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「また煙が上がってますぜ、隊長さん。」
特に顔を上げて確認するまでもなく、うすうす感づいてはいた。
時折吹く風に乗り、何かが焼けたような臭いがすでに私の鼻を刺激していた。
火の気配とは縁遠そうなこの原野の道において、
この手の話はよくあることで特に驚きもない。
声を発した者も心得ているようで、私の態度を見ても特段何の反応もみせない。
「どうします?」
と、私に尋ねるだけであった。

「2名だけ私についてきてくれ。後の者は馬車と荷物の番を頼む。
何も起きないとは思うが、万が一なにかあったら笛を吹いて知らせてくれ。
それではちょっと行ってくるよ。」
そう言って私を含む3人は、ちょっと見にはそれとはわからないだろう、
微かに草が踏みつけられて倒れたような痕跡が残る
小道のような何かに分け入っていった。
「お気をつけて。」
残った者から、そう声をかけられて頷きながら。

「昨晩ですかね?」
「だろうな。」
当たりの静けさや、煙の様子からそう答える。
「最近は見かけなかったんですがね。」
「南で小競り合いが起きている。
ささやかな額でも戦費の足しに、とでも思ったのだろう。
ここの領主の考えそうなことだ。」
「ふむ。」否定するでも肯定するでもなく小さく頷く。

その後は誰も声を発することなく草地を分け入っていくと、
それは突然目の前に現れてた。
何もなければ道からそう離れてはいないとはいえ、
この場所を見つけることはそう容易なことではなかっただろう。
しかし、何かがあるはずだと考えて探し回る者達から逃れるには、
やはり道から近すぎたのだろう。
そこには、家と呼ぶにはあまりにもみすぼらしい建物が、いまだに燻って煙を上げている。
同様な建物だったであろう焼け跡が二棟。
その周りには、恐らく昨晩忌まわしいことがあったことが窺えるように
数名の遺体が放置されていた。男も女も、そして子供も。
「こりゃあひでえな。皆殺しだ。」
「そうだな。」
「これじゃあこれ以上ここにいても意味ないですぜ。」
「かもしれないが、せっかくここまで来たんだ。焼け残りの廃屋を
少し覗く位の時間はいいだろう?」
言って私は歩を進めた。
覗くといっても外壁はほぼ焼け落ち、私達が通りがかるのがもう少し遅ければ、
煙は確認できなかったであろう。
最後の一棟が完全に焼け落ちなかったのは、
もはや運がよかったというより他なかった。

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