身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
上 下
36 / 121
第1章

義妹とお出掛けする事にしました7

しおりを挟む


 カルロはそう言って白淵の紺色マントをバサリと翻して背を向け、歩いて行った。

 否、行こうとした。

  しかし、マントが何かに引っ張られたので振り返ると、其処には信じられない事にテリアがマントを掴んでいた。
 周りの侍女や執事は一様にギョッとした顔をして、アリスティナでさえ唖然とした顔をしている。
 無礼な事をしてしまっている自覚は当のテリアにさえあった。

「…おまえ、何やってる?」

「え、いや何か。握手のために差し出したのに行き場を失った手が勝手に…」

「…意味の分からない言い訳をしないで本題を話せ。あと、マントを離せ。」

 カルロにそう言われて、惚けた顔をしていたテリアはマントから手を離した。

「あ、ごめんね。なんかマント掴んじゃって。

いや違くて…本当に良いの?アリスティナ姫を私達だけに託して。」

 言い出しておきながら、驚いて素になってしまったテリアの口調はもはやタメ口だが、それは気に止める様子もなくカルロは鼻を鳴らした。
 

「…下手に俺の使用人をつけた所で、アリスの負担にしかならない。

手の空いている使用人の中で、アリスのパーソナルスペースに近付いてもアリスの体調に差し障り無いのは。この場でおまえの従者だけだ。

なら、仕方がないだろう。」

 眉間にしわを寄せて、自分の周りの従者を見渡す。それぞれが、額に汗を流しながら視線を伏せ恐縮している。
 その姿を見て、カルロが苛立っているのが伝わってきた。



「皇太子殿下はアリスティナ様が心配なのですよね?
ご一緒に行かなくて良いのですか?」

「…ー。俺が行ったら…」

 モゴモゴとしている様子に、本当は行きたいが、カルロなりに空気を読んで行くのを遠慮しようとしているのが伺える。

「一緒に行きたいのなら行きましょう。皇太子殿下はどうしたいのですか?」

 ジッとカルロの目を真っ直ぐに見据えて、心の奥底を探るようなテリアの視線をうけて、頬を赤くしたカルロは何故か誤魔化すように顔を背ける。

「お…俺はっ、忙しいんだよ。但し、アリスのパーソナルスペースに入らない範囲で護衛はつけるからな!」

「…意地をはっておりませんか?」

「は、はってるわけないだろ!なんで俺が…っ!」

 さっきまで、すかした顔して『夕刻までに戻れ』と言ってたのはカッコつけていただけな事はわかったが、これ以上何か言ってもカルロは意地を張るだけだろうと思えたテリアは、それ以上追求するのをやめた。

「ー…わかりました。では、夕刻までには帰りますので。」


「…ぁあ、後で馬車を用意させる。それで行け。」

 (…アリスティナ姫が絡むと急に優しくなるわね。いや、私も気持ちは分かるけどね?)

 カルロの親切な申し出に訝しげに眉を潜ていると、後ろからアレンの咳払いが小さく聞こえてきたので、我に帰ったテリアは慌てて頭を下げた。

「身に余る光栄、有難う存じます。皇太子殿下。」

 その様子を眺めていたカルロは目に入ってきたアレンに視線を向けた。

「…貴様、もしや。 
子爵家でテリアの身の回りの世話をしていたとか言うアレンとか言う名の執事か?
発言を許す、簡潔に答えよ。」

 急なカルロの問いかけに、動じた様子を見せずにアレンは答えた。

「…御前での発言をお許し頂き、恐悦至極にございます。

お初にお目に掛かります。テリア妃殿下幼年の頃よりお仕えして参りました。
アレンと申します。」

 質問されているアレンよりも、動揺の見え隠れする驚いた表情のカルロに、テリアは小首を傾げて聞いた。

「アレンがどうかしましたか?」

「いや、俺はもっと年寄りを想像して…は?
若すぎないか?アレン、貴様歳は幾つだ?」

 その質問にテリアはクスクスと吹き出してしまった。

「〝若すぎないか〟って、皇太子殿下より年上ですよぉ~」

「おまえは黙っていろ、話が進まない。答えろアレン。貴様、歳は幾つだ?」

「…?現在16歳でございます。
今年で17歳となります。」


 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...