上 下
39 / 121
第1章

獣人の隠れ里2 アレンside

しおりを挟む



 わたしのお仕えしている主人、テリアお嬢様は良くも悪くも予測不可能なお人だ。

 何を考えているのか分からないし、長年仕えて居ても予想が追いつかない時が未だにある。

 正直、今回のアリスティナ姫との外出は反対だった。
 わたしの最優先事項はテリアお嬢様の身の安全であり、その為には王宮の側で仕える必要があると熟慮を重ねて出した結論により此処にいるからだ。

 アリスティナ姫の寝顔を横目で見ながら、昨日アレンが反対した時のテリアの言葉を思い出す。

『でもね、アレン。

その存在を知ってしまった今では、
貴方が1番、アリスティナ姫様を放って置いた事に心を痛めると思うのよ。違う?』


(獣人にして、人の国の姫…誰が手助けしようと幸せになどなれないだろう結末は見えている。)




 この世界は人の定めた階級社会で成り立っている。主に上流階級、中流階級、下層階級。下層階級でも社会階級は何段階かに分かれているが、だいたいは普通の平民だ。貧困層はそのうち30%いると言う。

 けれども、その貧困層よりも下の階級にいるのが、獣人で、人に飼われた獣人は言わば人では無く物。奴隷となる。

 だから獣人は基本、人前には出て来ない。

 テリアお嬢様のいた子爵領は王都から遠く離れた田舎も田舎。ど田舎だったからこそ実現出来た獣人にとっての夢の世界だと言う事をテリアお嬢様は知らない。

 わたしの仕えていた子爵家には2人のご息女がおり、それぞれ似た容姿をしていても中身は全く正反対と言われていた。

 妹君であるフェリミア様は田舎子爵家と言えども、王都に出ても遜色無いお方で、幼い頃から勤勉で聡明にして慈悲深きご令嬢。貴族の何たるかを心得ており、この世の決まりや規律の重みをきちんと理解している、貴族令嬢の模範其の物のようなお方だ。
 だからこそ、その行動の原理は理解出来て予想が付きやすく仕えていて心地良かったし、仕事がやりやすかった。

 対してテリア様は、幼い頃から子爵家を抜け出して村の子と共に駆けずり回って遊ぶわ、隠れんぼが上手過ぎて夜遅くまで帰ってこないで屋敷が大騒ぎになるわ、お稽古や勉学よりも好きな小説を読みふけったり、庭先で虫を飼い始めて奥様存命の際は散々叱られているわで。

 目を離すと直ぐに消えるので、仕事は増えるしお陰で減給された事があるしで、仕えにくい。
 
 要するにただの変わり者と皆からは思われていた。

 だけど、テリアお嬢様は何処か憎めない。

 寧ろ皆から慕われていた。

 その理由は分からなくはない。
 テリアお嬢様は良くも悪くも、階級や種族関係なく相手と対等だと言う価値観で動いて居る。それはお嬢様が上流階級に生まれながらも、家族に恵まれており現実を見たことがない故の事だとは分かっているが、そんなお方を嫌う使用人は少ないだろう。

 だが、テリアお嬢様はそれ故に貴族としてやって行くのに苦労するのではと、皆が心配していた。

 そんな矢先にテリアお嬢様が王宮に上がる事になってしまったのだから、皆の驚きは想像に難くないだろう。
 わたしもあの時、かなり肝を冷やしたものだ。テリアお嬢様には今まで散々肝を冷やされてきたが、人生ワースト3に入るくらいは肝が冷えた。

 因みに今回アリスティナ姫と外出すると決めた時はそのワースト3の中に入る。


(こんな世界で、獣人の姫が何故誕生されてしまったのか…悲劇としか言いようが無いな…。)

 そう、テリアお嬢様はこの世界で変人と言われる部類だが、それに付き従い、手を貸したいと思っているわたしは、それを間違いだとは思った事は無いのだ。

 なんせ、わたしもかつて、その変人と揶揄される行為に助けられた1人なのだから。


 そんな世間知らずのテリアお嬢様に王宮の誰かが嘘を吹き込み罠を張って居る可能性を考えて、今から行く獣人の隠れ里は誰から聞いたものなのかを念のため確認したところ。


「まさか、テリアお嬢様はその猫が言葉を話したと言ってます?」

「そんな訳ないじゃない!」

「ですよね。安心しました。」

「私が猫の言葉を分かるようになって来たのよ。まだ単語少しだけど。

やっぱり言語を覚えるのは大切なのよね!」



(やっぱりただの変人かもしれない。)

 やはり、この主人の考えている事は、本当に分からない。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

見えるんです!!〜私の世界は少し複雑です!〜

ハルン
恋愛
こんにちは! 私の名前は、マリオン。 戦争孤児として、5歳から孤児院で過ごして来た16歳!見た目や性格、名前のせいで男子に間違われる事も多いけど、歴とした女子です。 そんな私には、誰にも言えない秘密がある。 一つは、前世の記憶がある事。 私は、前世では23歳のOLだった。最後は、車に轢かれそうになっていた子供を助けて死んでしまったけれど。 もう一つは、『見える』事。 前世での私は、所謂幽霊などが見える霊感少女だった。そんな他とは違う所があったが、人生に不満は無かった。 だけどーー。 「いや、おかしいでしょ!!何で、さらに『見える』様になってるの!?」 転生して、どうやら能力がグレードアップしたらしい。 幽霊に始まり、精霊やら悪魔、果てには精霊王や神様まで『見える』様になってしまいました。 第二の人生、無事に過ごせるのか?

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...