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第五節
夜の息づかい(15)
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見るに恐ろしい光景に息を呑んだ。
まるで劣悪な豚小屋のようだった。
床に足をつけられない子供は、子供の上に子供が乗っている。
数名は、子供達の下敷きになり、口から唾液を垂れ流して死んでいる。
子供達は皆、覗き込んでいる私に気が付かないのか、目線を向けない。
更に廊下の先を見た。
ずっと奥に在る牢屋から橙色の柔らかな明かりが漏れている。
私はその明かりへ誘われるように歩みを進めた。
その牢屋から何やら声が聞こえる事に聞く気が付いた。
近づくにつれて、その声が段々と鮮明になる。
「助けて、いや、お父さん!」
娘の声だ。
私は走った。
足で踏み込む度に、床の湿り気が、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
漏れ入る明かりに影が映る。
子供がうずくまり、それを大人が鞭で打ち付けている。
その牢屋に着いた。
鉄格子に顔を覗き込む。
ランタンが一つ置かれているだけで、誰も居なかった。
「どうしたんだい」
老婆の声が聞こえて、咄嗟に声がした方向へ顔を向ける。
更に奥に続く廊下に老婆が居た。
老婆の前には、黒い大型犬が居る。
私は、ひぃっとして、一歩後ろへ下がる。
ぐるる。
犬は鋭い牙を剥き出しにして、私を睨む。
老婆はその犬を手懐けているようだ。
「お行き!」
老婆は犬に指示を出す。
その指示を待っていましたと言わんばかりに、犬が私に向かって駆け出した。
私は、走った。
シャッターの在る方向へ無我夢中で走った。
ちらりと背後を振り向くと、犬は追いかけてくる。
その距離はじわりじわりと縮まっていく。
私はシャッターまで辿り着いた。
シャッターに手をかけて、力一杯、下ろす。
一瞬の差で、何とか、シャッターを下ろす事に成功した。
どん。
犬がシャッターに追突する音が響く。
私は息を整える間もなく、店内へ行く。
その足取りは興奮のあまり、一歩一歩が跳ねる。
店内も相変わらず薄暗い。
二つのランタンの明かりが何とか周囲を照らしている。
店内には、皆が居た。
老婆も居る。
娘も居る。
娘の姿を見て、安堵するも束の間、異様な光景を目の当たりにした。
皆は、笑っていた。
口を大きく開けて、けたたましく笑っていた。
私の興奮は一気に冷やされた。
ぞぞっと、身の毛がよだつ。
皆は一つの方向へ顔を向けて笑っていた。
その方向には、テレビがある。
映らなかったテレビは、何やら映像を映している。
まるで劣悪な豚小屋のようだった。
床に足をつけられない子供は、子供の上に子供が乗っている。
数名は、子供達の下敷きになり、口から唾液を垂れ流して死んでいる。
子供達は皆、覗き込んでいる私に気が付かないのか、目線を向けない。
更に廊下の先を見た。
ずっと奥に在る牢屋から橙色の柔らかな明かりが漏れている。
私はその明かりへ誘われるように歩みを進めた。
その牢屋から何やら声が聞こえる事に聞く気が付いた。
近づくにつれて、その声が段々と鮮明になる。
「助けて、いや、お父さん!」
娘の声だ。
私は走った。
足で踏み込む度に、床の湿り気が、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
漏れ入る明かりに影が映る。
子供がうずくまり、それを大人が鞭で打ち付けている。
その牢屋に着いた。
鉄格子に顔を覗き込む。
ランタンが一つ置かれているだけで、誰も居なかった。
「どうしたんだい」
老婆の声が聞こえて、咄嗟に声がした方向へ顔を向ける。
更に奥に続く廊下に老婆が居た。
老婆の前には、黒い大型犬が居る。
私は、ひぃっとして、一歩後ろへ下がる。
ぐるる。
犬は鋭い牙を剥き出しにして、私を睨む。
老婆はその犬を手懐けているようだ。
「お行き!」
老婆は犬に指示を出す。
その指示を待っていましたと言わんばかりに、犬が私に向かって駆け出した。
私は、走った。
シャッターの在る方向へ無我夢中で走った。
ちらりと背後を振り向くと、犬は追いかけてくる。
その距離はじわりじわりと縮まっていく。
私はシャッターまで辿り着いた。
シャッターに手をかけて、力一杯、下ろす。
一瞬の差で、何とか、シャッターを下ろす事に成功した。
どん。
犬がシャッターに追突する音が響く。
私は息を整える間もなく、店内へ行く。
その足取りは興奮のあまり、一歩一歩が跳ねる。
店内も相変わらず薄暗い。
二つのランタンの明かりが何とか周囲を照らしている。
店内には、皆が居た。
老婆も居る。
娘も居る。
娘の姿を見て、安堵するも束の間、異様な光景を目の当たりにした。
皆は、笑っていた。
口を大きく開けて、けたたましく笑っていた。
私の興奮は一気に冷やされた。
ぞぞっと、身の毛がよだつ。
皆は一つの方向へ顔を向けて笑っていた。
その方向には、テレビがある。
映らなかったテレビは、何やら映像を映している。
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