身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
上 下
34 / 121
第1章

義妹とお出掛けする事にしました5

しおりを挟む
ーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 俺は昨日、アリスとテリアの会話を聞いていた。内容はアリスの寿命がもうすぐ尽きてしまうと言うものだった。
 

 アリスだけが、王宮の中で俺を家族として大事に思ってくれて、俺に依存して、純粋に笑ってくれた。
 アリスには俺しか頼れる存在がいない。

 どんな犠牲を払ってでも、どんな事をしてでも守ってやらなくてはいけないのだ。

 だけど、そのアリスが居なくなった時、俺はどうすれば良いのだろうと、その時ふと思った。
 アリスには俺しか守ってくれる奴がいない。
 だけど、俺にもアリスしか、いないんだ。
 
 じゃあ、アリスが居なくなったら俺はどうしたら良いんだ?

 足元がグラグラと揺れている気がした。


 
 なのに昨日のアリスはまるで当然の事のように静かで狼狽える様子もなかった。
 
 それは置いていく側だからこその余裕にも感じて、苛々がました。

 昨日美しく笑っていたアリスの顔が、黒く滲んで消えていく様が思い浮かぶ。

(おまえは、死ぬのが怖くはないのか。

俺はおまえが死ぬのが怖い。)

 カルロは、立ち上がるとアリスティナが居る瑠璃宮へと足を進めた。

ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー


「にゃん!」


 猫が指し示す先を見ると、思いの外カルロは早々に見つかった。
 というか、こちらへと歩を進めくる。
 
「カルロ殿下!丁度良かったー…」

 テリアが言いかけるけれど、その瞳が今まで会った中で1番冷たいものだったので、ゴクリと唾を飲みこんだ。

「体調のすぐれないアリスを連れ出して、おまえは何を企んでいる?」

「企むなんて。今からカルロ皇太子に外出許可取りに行く所でしたよ。ねぇ?」

 テリアがアリスティナに視線をやると、アリスティナはコクリと頷いた。
 それを見たカルロは余計に眉間にしわを寄せた。
 昨日のアリスティナの言葉を脳裏に過ぎる。

『多分もって、あと3日でしょうか。』

『誰にも見つからない場所で、静かに1人で死にたかったのです。』

「ダメだ、アリスの外出は許さない。具合が芳しく無いことは、おまえも分かっているだろう。」


(昨日の話を、聞いていたのね。)

 この時、カルロに凄まれているというのに、テリアは何故か、怖いと思わなかった。
 

『お兄様はずっと1人で怯えている哀れな人なのです。』

 昨日のアリスティナが言った言葉が、テリアにも過ぎったからなのか。

「でも、アリスティナ姫のご病気はこの王宮にいる高名なお医者様に見てもらっても原因不明で、生まれつき極端な虚弱体質だと聞いてます。外に出る事の何がダメですか?」

「容体が急変したらどうする?おまえらでは処置できないだろう。」


「お城の中ならば安全ですか?」


「……っ!」


 小首を傾げて問いかけるテリアに言葉に詰まったカルロは、急変した時の処置を思い出していた。
 原因がわからないので、ベッドで症状が治るのをひたすらに待つ。その繰り返しだ。
しかも獣人であるアリスティナに王宮勤めの看護師や医師達はかなりの嫌悪感を持っている。

 感性の鋭いアリスティナはそれを察知するたびに嘔吐いたり気を失ったりする事もあった。


 言い淀むカルロを見て、さらにテリアは言い募る。



「お城の外は危険ですか?

貴方は、お城の中だけで生きてゆきたいと思いますか?」


「それは…っ。」

「お城の中にいれば、病気は治るのですか?」

「煩い!俺が許可しないと言ったらそれに従え!
何の取り柄もない妃なら妃らしく、部屋に引き篭もっていろというものだ!

おまえなんかに、俺の気持ちなど一生わからないだろうからな!」

「お兄様!」

   アリスティナに咎められて、はぁはぁと肩で息をしながら、まくし立てたカルロは言葉を切った。
 テリアは一歩近寄ってカルロを見据えながら聞いた。

「貴方は何を恐れて 何を戸惑っているのですか?」



「…ー」

 俺が恐れるもの?戸惑い?そんなもの…っ

 アリスティナが居なくなったら俺は、王宮で1人残されてしまう。 
 俺の家族が、俺の妹がいなくなったら。
 俺が1人に…ー。

『お兄様が心配なのです』

 アリスティナの為ではなくて

 俺が、この王宮で…ー



「まぁ、カルロ殿下が心配するのわかるんで、じゃあ一緒にいきましょうか。」


 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。

しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」 卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。 その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。 損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。 オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。 どうしてこんなことに……。 なんて言うつもりはなくて、国外追放? 計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね! では、皆様ごきげんよう!

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

高慢令嬢の魂は何処に消えた〜異世界転生者に存在を奪われた愛しのキミをただ想う〜

星里有乃
恋愛
美人でハイスペックだが、高慢で意地が悪いと評判の公爵令嬢アマリア。落馬をして頭を打ち、目が覚めたアマリアは、すっかり人が変わったようにデレデレな性格に変貌。実は異世界転生前の記憶が甦り、人格が豹変したのだという。だとしたら、これまでのアマリアの魂は何処へ消えてしまったのだろう。 ※ 乙女ゲーム異世界転生ものの疑問点に少しだけ触れています。 ※ 現在アルファポリスさんのみに投稿です。

処理中です...