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第1章
王宮を歩き回ってみた1
しおりを挟む先日、現皇妃様に会った。
お茶会での様子から使用人達の間で息子の婚約者が不出来だと言う噂は瞬く間に広まってしまったらしく皇妃様付の侍女の耳にも入ってしまい皇妃様に伝わった。
『最低限度と言うものがあるでしょう。
皇太子に恥を欠かせるつもりなのですか。』
(そこまで言うのに何故候補から外さない)
そんな私の心の声は届かず、教育係のみに任せるのでは不安だと、暫くは皇妃様がそれとなくチェックを入れてくる。
流石、公爵家令嬢のときから国1番の美姫と名高かった皇妃様で、微笑みながら放たれるその圧には命の危険を感じた。よって教育開始からこの2ヶ月、全力で取り組まざるを得ない状況が続いている。
そして今日は休息日。私は自室で静かに刺繍をしていた。
(いや…こんな天気が良い日に、やっと出来た休みに私は一体何をやってるんだ?)
自室の外には私が何時でも呼べるように、侍女や執事が控えている。部屋から出たら必ず付いてくるだろうけど、私は彼等について来てもらいたいと思ってない。
「よし、窓から出よう!」
部屋にある窓からバルコニーへ出てみると、右側にツタを纏い大きく高い木に狙いを定めて此処からの脱出方法を考えてみた。
思いの外高さがあるこの部屋から飛び降りるのは不可能として、1番届きそうな木の距離までおよそ2メートル。
助走をつければ行けなくはないけど、リスクが高すぎる。
そこまで考えて2ヶ月の教育の中でやっていた聖なる力についての講義を思い出す。
まだ触りの部分しかやっていないけど、確かこの間やっていた講義は聖獣と精霊についてだ。
精霊は自然界に多様に存在していて聖なる力を持つものは友達になれるという。
そして聖獣は聖なる力を持つ者のみが従える獣。
本棚から講義で使ったものを取り出して、そのページを開いた。
「これ簡単そう。使えたら便利そうだから試してみようかしら。」
本を小脇に抱えて、再びバルコニーへ出ると本に書いてある通りに指文字で召喚の陣なるものを作り(ただの星型。)唱えた。
「我聖なる力の前に姿を表せ ウルダラス」
本に書かれた木に宿る精霊を呼び出す呪文と思しきものを唱えると、それに呼応したように水色の光が召喚の陣を描いた先から発光した。
おさまったかと思うとバルコニーの手すりには、水色の猫が尻尾を足元にくるんと丸めてちょこんとコンパクトに座っていた。
「貴方…精霊?どう見ても獣…」
「にゃん!」
(ただの猫…じゃないわよね、こんな色した猫いないわよね?)
「まぁ、どっちでも良いのだけど貴方あの木から蔦をこう…ココに巻きつけて下に降りれるようする事出来る?」
水色猫は。後ろ足で興味無さげに耳の後ろを掻き出した。
(可愛いけど…出来ないのね。)
「じゃあ、大きくなって私を背に乗せて降りられる?」
「にゃん!」
良い返事は返って来たけれど、大きくなって背に乗せてくれる気配がしない。
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