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外に出ると、持ち出された木箱の上で所在なさげに
プカプカ浮いているオパールの姿が目に入った。
彼女も俺に気が付いたのだろう。
この箱だよとでもいうように、その小さな手を下に向け指さしている。
すぐにでも彼女のところに行きたいが、今は無理である。
俺は首を横に振り、手を顔の前にかざして謝って見せた。
すると事情を察したのか、彼女のほうから俺のほうに近づいてきた。
「ちょっと頼まれごとをしちゃってね。」小声でささやく。
仕方ないといった表情をして、オパールは俺の肩に舞い降りたのだった。
三輌目の馬車内で水の入った皮水筒を受け取ると、
「私がいては邪魔だろう。」と言い残し、
メチールは馬車を出て行ってしまった。
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる彼女たちは相変わらず隅のほうで抱き合っているが、
その様子は離れていても吐く息の音が聞こえてくるほど苦しそうなものだった。
「どうするんですの?」オパールが尋ねる。
「どうするっていってもなぁ。優しく声をかけて、食事と水を差しだすくらいしか。」
ゆっくりと彼女たちに近づく。
それに気が付いたのか、苦しいだろうに、
少女は毅然と顔をあげこちらを見つめてくる。
一方少年はと言うと、よほど弱っているのか俯いたまま身動き一つしない。
「君たちおなかが減ってるだろう?喉も乾いているだろうし。
何にもしないから、これを食べてくれよ。」
愛想笑いを浮かべながら、
出来るだけ優しく声をかけて、干し肉や水筒を持つ手を差し伸ばした。
だがしかし、少女は受け取るでも拒絶するでもなく、
粗く息を吐き出しながら俺の顔を見つめ返すだけだった。
「だめですわね。」オパールが囁く。
すると、今まで苦しそうに俯いているだけだった少年のほうが、
突然顔を上げてこちらを見た。
そして「お姉ちゃん。」と、初めて声を発したのだった。
「お姉ちゃん、あそこ何かいるよ。」といって弱々しく指をさす。
少年の弱々しい視線と指先は、俺ではなく俺の肩に乗っているオパールに向けられているようだ。
その言葉に促されたように姉の視線も俺の顔から少し横にずれる。
すると彼女もオパールの存在に気が付いたのが、ほんの少し表情に変化が感じられた。
「あらあら、あの子たちには私がわかるみたいですわね。」
「精霊・・・様?」少年が弱々しく呟く。
(おお、”様”付けだよ、”様”付け。これは急展開あるか~。)
「なあ、オパール。」小声で話しかける。
「なんでしょう?」と小声でオパール。
「君ならもしかしたら説得出来るんじゃない?なんてったって”様”付けだよ、”様”付け。」
「そんな簡単に。」
「でもさ。俺が話しかけてもガン無視だったじゃない。
でも君の声を聴いたとたん喋ったんだよ。これは期待大だよ。」
「そうですかね?」
「そうだよ。もう君にかけるしかない。頼むよ。何とか説得してくれない?」
「でも・・・」
「そんなこと言わずに。もうホント、君だけが最後の望みなんだからさ。」
無言のオパール。
「君だってさ、こんないたいけな少女たちが召されちゃうところなんて見たくないでしょ?」
「それは・・・まあ。」
「だったらさあ、頼むよ。いやお頼みします、オパール様。」
「調子いいんですわ、もう。仕方ありませんね。でも責任はとれませんわよ。」
「うん、その時はしょうがないさ。俺達も出来ることはしたんだからさ。
それじゃさ、俺も外に出とくから。後はよろしくね。」
そう言って食べ物と水筒を置くと俺はそそくさと馬車を出て行った。
プカプカ浮いているオパールの姿が目に入った。
彼女も俺に気が付いたのだろう。
この箱だよとでもいうように、その小さな手を下に向け指さしている。
すぐにでも彼女のところに行きたいが、今は無理である。
俺は首を横に振り、手を顔の前にかざして謝って見せた。
すると事情を察したのか、彼女のほうから俺のほうに近づいてきた。
「ちょっと頼まれごとをしちゃってね。」小声でささやく。
仕方ないといった表情をして、オパールは俺の肩に舞い降りたのだった。
三輌目の馬車内で水の入った皮水筒を受け取ると、
「私がいては邪魔だろう。」と言い残し、
メチールは馬車を出て行ってしまった。
暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる彼女たちは相変わらず隅のほうで抱き合っているが、
その様子は離れていても吐く息の音が聞こえてくるほど苦しそうなものだった。
「どうするんですの?」オパールが尋ねる。
「どうするっていってもなぁ。優しく声をかけて、食事と水を差しだすくらいしか。」
ゆっくりと彼女たちに近づく。
それに気が付いたのか、苦しいだろうに、
少女は毅然と顔をあげこちらを見つめてくる。
一方少年はと言うと、よほど弱っているのか俯いたまま身動き一つしない。
「君たちおなかが減ってるだろう?喉も乾いているだろうし。
何にもしないから、これを食べてくれよ。」
愛想笑いを浮かべながら、
出来るだけ優しく声をかけて、干し肉や水筒を持つ手を差し伸ばした。
だがしかし、少女は受け取るでも拒絶するでもなく、
粗く息を吐き出しながら俺の顔を見つめ返すだけだった。
「だめですわね。」オパールが囁く。
すると、今まで苦しそうに俯いているだけだった少年のほうが、
突然顔を上げてこちらを見た。
そして「お姉ちゃん。」と、初めて声を発したのだった。
「お姉ちゃん、あそこ何かいるよ。」といって弱々しく指をさす。
少年の弱々しい視線と指先は、俺ではなく俺の肩に乗っているオパールに向けられているようだ。
その言葉に促されたように姉の視線も俺の顔から少し横にずれる。
すると彼女もオパールの存在に気が付いたのが、ほんの少し表情に変化が感じられた。
「あらあら、あの子たちには私がわかるみたいですわね。」
「精霊・・・様?」少年が弱々しく呟く。
(おお、”様”付けだよ、”様”付け。これは急展開あるか~。)
「なあ、オパール。」小声で話しかける。
「なんでしょう?」と小声でオパール。
「君ならもしかしたら説得出来るんじゃない?なんてったって”様”付けだよ、”様”付け。」
「そんな簡単に。」
「でもさ。俺が話しかけてもガン無視だったじゃない。
でも君の声を聴いたとたん喋ったんだよ。これは期待大だよ。」
「そうですかね?」
「そうだよ。もう君にかけるしかない。頼むよ。何とか説得してくれない?」
「でも・・・」
「そんなこと言わずに。もうホント、君だけが最後の望みなんだからさ。」
無言のオパール。
「君だってさ、こんないたいけな少女たちが召されちゃうところなんて見たくないでしょ?」
「それは・・・まあ。」
「だったらさあ、頼むよ。いやお頼みします、オパール様。」
「調子いいんですわ、もう。仕方ありませんね。でも責任はとれませんわよ。」
「うん、その時はしょうがないさ。俺達も出来ることはしたんだからさ。
それじゃさ、俺も外に出とくから。後はよろしくね。」
そう言って食べ物と水筒を置くと俺はそそくさと馬車を出て行った。
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