こうして始まる異世界生活（仮）どなたかビビッとくるタイトルをつけて下さい

⑮

外から覗き見てもめぼしいものは特にない。もともとこの地に住まう者たちは
持たざる者であり、来る冬を越えるのも厳しい者達だ。
そんな者達からも、僅かな蓄えを毟り取ろうとする者がいる。
彼の地の領主もそんな一人だ。日々の食事にも困る彼らから糧を、
やっとの思いで手に入れたであろう金属製の品は武器に鋳造しなおすために、
そして最後にはその命までも取り上げる。
その猛々しいまでの非情さはもちろん領民にも向けられているが、
人というものは、恐怖と、さらにはおのれ達よりさらに下の扱いを受ける存在がいると、
その過酷な状況にも意外と耐えられるようだ。
この地に住まう者たちは、
そのためのスケープゴートとしても、より過酷な扱いを受けているのである。
その境遇に憐れみを向ける者もいるが極めて少数だ。
人とはおのれの感情の平衡を保つために、自分より下と見做したものに対しては
より一層の蔑みの表情を見せるものだ。本当に人というものは業が深い。
そういった意味では、領主の統治はある意味うまくいっているとも言えるのかもしれない。
かく言う私も領主に不満はあれど、声を上げ反旗を翻すといった気概もない。
また、この地に住まうものに同情はすれど、積極的に助けようという気もない。
領主の非道に、消極的とはいえ、協力していると罵られても、
頭には来るがさりとて返す言葉を持たないことは自覚している。

つらつらとそんなことを考えていると、ふとなんとなく焼け跡の一部に違和感を覚えた。
「なあ、あそこちょっとおかしくないか？」
「どこですか？」
近くにいた男が覗き込む。
「あそこの汚い樽の下。」と指さす。
「そうですか？特に変わった様子はないと思いますが。」と怪訝そうに返事をする。
「よくみろ。樽の下の床が、他のところより白っぽくないか？
しかも不自然に四角く白っぽい。」
「言われてみればそうですね。ちょっとおかしいかな。」
樽に近づき二人して覗き込むが、樽は空だ。
顔を見合わせて頷く。二人して樽をどかすとそこには物入らしい小さな扉が現れた。