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第1章
義妹とお出掛けする事にしました7
しおりを挟むカルロはそう言って白淵の紺色マントをバサリと翻して背を向け、歩いて行った。
否、行こうとした。
しかし、マントが何かに引っ張られたので振り返ると、其処には信じられない事にテリアがマントを掴んでいた。
周りの侍女や執事は一様にギョッとした顔をして、アリスティナでさえ唖然とした顔をしている。
無礼な事をしてしまっている自覚は当のテリアにさえあった。
「…おまえ、何やってる?」
「え、いや何か。握手のために差し出したのに行き場を失った手が勝手に…」
「…意味の分からない言い訳をしないで本題を話せ。あと、マントを離せ。」
カルロにそう言われて、惚けた顔をしていたテリアはマントから手を離した。
「あ、ごめんね。なんかマント掴んじゃって。
いや違くて…本当に良いの?アリスティナ姫を私達だけに託して。」
言い出しておきながら、驚いて素になってしまったテリアの口調はもはやタメ口だが、それは気に止める様子もなくカルロは鼻を鳴らした。
「…下手に俺の使用人をつけた所で、アリスの負担にしかならない。
手の空いている使用人の中で、アリスのパーソナルスペースに近付いてもアリスの体調に差し障り無いのは。この場でおまえの従者だけだ。
なら、仕方がないだろう。」
眉間にしわを寄せて、自分の周りの従者を見渡す。それぞれが、額に汗を流しながら視線を伏せ恐縮している。
その姿を見て、カルロが苛立っているのが伝わってきた。
「皇太子殿下はアリスティナ様が心配なのですよね?
ご一緒に行かなくて良いのですか?」
「…ー。俺が行ったら…」
モゴモゴとしている様子に、本当は行きたいが、カルロなりに空気を読んで行くのを遠慮しようとしているのが伺える。
「一緒に行きたいのなら行きましょう。皇太子殿下はどうしたいのですか?」
ジッとカルロの目を真っ直ぐに見据えて、心の奥底を探るようなテリアの視線をうけて、頬を赤くしたカルロは何故か誤魔化すように顔を背ける。
「お…俺はっ、忙しいんだよ。但し、アリスのパーソナルスペースに入らない範囲で護衛はつけるからな!」
「…意地をはっておりませんか?」
「は、はってるわけないだろ!なんで俺が…っ!」
さっきまで、すかした顔して『夕刻までに戻れ』と言ってたのはカッコつけていただけな事はわかったが、これ以上何か言ってもカルロは意地を張るだけだろうと思えたテリアは、それ以上追求するのをやめた。
「ー…わかりました。では、夕刻までには帰りますので。」
「…ぁあ、後で馬車を用意させる。それで行け。」
(…アリスティナ姫が絡むと急に優しくなるわね。いや、私も気持ちは分かるけどね?)
カルロの親切な申し出に訝しげに眉を潜ていると、後ろからアレンの咳払いが小さく聞こえてきたので、我に帰ったテリアは慌てて頭を下げた。
「身に余る光栄、有難う存じます。皇太子殿下。」
その様子を眺めていたカルロは目に入ってきたアレンに視線を向けた。
「…貴様、もしや。
子爵家でテリアの身の回りの世話をしていたとか言うアレンとか言う名の執事か?
発言を許す、簡潔に答えよ。」
急なカルロの問いかけに、動じた様子を見せずにアレンは答えた。
「…御前での発言をお許し頂き、恐悦至極にございます。
お初にお目に掛かります。テリア妃殿下幼年の頃よりお仕えして参りました。
アレンと申します。」
質問されているアレンよりも、動揺の見え隠れする驚いた表情のカルロに、テリアは小首を傾げて聞いた。
「アレンがどうかしましたか?」
「いや、俺はもっと年寄りを想像して…は?
若すぎないか?アレン、貴様歳は幾つだ?」
その質問にテリアはクスクスと吹き出してしまった。
「〝若すぎないか〟って、皇太子殿下より年上ですよぉ~」
「おまえは黙っていろ、話が進まない。答えろアレン。貴様、歳は幾つだ?」
「…?現在16歳でございます。
今年で17歳となります。」
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