上 下
15 / 121
第1章

王宮を歩き回ってみた1

しおりを挟む

 先日、現皇妃様に会った。

 お茶会での様子から使用人達の間で息子の婚約者が不出来だと言う噂は瞬く間に広まってしまったらしく皇妃様付の侍女の耳にも入ってしまい皇妃様に伝わった。

『最低限度と言うものがあるでしょう。

皇太子に恥を欠かせるつもりなのですか。』


(そこまで言うのに何故候補から外さない)

 そんな私の心の声は届かず、教育係のみに任せるのでは不安だと、暫くは皇妃様がそれとなくチェックを入れてくる。

 流石、公爵家令嬢のときから国1番の美姫と名高かった皇妃様で、微笑みながら放たれるその圧には命の危険を感じた。よって教育開始からこの2ヶ月、全力で取り組まざるを得ない状況が続いている。

 そして今日は休息日。私は自室で静かに刺繍をしていた。

(いや…こんな天気が良い日に、やっと出来た休みに私は一体何をやってるんだ?)

 自室の外には私が何時でも呼べるように、侍女や執事が控えている。部屋から出たら必ず付いてくるだろうけど、私は彼等について来てもらいたいと思ってない。

「よし、窓から出よう!」


  部屋にある窓からバルコニーへ出てみると、右側にツタを纏い大きく高い木に狙いを定めて此処からの脱出方法を考えてみた。

 思いの外高さがあるこの部屋から飛び降りるのは不可能として、1番届きそうな木の距離までおよそ2メートル。

 助走をつければ行けなくはないけど、リスクが高すぎる。

 そこまで考えて2ヶ月の教育の中でやっていた聖なる力についての講義を思い出す。
 まだ触りの部分しかやっていないけど、確かこの間やっていた講義は聖獣と精霊についてだ。

 精霊は自然界に多様に存在していて聖なる力を持つものは友達になれるという。

 そして聖獣は聖なる力を持つ者のみが従える獣。

 本棚から講義で使ったものを取り出して、そのページを開いた。

「これ簡単そう。使えたら便利そうだから試してみようかしら。」

 本を小脇に抱えて、再びバルコニーへ出ると本に書いてある通りに指文字で召喚の陣なるものを作り(ただの星型。)唱えた。

「我聖なる力の前に姿を表せ ウルダラス」

 
 本に書かれた木に宿る精霊を呼び出す呪文と思しきものを唱えると、それに呼応したように水色の光が召喚の陣を描いた先から発光した。

 おさまったかと思うとバルコニーの手すりには、水色の猫が尻尾を足元にくるんと丸めてちょこんとコンパクトに座っていた。


「貴方…精霊?どう見ても獣…」


「にゃん!」

(ただの猫…じゃないわよね、こんな色した猫いないわよね?)

「まぁ、どっちでも良いのだけど貴方あの木から蔦をこう…ココに巻きつけて下に降りれるようする事出来る?」

 水色猫は。後ろ足で興味無さげに耳の後ろを掻き出した。

(可愛いけど…出来ないのね。)

「じゃあ、大きくなって私を背に乗せて降りられる?」

「にゃん!」

良い返事は返って来たけれど、大きくなって背に乗せてくれる気配がしない。



しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...