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馬車を出るとちょうど戻ってきたメチールと鉢合わせる。
少女のために、新たな水筒ときれいな布を持っていた。
「様子はどうだ?」
「うん、何とか少年のほうはね。」
「食事を採ったのか?」
「まあ、食べた瞬間は見てないけど、恐らく大丈夫じゃないかな。」
答えを聞きメチールは、ほっとした様子を見せる。
やはりこの人は悪人ではなさそうである。
思わず笑みを見せると「別に善意でやってるわけじゃない。」
などととってつけたような言い訳をするところなど、なおさら好ましく感じられた。
「ところで姉のほうは?」
「何とも言えないですね。疲れて眠っているだけだとは思うけど、経過が経過だし。
無事に目覚めてくれることを願うだけです。」
「そうか。あぁほら、頼まれていた水と布だ。」と、手渡される。
「ありがとうございます。さっそく彼女のところへ、持っていきます。」
「あぁ、頼む。」
こうして俺は、出てきたばかりの馬車へ取って返した。
中へ入ると、それに気づいた少年が相変わらず身体をこわばらせている。
ただ先ほどまでと違って、あからさまな嫌悪感のようなものは感じられない。
オパールのおかげか、多少は慣れてきてくれたのか。
後者だとすれば良い兆候なのだが。
威圧感を与えないようにゆっくりと彼に近づき、
傍らに佇むオパールに囁くように尋ねる。
「どう?様子は。」
「えぇ、よほど喉が渇いていたのか、水はほぼ一気に飲み干していました。
干し肉のほうは少し硬いのか、ちょっとかじったくらいですわね。」
「そうか。とりあえずはよかった。
肉はそれくらいゆっくりのほうがいいかもしれない。
ずっと食べていないだろうから、一気に食べると胃が受け付けないかもしれない。」
「そうなんですの?人間って面倒なんですわね。」
「ふふ。君は俺たちのような食事を採らないからね。」
ふと気づくと少年が、こちらの様子をじっと見つめている。
あれ?ひそひそ話はまずかったかな。
彼にはよからぬ悪だくみを画策しているようにも見えちゃうかも。
「ごめんごめん。誤解させちゃったかな。」
少年に向き直りできるだけ愛想よく話しかける。
が、やっぱり返事はない。
「できれば俺に対しても喋ってくれると嬉しんだけどね。
はは、すぐには無理かな。それじゃあ話だけでも聞いてくれ。
水と布を用意した。これね。」と言って差し出す。
「いいかい?君にはやってもらわなきゃならないことがある。」
少年の表情が変わる。
「あぁ、そんなに警戒しないでくれ。君にとっても大事なことだよ。
あそこで寝ている姉さんに君が水を与えるんだ。こうやって布に水を含ませて、
それを彼女の口元に添えて水をゆっくり絞って与えるんだ。
いいかい、ゆっくりと、だ。一気に絞ると彼女がむせてしまうからね。」
表情を少し緩ませた少年が、水筒と布を受け取る。
「さっき君が一気に水を飲んだように、彼女もきっとひどい脱水状態だろう。
だけど彼女は自分で水分を取ることは出来ない。少なくとも今はね。わかるかい?」
少年は頷く。
「だから君が与えるんだ。俺がやるんじゃ信用できないだろう?
