36 / 121
第1章
義妹とお出掛けする事にしました7
しおりを挟むカルロはそう言って白淵の紺色マントをバサリと翻して背を向け、歩いて行った。
否、行こうとした。
しかし、マントが何かに引っ張られたので振り返ると、其処には信じられない事にテリアがマントを掴んでいた。
周りの侍女や執事は一様にギョッとした顔をして、アリスティナでさえ唖然とした顔をしている。
無礼な事をしてしまっている自覚は当のテリアにさえあった。
「…おまえ、何やってる?」
「え、いや何か。握手のために差し出したのに行き場を失った手が勝手に…」
「…意味の分からない言い訳をしないで本題を話せ。あと、マントを離せ。」
カルロにそう言われて、惚けた顔をしていたテリアはマントから手を離した。
「あ、ごめんね。なんかマント掴んじゃって。
いや違くて…本当に良いの?アリスティナ姫を私達だけに託して。」
言い出しておきながら、驚いて素になってしまったテリアの口調はもはやタメ口だが、それは気に止める様子もなくカルロは鼻を鳴らした。
「…下手に俺の使用人をつけた所で、アリスの負担にしかならない。
手の空いている使用人の中で、アリスのパーソナルスペースに近付いてもアリスの体調に差し障り無いのは。この場でおまえの従者だけだ。
なら、仕方がないだろう。」
眉間にしわを寄せて、自分の周りの従者を見渡す。それぞれが、額に汗を流しながら視線を伏せ恐縮している。
その姿を見て、カルロが苛立っているのが伝わってきた。
「皇太子殿下はアリスティナ様が心配なのですよね?
ご一緒に行かなくて良いのですか?」
「…ー。俺が行ったら…」
モゴモゴとしている様子に、本当は行きたいが、カルロなりに空気を読んで行くのを遠慮しようとしているのが伺える。
「一緒に行きたいのなら行きましょう。皇太子殿下はどうしたいのですか?」
ジッとカルロの目を真っ直ぐに見据えて、心の奥底を探るようなテリアの視線をうけて、頬を赤くしたカルロは何故か誤魔化すように顔を背ける。
「お…俺はっ、忙しいんだよ。但し、アリスのパーソナルスペースに入らない範囲で護衛はつけるからな!」
「…意地をはっておりませんか?」
「は、はってるわけないだろ!なんで俺が…っ!」
さっきまで、すかした顔して『夕刻までに戻れ』と言ってたのはカッコつけていただけな事はわかったが、これ以上何か言ってもカルロは意地を張るだけだろうと思えたテリアは、それ以上追求するのをやめた。
「ー…わかりました。では、夕刻までには帰りますので。」
「…ぁあ、後で馬車を用意させる。それで行け。」
(…アリスティナ姫が絡むと急に優しくなるわね。いや、私も気持ちは分かるけどね?)
カルロの親切な申し出に訝しげに眉を潜ていると、後ろからアレンの咳払いが小さく聞こえてきたので、我に帰ったテリアは慌てて頭を下げた。
「身に余る光栄、有難う存じます。皇太子殿下。」
その様子を眺めていたカルロは目に入ってきたアレンに視線を向けた。
「…貴様、もしや。
子爵家でテリアの身の回りの世話をしていたとか言うアレンとか言う名の執事か?
発言を許す、簡潔に答えよ。」
急なカルロの問いかけに、動じた様子を見せずにアレンは答えた。
「…御前での発言をお許し頂き、恐悦至極にございます。
お初にお目に掛かります。テリア妃殿下幼年の頃よりお仕えして参りました。
アレンと申します。」
質問されているアレンよりも、動揺の見え隠れする驚いた表情のカルロに、テリアは小首を傾げて聞いた。
「アレンがどうかしましたか?」
「いや、俺はもっと年寄りを想像して…は?
若すぎないか?アレン、貴様歳は幾つだ?」
その質問にテリアはクスクスと吹き出してしまった。
「〝若すぎないか〟って、皇太子殿下より年上ですよぉ~」
「おまえは黙っていろ、話が進まない。答えろアレン。貴様、歳は幾つだ?」
「…?現在16歳でございます。
今年で17歳となります。」
0
お気に入りに追加
2,115
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。
しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」
卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。
その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。
損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。
オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。
どうしてこんなことに……。
なんて言うつもりはなくて、国外追放?
計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね!
では、皆様ごきげんよう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる