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僕が彼を神楽様と呼ぶ理由④

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 10mほど前を歩いている彼に僕は声をかけた。それはいつもの地味な僕ではない。他の人の声に埋もれる、あの声ではなく、馬鹿みたいに明るく希望に満ちた声だ。
「あの!!」
 彼は歩を緩め、こちらに振り返った。その姿は不覚にも僕の心をくすぐった。彼は堂々としていて、やっぱりかっこよかった。僕はまた勇気をほんの少しばかり絞り出して、こう彼に尋ねる。
「さっきはありがとう!…えっと、名前!君の名前は?」
 名前を尋ねているだけなのに、胸が躍る。知りたい。彼のことを。もっと、もっと。もっと知りたいと強く思った。僕の思いに答えるように彼は爽やかに笑って僕に芯の通った声でこう告げるんだ。
「清水神楽!よろしくね、祐一。」
 そう言って、彼は学校をあとにした。
 名前を呼ばれて、不思議と嬉しかった。祐一…か。今までこんなに名前を呼ばれて嬉しかったことはない。清水君。清水神楽。…神楽様。神楽様という呼び名が僕にはしっくりきた。神楽様。そうやって、もう一度心の中でつぶやいた。
 僕はこうして、神楽様の虜になったのだ。まだ、わずかに桜の花が咲いていた、春の日のことだった。
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