無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩

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3.怪しい人

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 キャロライナは地下牢の中で、何も考えられなくて横たわっていると、向かえの牢に入った男の人が声をかけてきていた。

「おーい、そこの人。
 助けてやれるかもしれないから、こっちに手を伸ばして。」

 キャロライナは起き上がってその男性を見ると、顔いっぱいに不精髭が生えて、汚れて、いかにも匂いそうなヨレヨレの服を着た人で、見るからに怪しい。

「いいです。」

 何だ、この人怖い。

「全部話聞いてたよ。
 お前やってないんだろ。

 このままなら、一生牢から出られないよ。
 それでいいのかよ。」

「よくないです。
 でも、あなた怖いです。」

「ここにいたら、誰だって、こうなるんだよ。
 しゃーないだろ。」

「まぁ、確かにそうですけど。
 何なら私も、ちょっと汚くなって来てます。」

「そーだろ、だから俺を信じろよ。」

「手を伸ばしたら、どうして助けれるんですか?」

「それはここでは言えない。
 後から、教えてやる。」

 怖いけど、信じてみる?
 悩んで、ジィっとその男性を見る。
 よく見ると、その男性は綺麗な眼をしている。
 サファイアのような深い青。
 そして、角度によっても輝きが違う。
 初めて見る色だ。

 年も二十歳そこそこ?
 思ったより、若い。

「お兄さん、どうしてここに入っているの?」

「それは役人の言うことを聞かなかったからだ。」

「ふーん、悪いことしてないの?」

「当たり前だ。
 俺はそんな人間じゃない。」

 男の人は、悪人と思われることに憤慨している。
 この人を信じていいのかなぁ。

 そもそも信じたからって、これ以上どうにもなるわけじゃないし。

「こう?」

 男の人の方へ、牢の隙間から、恐る恐る手を伸ばしてみた。 

 すると手を繋ぐように、向かえの牢から男の人も手を伸ばす。

 だか、二人の手が触れるには、後もう少し足りない。

 男性は考えると、今度は足を伸ばして来た。

 男の人の足に手を伸ばすが、それでも、後ちょっとだけ足りない。

「くそっ、もう少しなのに。
 そっちも足伸ばして。」

「嫌よ。
 人の前に足を出すなんて、お嫁に行けないわ。」

 貴族の女性の矜持として、ドレスの裾から足を出すなんてはしたない真似はできない。

「おいおい、どっちにしろお前、このままなら、嫁に行けないから。」

「そうだけど、恥ずかしいし、周りにも人いるし。」

 そう言って、周りを見渡すと興味深々という様子の人達が、成り行きを見守っている。

「しゃーないだろ。
 それしか方法がないんだから。」

「お兄さーん、私がやったげる。」

 私の隣の牢のお姉さんが、綺麗な足を出す。
 すると、周りの男達が、

「おー。」

 と声をあげて、明らかに興味を持ってしげしげとお姉さんの足を見ている。

「お姉さん、すいません。
 あなただとダメなんですよ。」

「まぁ、失礼な男ね。」

 お姉さんは気分を害したようで、足を引っ込めた。

「ほら、頑張って、足よこせ。」

 そう言って、また男の人はキャロライナに向かって、再び足を伸ばして来た。

 キャロライナはどうするか、迷っているけど、このままだと、もうどうにもならないのだから、腹を括って男の人に向かって、ドレスの裾から足を伸ばす。

 すると、周りの男達が再びジィっと私の足を見ている。
 もう嫌。

 そして、二人の足先が触れ合った瞬間、二人の体は、その場から消えた。

 その瞬間を目撃した牢に入った人達は、驚きの表情で、これは現実に起こったことなのか分からず、ヒイッと言って、腰を抜かした。

 次の瞬間二人がいたのは、立派な邸の庭先だった。

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