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第一・五話
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暮れない心と、戻らぬ乳首___
逐西 七麻。‘’うんちみたいな男‘’
今ならそう揶揄できる彼さえ、当時はいわゆる魅惑の色男だったらしい。
今思えば、顔も端正で締りのいい身体、そのバックボーンには数多の女がいる事は明白だった。男子の間では、‘’天下の金玉ビッグボーイ‘’として名を連ねていると烏合の衆は口を揃えた。
なんだ。あの人も、私も__
風が冷たい。二人の混淆が終わる頃には、外は鬱蒼と夜を帯びていた。喪失感、高揚感…ありとあらゆる感情が喉に痞えたまま、私は校門を背に、ひたすら裸体で住宅街を走った。ぽつっ…ぽつっ…と血の滴る乳跡を優しく握りしめて。
それからの一週間は早く、私はバレないようにタンポポの絆創膏を胸に張り、片乳のない夜を生き抜いた。学校には仮病を被り、「親友と一週間泊まる」ことをオブラートに母親とは距離を置いた。
放課後の出来事が親友にバレたのは、週明けの月曜日のことだった。
『痴舞美、最近お胸の元気がないよね。先週まではKカップくらいあったのに。てか…片乳だけ萎んでない!?おかしいよ!!風船じゃないんだから!!!』
なによ嫌味?と手を当てた場所は、鳥取砂丘同然の触り心地だった。
「なんだこれ…おっぱいねーーーじゃん!!」嘆きもクソもない声が木霊する。愛し愛された膨らみも、日を跨ぐごとに右側から縮んでしまう。
『まさか、先週逐西くんにヤられたの…?!』「うぇっ。なんでわかるの」
彼との営みは優衣と別れてからだったのに。
『胸にあいつの歯型がついてる。今まで付き合わされた子達の胸にも同じ歯形がついてるんだよ。ちょっと見して…。…。やっぱり…食われたのね!!』
目の付け所がアグレッシブな彼女には白旗だった。乳腺が死滅し、平らになった右胸に歯型が刻まれた様子は、もはやミステリーサークルとしか言い様がないだろう。
『はぁ…ごめん。…。あんなに言っといて痴舞美の事、守り切れなくて…』吐き出すようにして、私は事の顛末を話し終えた。
『ここ1週間、痴舞美が学校に来なくて心配してたんだよ?鳥吏明さんに訊いても、あっちはあっちで俯きっぱなしだし。』親友が自責の念に駆られるのを柔く宥めながら「大丈夫。私、乳首が無くても生きていけるよ。とりあえず当分は、休ませて。」『…うん。』生まれて初めて、強がりの言葉を零した。暮れない心に、また一つ火は点る。親友が口を開いた。『お母さんには、なんて言うつもりなの?』「…手違いでホルモン剤呑み込んだとか嘘付けば信じてくれるよ。」『はぁ、本当に親譲りだなぁ。」幸い重篤な病にはかからなかったが、あの日から私の右胸にはタンポポが咲いている。
それから3年の月日が経ち、私達は二年生となった。不遇にもあの女乳首泥棒とはたまた同じクラスに決まったのは屈辱だったが、そんな私を尻目に、またもや異様な匂いを放つ教室は混沌としていく。
『うっそぉ…wあれ本当に部稜さんなの?おっぱいねーじゃん』『昔デケーなって思ってたら風船かよww』『ビッチ隠すために削ぎ落としたんだろ。逐西も食われたんだとよ。』矢継ぎ早に飛び交う嗤い声。食われたのは私の方なのに。かつて野次馬のように群がってきた男子達の目すらも、色は失せていた。だが、何故か私は、あの泥棒にいとしさを憶えてしまったようで、朽ちそびれた未練は塒を巻いて霞んだままだ。
そして、今も。
逐西 七麻。‘’うんちみたいな男‘’
今ならそう揶揄できる彼さえ、当時はいわゆる魅惑の色男だったらしい。
今思えば、顔も端正で締りのいい身体、そのバックボーンには数多の女がいる事は明白だった。男子の間では、‘’天下の金玉ビッグボーイ‘’として名を連ねていると烏合の衆は口を揃えた。
なんだ。あの人も、私も__
風が冷たい。二人の混淆が終わる頃には、外は鬱蒼と夜を帯びていた。喪失感、高揚感…ありとあらゆる感情が喉に痞えたまま、私は校門を背に、ひたすら裸体で住宅街を走った。ぽつっ…ぽつっ…と血の滴る乳跡を優しく握りしめて。
それからの一週間は早く、私はバレないようにタンポポの絆創膏を胸に張り、片乳のない夜を生き抜いた。学校には仮病を被り、「親友と一週間泊まる」ことをオブラートに母親とは距離を置いた。
放課後の出来事が親友にバレたのは、週明けの月曜日のことだった。
『痴舞美、最近お胸の元気がないよね。先週まではKカップくらいあったのに。てか…片乳だけ萎んでない!?おかしいよ!!風船じゃないんだから!!!』
なによ嫌味?と手を当てた場所は、鳥取砂丘同然の触り心地だった。
「なんだこれ…おっぱいねーーーじゃん!!」嘆きもクソもない声が木霊する。愛し愛された膨らみも、日を跨ぐごとに右側から縮んでしまう。
『まさか、先週逐西くんにヤられたの…?!』「うぇっ。なんでわかるの」
彼との営みは優衣と別れてからだったのに。
『胸にあいつの歯型がついてる。今まで付き合わされた子達の胸にも同じ歯形がついてるんだよ。ちょっと見して…。…。やっぱり…食われたのね!!』
目の付け所がアグレッシブな彼女には白旗だった。乳腺が死滅し、平らになった右胸に歯型が刻まれた様子は、もはやミステリーサークルとしか言い様がないだろう。
『はぁ…ごめん。…。あんなに言っといて痴舞美の事、守り切れなくて…』吐き出すようにして、私は事の顛末を話し終えた。
『ここ1週間、痴舞美が学校に来なくて心配してたんだよ?鳥吏明さんに訊いても、あっちはあっちで俯きっぱなしだし。』親友が自責の念に駆られるのを柔く宥めながら「大丈夫。私、乳首が無くても生きていけるよ。とりあえず当分は、休ませて。」『…うん。』生まれて初めて、強がりの言葉を零した。暮れない心に、また一つ火は点る。親友が口を開いた。『お母さんには、なんて言うつもりなの?』「…手違いでホルモン剤呑み込んだとか嘘付けば信じてくれるよ。」『はぁ、本当に親譲りだなぁ。」幸い重篤な病にはかからなかったが、あの日から私の右胸にはタンポポが咲いている。
それから3年の月日が経ち、私達は二年生となった。不遇にもあの女乳首泥棒とはたまた同じクラスに決まったのは屈辱だったが、そんな私を尻目に、またもや異様な匂いを放つ教室は混沌としていく。
『うっそぉ…wあれ本当に部稜さんなの?おっぱいねーじゃん』『昔デケーなって思ってたら風船かよww』『ビッチ隠すために削ぎ落としたんだろ。逐西も食われたんだとよ。』矢継ぎ早に飛び交う嗤い声。食われたのは私の方なのに。かつて野次馬のように群がってきた男子達の目すらも、色は失せていた。だが、何故か私は、あの泥棒にいとしさを憶えてしまったようで、朽ちそびれた未練は塒を巻いて霞んだままだ。
そして、今も。
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