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第1章
獣人の隠れ里6 アレンside
しおりを挟むテリアが村長と話している時、用意された椅子に座りながらアリスティナとユラは楽しそうに談笑していた。
その様子を、横目で見ながらも、アレンは聞き耳をたてるも部屋の中の会話は聞こえてこない。
(成る程な。そりゃそうか、獣人が作った部屋だ。防音は完璧か。)
話が長期化しそうとの事で、此処まで連れて来てくれた犬の獣人が話しかけてくる。
「お待ち頂いている間、村の様子でも見ませんか?」
随分と人の良さそうな顔をしている獣人は、窓の外を見て目をキラキラさせているアリスティナに視線を向けて気を使ってくれたようだった。
「…、ですが、テリア様のお側を離れる訳には…。」
「アレン、今その役は私がやるわ。
何かあったらすぐに呼ぶから。
この外出はアリスティナ姫様に外界を楽しんでもらうのが目的だもの。テリア様の優先事項は私達の優先事項。」
ユラではアリスティナを長時間抱えるのは無理と判断しての役割分担を理解すると、アレンはため息を堪えてアリスティナを抱えて立ち上がる。
「では、お言葉に甘えて行きましょうか。アリスティナ姫様。」
「良いのですか?」
「はい、アリスティナ姫様は同い年くらいの獣人の子に会うのは初めてでしょう。お話ししてみてはどうですか?」
(混血種とは注意深く臭いを嗅がれない限り誰も気づかないだろう…。問題はわたしが近くに居ても獣人の子がよってくるか…だけどな。)
猫耳の反応から言ってとても喜んでいる様子なので、一先ず村の中を、親切な犬の獣人が案内してくれる事になった。
最初は娘や息子達がアリスティナと歳が近いと言うことで、犬の獣人の家に行くと、確かに明るくて活発な犬の子供達が家にいて、懐っこいのかアリスティナの艶々髪に感動しながら話しかけてくる。
アレンはアリスティナを椅子に座らせて、その様子を遠目で見ていた。
獣人は人と違って単純な者が多い。それぞれの獣の特性はあるものの、小狡い事は考えない。
きっとこの中で平穏に生きて行けたなら、アリスティナにとっては王宮にいるよりも、良いものなのだと思えた。
(だが、それは無理な話か…。)
子供達は、アリスティナに見せたい所があると言うので、アレンが抱えて子供達の後ろからついて行く。
田んぼの横にある河原には、黄色の花をつけたルメールの木というものが、蕾を開いて川辺沿いに咲き乱れていた。少し特殊な匂いで、獣人が好みそうなものだった。
子供達が川にいる魚をとってくれると、駆け込む背中を見て、アリスティナは言う。
「…人はどうして、獣人を嫌うのでしょうね。私がその血を持つせいか、分かりません。」
それは、ホロリとこぼした本音だろうことは直ぐにわかった。
「さぁ、恐れもあるんじゃないですかね。
自分達よりも身体能力のあり、人間並みの思考力もある。
従えてないと、逆に自分達が奴隷にされる日が来るのではと。」
「アレン様は人の気持ちが良くわかるのですね。」
「まぁ、人ですから。」
「…ー、そうですか…
それは…テリア様にもそう言って居るのですか?」
アリスティナの問いかけに、アレンは花びらの散りゆく様を眺めていた視線を、片腕に抱えたアリスティナにおとした。
時が、一瞬止まった気がした。
「…ばれた事は、無いのですけれど。」
「私は鼻が効きすぎますし、こうして抱えられて居ると分かってしまいますよ。
ですが、言ってはならない事だったのですね。気をつけます。」
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