もう一度言うけど、水はゆっくり与えるんだ。それこそ、一滴、また一滴ってね。
あぁ。それと水に細工なんてしてないから安心してくれ。
そんな気があれば、とっくに君たちはお空のお星さまになってるはずさ。」
少年は重ねて頷く。
「それじゃあ俺たちは外にいるから。
君は自分の食事も採りつつ姉さんの面倒を見てくれ。
彼女が目覚めたら、う~ん、本当は声をかけてほしい所だけど、まぁ難しいだろうね。
しばらくたったらまた様子を見に戻ってくるよ。
もし、戻ってくる前に彼女が目覚めたら彼女にも食事を採らせるといい。」
そう言って彼に背を向ける。
「ありが、とう、ございます。」
驚いて振り返ると、頭を下げる少年の姿が確認できる。
「へぇ、偉いね君。嫌いな相手にもきちんとお礼を言えるなんて。」
それ以上少年は言葉を発しない。
「次来るときはもう少し食べやすそうな物を持ってくるよ。」
そう言って俺たちは馬車を出て行った。
少女のために、新たな水筒ときれいな布を持っていた。
「様子はどうだ?」
「うん、何とか少年のほうはね。」
「食事を採ったのか?」
「まあ、食べた瞬間は見てないけど、恐らく大丈夫じゃないかな。」
答えを聞きメチールは、ほっとした様子を見せる。
やはりこの人は悪人ではなさそうである。
思わず笑みを見せると「別に善意でやってるわけじゃない。」
などととってつけたような言い訳をするところなど、なおさら好ましく感じられた。
「ところで姉のほうは?」
「何とも言えないですね。疲れて眠っているだけだとは思うけど、経過が経過だし。
無事に目覚めてくれることを願うだけです。」
「そうか。あぁほら、頼まれていた水と布だ。」と、手渡される。
「ありがとうございます。さっそく彼女のところへ、持っていきます。」
「あぁ、頼む。」
こうして俺は、出てきたばかりの馬車へ取って返した。
中へ入ると、それに気づいた少年が相変わらず身体をこわばらせている。
ただ先ほどまでと違って、あからさまな嫌悪感のようなものは感じられない。
オパールのおかげか、多少は慣れてきてくれたのか。
後者だとすれば良い兆候なのだが。
威圧感を与えないようにゆっくりと彼に近づき、
傍らに佇むオパールに囁くように尋ねる。
「どう?様子は。」
「えぇ、よほど喉が渇いていたのか、水はほぼ一気に飲み干していました。
干し肉のほうは少し硬いのか、ちょっとかじったくらいですわね。」
「そうか。とりあえずはよかった。
肉はそれくらいゆっくりのほうがいいかもしれない。
ずっと食べていないだろうから、一気に食べると胃が受け付けないかもしれない。」
「そうなんですの?人間って面倒なんですわね。」
「ふふ。君は俺たちのような食事を採らないからね。」
ふと気づくと少年が、こちらの様子をじっと見つめている。
あれ?ひそひそ話はまずかったかな。
彼にはよからぬ悪だくみを画策しているようにも見えちゃうかも。
「ごめんごめん。誤解させちゃったかな。」
少年に向き直りできるだけ愛想よく話しかける。
が、やっぱり返事はない。
「できれば俺に対しても喋ってくれると嬉しんだけどね。
はは、すぐには無理かな。それじゃあ話だけでも聞いてくれ。
水と布を用意した。これね。」と言って差し出す。
「いいかい?君にはやってもらわなきゃならないことがある。」
少年の表情が変わる。
「あぁ、そんなに警戒しないでくれ。君にとっても大事なことだよ。
あそこで寝ている姉さんに君が水を与えるんだ。こうやって布に水を含ませて、
それを彼女の口元に添えて水をゆっくり絞って与えるんだ。
いいかい、ゆっくりと、だ。一気に絞ると彼女がむせてしまうからね。」
表情を少し緩ませた少年が、水筒と布を受け取る。
「さっき君が一気に水を飲んだように、彼女もきっとひどい脱水状態だろう。
だけど彼女は自分で水分を取ることは出来ない。少なくとも今はね。わかるかい?」
少年は頷く。
「だから君が与えるんだ。俺がやるんじゃ信用できないだろう?
もう一度言うけど、水はゆっくり与えるんだ。それこそ、一滴、また一滴ってね。
あぁ。それと水に細工なんてしてないから安心してくれ。
そんな気があれば、とっくに君たちはお空のお星さまになってるはずさ。」
少年は重ねて頷く。
「それじゃあ俺たちは外にいるから。
君は自分の食事も採りつつ姉さんの面倒を見てくれ。
彼女が目覚めたら、う~ん、本当は声をかけてほしい所だけど、まぁ難しいだろうね。
しばらくたったらまた様子を見に戻ってくるよ。
もし、戻ってくる前に彼女が目覚めたら彼女にも食事を採らせるといい。」
そう言って彼に背を向ける。
「ありが、とう、ございます。」
驚いて振り返ると、頭を下げる少年の姿が確認できる。
「へぇ、偉いね君。嫌いな相手にもきちんとお礼を言えるなんて。」
それ以上少年は言葉を発しない。
「次来るときはもう少し食べやすそうな物を持ってくるよ。」
そう言って俺たちは馬車を出て行った。
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