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雨の中二人きり②

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 今日は天気があまり良くなかったが、今のところ雨はやんでいた。そうは言っても、今にも降り出しそうな曇り空だった。なんだか嫌な予感がする。僕はそう思った。
 だけれども、僕はそれ以上にいいことがあるとも感じていた。というのも、今、僕の横にはあの、遠くから眺めていた神楽様がいるのだ。僕にとっては、それだけで雨なんて帳消しになるのだ。彼が、ここにいる。ああ。なんていい日なのだろうか。もれるため息は幸せで満ちている。隣に歩いている神楽様を見て、僕はもう一度幸せを漏らした。
「どうしたの、祐一?」
 神楽様が僕がこっそり覗いていたのに気が付いていたらしく、僕の顔を仕返しと言わんばかりにぐいっと、のぞき込んできた。その行動に僕はまた動揺して、思わず視線をそらした。こういうちょっとしたことに、何気に気づくのが神楽様だが、今の僕は神楽様でなくとも、平常心を保てていないのは明らかだった。その証拠に、心臓が打つ脈拍はひどく速足になっていた。
「な、何でもないよ。」
 いや、本当はなんでもあるのだ。焦って早口になっていることに、もちろん神楽様は気がついたのだ。その証拠に、
「本当に?本当になんでもない?」
神楽様はすかさず、僕にアタックしてきた。あの、微笑とともに。ただ一つ違ったのは、教室にいた時よりも、やっぱり柔らかい表情に見えたことだった。いつも通りのいじわるから垣間見えるのは、神楽様の温かさなのだ。これが、僕の好きな神楽様なのだと実感した。
「いや、だから、その…」
 僕は神楽様にこうやって、攻められていくのが嫌いではない。じわじわと、隅から攻められて、最終的には逃げ場がなくなっている、この感じ。神楽様だから、こんなにも僕は満たされるのだろう。きっと、他の人では駄目なのだ。神楽様でないとダメなのだ。
 心の奥底から、流れてくるこの思い。僕はその思いに堪忍して、思っていることすべてを口に出そうと思った。
「その、僕が言いたいのは…神楽様は、ずるい、かっこよすぎる。」
 雨が降ってきた。今まで耐えていた雨雲が、耐えきれなくなってきたようだ。しとしとと、冷たい雨。でも、僕の心はこの上なく晴れやかだ。神楽様に初めて伝えられた気がする。

「祐一、傘もってる?」
 僕は、いそいでカバンの中を探した。あれ、あれ。僕は気が付いた。いろいろあって、今日はいつものルーティンが乱れてるのだ。折り畳み傘を毎日持って歩いている、僕としては痛恨のミスだった。おそらく、傘は机のよこにかけられっぱなしだ。僕は、首を横にふった。
「わかった。じゃあ、祐一、走るぞ。」
 落ち着いた声とは裏腹に、神楽様の口調はすこし早口だった。きっと、この雨は、強くなる。
 僕がうなずくと、神楽様は僕に手を伸ばしてきた。僕の手をつかむと、神楽様は僕のことをまっすぐ見てこう言うんだ。
「つなげって、お願いしたのはお前だからな。」
 つながれた手は骨ばった男らしい大きな手だった。体温が伝わってくる。僕の好きな、彼のあたたかさだ。
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