だって、だってわたしのいもうとが、しんじゃったらてかんがえっ。ウェェェン!!!
アレンがなかないからぁっ!なんでぇぇぇ。」
大きな声で年相応に泣いているテリア様を見て、わたしの瞳からも涙が溢れてきた。もうこんなに素直に泣かないと思っていたのに。
心の中には小さな弟が『お腹すいたよ。お兄ちゃん。』『寒いよ。お兄ちゃん』そう言って、小さい身体を必死にくっつけて、わたしにしがみついていた。
見るからに獣人である弟を持って、煩わしく無かったと言ったらそれは嘘だ。
人間のフリをしていた方が、ただの奴隷や乞食だとしても何倍も生きやすい。
だけど、それでもやっぱり、守りたかったのだ。
守れるだけの力が欲しいと思った。でもこの世は生まれながらに既に運命が決められていた。
わたしが弟の為に出来る事は跪いて慈悲を乞う事だけだ。
この先、ずっと。1人でそう言う世の中で生きて行くのかと絶望した。もう守るものもない。
何も、ない。
それから3日間。行く宛のないわたしは弟の墓の前で座り続けた。
この領地の者達は優しくて、皆がチラホラと声を掛けてくれた。食事の心配をしてくれた。
だけど、もう遅いんだ。
助けて欲しい時に、欲しい言葉が無くて弟は手遅れになったのだから。
「アレン、わたしといもうとのしつじにきまったの。」
ある夕暮れ時の事、墓の前に座るわたしの横に立ってテリア様が言った。
正直何を言っているかわからない。
(しつじって言うのは、執事のことか?いや幻聴か。)
「何かの…ごっこあそびなら…他のものに頼んでください。」
「ここにいるひと、わたしのいえにおかねはらってる。
でもアレンはらってない。」
そう言われるとぐうの音も出ない。
(…テリア様って、もしかしてかなり頭が良いのか?)
「…働けと。…そうですね。もっともです。分かりました。」
この時既にわたしには、生きる為に働く気力は残っていなかった。そろそろこの地を去ろう。そして迷惑のかからない所でのたれ死のうとさえ思っていた所だ。
テリアは首を横にフルフル振って、にこりと笑う。
「めいれいなの!
アレンきょうからわたしのしつじなの!」
「ん?」
ボンヤリしていると、テリアの後ろから後の同僚となるユラと言う少女がわたしの腕を捻り上げる勢いで掴んで馬車に放り込んだ。
それからと言うもの、何ら説明もなく、逆らう気力もないわたしは言われるままに教育を数ヶ月に渡り受けた。
そして、テリア様はわたしを拾った店先へ連れてきた。
「此処で、何をする気ですか?」
「ふくしゅう!アレン、おこっていい。ここのひとアレンたちをけった。だからアレンもけっていい!」
「はい?」
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる