身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
上 下
22 / 121
第1章

もう結婚するらしい5

しおりを挟む
 

 美少女の必死の頼みを叶えてやりたいと思う。でも…身体の弱っている方をお城の外に、それも無断で連れ出す訳にもいかない。体調が急変したら私は適切な処置が出来ないのだから。

「すみません。こればかりは…。」

 私の返事に、アリスティナは残念そうに視線を落とした。

「そう…そうだよね。
急に…ごめんなさい。」

 猫耳がぺたりと頭にへたり込んでいる。
 可愛すぎてキュンとくると同時に罪悪感が半端ない。

(こ…心が痛むっ。
…だけど、こればかりは仕方ない。)

「こんな、面倒なお願いを初めて会う私にされても困りますよね…」

  ポロポロ泣き出してしまったアリスティナ姫に何処となくフェリミアの幼い頃が重なって見えた。
 テリアは寝台の側までよると、アリスティナの手を両手で握って、目を合わせて言った。

「面倒とかでなくて、私は姫様のお身体を心配しているのです。
何かあった時に私では姫様の事を救えません。」

「…。」

「アリスティナ姫さえ良ければ、私はまた此処へ来ます。
楽しい話を沢山持ってきますから…それでは…ダメですかね。やっぱり。」


 それを聞いて、垂れていた猫耳がピンと跳ね上がった。

「来てくれる?また来てくれるの?」

(上気する様子がとても可愛い。)

「はい!此処はとても美しくて癒されます。是非また来たいですわ。」

 頬を真っ赤にして喜ぶ姿に、なんだかこっちも嬉しくなった。

 私のお城生活で、やっと友達が1人出来て良かった。

「そう言えば今度、カルロお兄様とご結婚するのよね、お兄様のお相手が、テリア様で、私本当に嬉しい!」

 ピシリと固まってしまったテリアをよそに、アリスティナは本当に嬉しそうだった。

 当の本人であるカルロは心底嫌がっているのを知らないのだろう。そして私の王宮内での評判も。

(そうだ、この問題があるんだ。考えるの放り投げたけど、なんとか回避しようと思ってるなんて、言えないよね…)

 項垂れてしまったテリアを見て、アリスティナはテリアの頬にそっと手を伸ばす。

「テリア様、カルロお兄様が宮殿で女嫌いと周知されるほど、多くの女性に優しくない事は私、知ってるの。

ですが…私よりも…いや、私のせいでより一層、孤独で、辛く、もがき苦しんでいるの。」

「……?」

「…どうか、どうか…そんなお兄様ですが…よろしくお願いします。」

「………はぃ…」

 (何となくだけど、嫌と言える空気じゃない。)

 語尾を小さくして返事をして、この時だらだらと吹き出す汗が目に入って滲みてきたテリアは、もはや打つ手なく結婚式当日を迎えるのであった。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...