無実の令嬢と魔法使いは、今日も地味に骨折を治す

月山 歩

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1.私じゃありません

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 侯爵令嬢のキャロライナ・グウェンは階段の踊り場で、婚約者を待っていた。

 今夜はここ王宮で王家主催の舞踏会が開催されている。

 国中の貴族達が集められ、舞踏会会場は人でごった返しているため、比較的空いている階段の踊り場にいる。

 彼女の婚約者ルイス・フェルナンドが、この国の王子に呼ばれ、王宮の奥の王家控え室へと行ってしまっていたから。

 もう、ルイスったら、ちょっとって言ったのに、なかなか戻らないな。

 早くダンスを踊りたいと思いながら、ぼんやりルイスを待っていると、階段を転げ落ちていく女性が見えた。

 「キャーっ。」

 と数人の悲鳴が聞こえる。
 階段の下を覗くと、頭から血を流しぐったりとした女性が倒れていた。

 意識がないようで、その女性は倒れたまま動かない。

「どうした?
どうした?」

 すぐに近衛騎士が集まり、その中の一人がその女性を抱き上げ、手当をするために慌てて連れ去った。

 手当てをすれば、あの女性は回復するのだろうとほっとしていると、キャロライナの隣にいた女性が、

「この人が階段から、突き落としているのを見ました。」

 そう言って、私を指差す。

「私? 私じゃありません。」

 と慌てて言うが、近衛騎士達は、躊躇わず、

「こっち来い。」

 とキャロライナの両腕をがっちり掴み、私が逃げられないようにし、歩きだす。

「聞いてください。
 私じゃないんです。」

 必死に訴え、周りをみわたすが、聞きとめてくれる人はおらず、あっという間に人気の少ない王宮の地下牢に連れられて行く。

 そして、そこを守る牢の番人は牢を開けると、近衛騎士達は乱暴に、キャロライナを一つの牢に押し入れ、牢の番人がしっかりと鍵をかけた。

「その内、尋問担当者が来るから、言いたいことはそいつに言うんだな。」

 そう言い残して、近衛騎士達は去り、牢の番人は地下牢の入り口に戻った。

 牢の中は薄暗く、カビ臭さに加えて、何かが混ざった臭いに、キャロライナは吐きそうになる。

 かろうじて、入った牢は私だけだけど、周りの牢には複数人入っているところもあって、怖い。

 ガンガン牢を叩いて喚いている人や、体が傷だらけの人の呻き声が聞こえる。

 ここって悪いことした人の集合体みたいなところよね。
 早く出たい。

 どうしてこうなったんだろう?
 私じゃないのに。

 そもそも落ちた女性を押してないし、触ってもいない。
 完全に誤解だから、尋問担当者の方にちゃんと話して、わかってもらおう。

 しばらくすると、尋問担当者らしき大柄な男の人が牢の前までやって来た。

「お前か、悪い女だな。
 貴族だから、特別に塔に幽閉にしてやる。
 感謝するんだな。
 明日、移るぞ。」

「待って、聞いてください。
 私はやってません。」

「うるせい。
 そんなこと、どうでもいいんだよ。

 こっちはな、はいやりました、なんて言うやつだけ、信じるってわけにいかないんだよ。
 つべこべ言うなら、証拠持って来い。」

「証拠ですか…。」

 考えあぐねている間に、尋問担当者の男性はいなくなってしまった。

 どうしよう。
 証拠か。
 あの場にいた人で犯人を見た人はいないかなぁ?

 だとしても、あの場にいた人達を私自身も覚えてない。

 まずい、まずいわ。
 身に覚えのないことで、一生幽閉もありうるって言うか、ほぼほぼ決まりなの?

 誰か、助けてー。
 って叫びたい。
 誰も助けてくれないとわかっているけど。

 私の人生もう終わり?

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