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君と走る

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 僕が彼の手の温かさを感じたのも束の間で、しっかり握られ、力強く引っ張られた。
「ほら、走るぞ。」
 雨の中、僕たちは走った。僕はあまり走るのが速くないが、神楽様と繋がられたこの手のおかげで、少しだけ早く走れた気がした。僕というお荷物がなかったら、神楽様はもっと早く走れるのだと思う。なぜなら、僕の好きな神楽様はかっこいいからだ。
 信号がちょうど赤に変わってしまった。雨は相変わらず僕達の体を濡らしていく。半歩前にいる神楽様が目に入った。髪を伝う雨が美しいと思った。繋がれた手が少しだけ緩んだことに、なぜか寂しさを感じた。もっと神楽様と一緒にいたい。ずっと、そばに。
 目があった。彼の目がこんなに美しいことを僕は知らなかった。黒い瞳はどこまでも黒く、僕の事を見透かしているようだった。そして、どこまでも真っ直ぐだった。
「なに?見つめちゃって、どうしたの。もしかして惚れ直しちゃった?」
「あっ、えっと…」
 また心臓がうるさくなる。だって、こんなにも、神楽様は素敵なのだ。でも、そのまま「惚れ直した」っていうのは神楽様の思う壺な気がして、握られた手を握り返した。
 神楽様は僕を見て、ただ微笑を浮かべるだけだった。僕は「惚れ直した」といったら、神楽様はどんな表情をしていたかを考えた。そのうちに信号はまた青に変わり、僕たちは雨の中を走り抜けた。
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