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しおりを挟む「シリル……」
「なんだ?」
ようやく入った室内で、抱きあったまま2人は静かに語らう。
「私の血を、吸って貰えませんか」
そう言うエリザベートは、自分の血液の少しだけでもいいから、彼のものになりたかった。
「でも……痕が付くから」
シリルが迷う理由は、エリザベートが他人の妻となってしまっているからだった。例えば夫婦生活の時などに、吸血痕が見られるとまずいのだ。
「いいんです」
だって、夫婦間に何も無いのだから。興味すら持たれていないのだから、何かが起きて痕が見られる機会なんて皆無だった。
エリザベートが髪を持ち上げ首筋を晒すと、ごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。
「シリル、お願いします」
エリザベートが、シリルを見つめる。シリルの青い瞳は、エリザベートの瞳の赤を受けて、色がとろりと混ざり合おうとしていた。
シリルの吐息が首にかかり、エリザベートは擽ったさに震える。
次の瞬間、鋭い痛みが走り、そしてすぐさま体が熱くなったような感覚になった。
「……っあ!」
小さく悲鳴をあげたエリザベートは、もはや腰が立たず、シリルにしっかりと支えられているような体勢になっていた。
そして、支えられながらベッドになだれ込み。シリルの舌が首筋を這う度にエリザベートは荒い息を吐いた。時間にして数分の吸血は、なぜかとても長く幸せな時間に感じた。
目覚めたエリザベートは、外の暗さから未だ夜更けであり、半刻も経っていないことを理解した。相変わらずシリルは、エリザベートが眠ったことを確認していつの間にか姿を消してしまっていた。けれど。
「まだ温かい……」
シリルの居た痕跡を残すシーツは僅かに温もりを維持していて、彼がほんの少し前までここに居たことを示していた。
募る寂しさを埋めるように、エリザベートはシリルに差し出した首筋に手を伸ばす。
すると。指先に、覚えのないざらりとした手触りがした。首周りをしっかりと覆っているそれを鏡で見ると、そこには黒いレースで編まれたチョーカーが巻きついていた。首の4分の1ほどを埋めるそれは、吸血跡を隠すにはもってこいの代物だった。真ん中には血のように赤いルビーが佇んでいて、それが吸血している時のシリルの瞳の色と重なった。
「シリルの瞳と同じね……」
鏡越しに眺めながらそれをゆっくりとなぞったエリザベートは、小さく呟いた。
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