無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩

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25.無実を証言してくれた人の新しい人生

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「それは、どう言うことですか?」

 キャロライナにダーネル王国に行くことができるけど、具合が悪くなると言われて、エイデンはその話に乗るべきか悩んでいる。

「わかりやすく言うと、俺は魔法師で、エイデンさんをダーネル国まで、転移させれるんだ。

 だから、国境での嫌がらせなんて関係ない。
 だけど、魔法を使うとどうしても、魔力酔いを起こしてしまい、一日ぐらいはめまいがしたりして、具合が悪くなってしまう。

 でも、この方法で、赤ちゃんだって出国している。
 だから、俺らと一緒に行かないか?」

「なるほど、そう言うことなのですね。
 でしたら、ぜひお願いします。
 ダーネル王国で、生きてみたい。」

「なら、一緒に行こう。
 偶然、王宮に知り合いがいるから、そこで働けるかどうか、聞いてみようか?
 約束はできないけれど。」

 エイデンは想像すらしないだろう、聞いてみる相手が、その王国の王であることを。

「ああ、ありがとうございます。
 できたら、嬉しいです。」

「いつでも行けるよ。」

「あっ、ちょっと待ってください。
 ここの店主に挨拶して来ますね。」

「ああ、待っている。」

 エイデンさんは、お世話になった食堂の店主に、別れを告げに行った。

「レオ、ありがとうね。
 エイデンさんをダーネル王国に連れて行ったら、心おきなく、もうこの国とは本当にお別れすることができるわ。

 エイデンさんと知り合えたことで、迷惑はかけてしまったけれど、この国も悪くなかったかもって思えるの。

 でも、私の心はもうダーネル王国に帰りたいって思っているの。
もうローレンス邸を我が家って思っているわ。」

「ああ、一緒に帰ろう。」

 エイデンさんが、戻って来た。

「お待たせしました。
 覚悟はできました。
 よろしくお願いします。」

「ああ、じゃ行くよ。」

そう言って、レオナルドは二人の手を取り、ダーネル王国のローレンス邸に転移する。




「大丈夫か?」

 ローレンス邸の庭先に転移すると、

「くっ、言われた通りの魔力酔いですね。
 でも、大丈夫です。」

「ここは、俺の邸だから、ゆっくり休んで。」

「そんな、そこまでお世話には。」

「転移して俺の邸で、休むまでがセットだよ。
 みんなそうしているから。

 元気になったら、一緒に王宮に行って、知り合いに紹介するよ。」

「何から何までありがとうございます。」

「エイデンさん、こちらこそお世話になったのだから、気にしないで。」

 邸から、トラバスがやって来る。

「こちらの方は?」

「私の大切なお客様で、エイデンさんよ。
 よろしくお願いします。」

 キャロライナの言葉に、トラバスはレオナルドをちらっと見る。

「そういうのでないから、大丈夫だ。」

「わかりました。
 では、肩をお貸ししますので、こちらに。」

 ローレンス邸では、レオナルドが数々の転移させた人を連れて来て、世話することは、当たり前になっているため、誰も驚きはしない。

 だか、レオナルドがキャロライナを特別だと思っていることは、暗黙の了解なので、キャロライナの大切な人と言う言葉は、トラバスにとっても、見過ごすことはできないのだ。

 レオナルドのためにも、二人が結ばれることは、もう邸の者全体の悲願になっている。

 それを知らないのは、キャロライナだけだろう。

 そして、いつまでも動かないレオナルドにモヤモヤしつつも、忙しいレオナルドを急かす時間を、トラバスは見つけることができないでいた。

 今日もトラバスは諦め、エイデンを客室に連れて行き、いつも通り魔力酔いが治まるまで、看病した。

 エイデンが元気になり、レオナルドに連れて行かれた王宮で、言われていた知り合いが国王だと知り、腰を抜かしそうになるのは、それから、二日後であった。

 めでたく、王宮に勤めることになったエイデンは、王の担当となり、遺憾なくその能力を発揮し、リーフェン王はエイデンを生涯離さず、いつもそばに控えさせた。
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