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3.最後の夜会
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「また会ったね。」
「ええ。」
それから二年の月日が流れ、再び二人は夜会で顔を合わせた。
「君、大丈夫かい?
そのドレス、二年前と同じだろ?」
思わずビクトルは、女性に言ってはいけない声がけをしてしまい、しまったと口をつぐむ。
「ふふ、よく覚えているのね。
私、もう新しいドレスを買う余裕なんてないの。
お父様が亡くなって、貴族の称号も返上するつもり。
住んでいる邸も手放すわ。
あなたからしたら、私達が落ちぶれてせいせいしたと言うところかしら。
今日はお母様と私にとって、最後の夜会なの。
お母様が、今までお世話になった方々に挨拶したいと言ったから。
だから、あなたと会うのもこれで最後ね。
元気でね。」
セシルは微笑みを浮かべたまま、ビクトルに言いたいことを伝えたから、もう振り返らずに立ち去りたかった。
ビクトルとは、これ以上関わるのは危険だとわかっているし、今では裕福になった彼との違いを突きつけられるのは、辛くなるだけだから。
「失礼なことを言ってしまって、申し訳ない。
少し話をしよう。」
「もう、私達には話すことなんてないわ。」
「いや、ある。
今回は逃がさない。
前回のように明日なんて言っていたら、君はいなくなってしまうだろう。
だから、このまますぐに話をしよう。」
「私はあなたと再び関わって、傷つきたくないの。
今色々と大変で、あなたにまで追い詰められたくないの。」
「僕が君を傷つけるつもりだって言うのかい?」
「あなたの気持ちはわかっているわ。」
「僕の気持ちを君がわかっているはずがない。
はっきり言おう。
君はネルソン男爵が残した借金を抱えているだろう。
すべて手放したとして、今まで邸で働いてくれた者達の給金はどうするつもりだ?
未払いがあると聞いている。」
「それは、これから私が働いて返していくつもりよ。」
「それは一体いつになるんだ?
明日か?
十年後か?
君にいい方法を教えるよ。
時間をくれるね。」
ビクトルは、セシルが断るための理由を考える時間を与えなかった。
「ええ、わかったわ。」
そうして、二人は夜会の会場を後にし、ビクトルの所有するカントリーハウスへと向かうことになった。
「この部屋から、海が見えるのね。
素敵。」
「ここは僕の別邸なんだ。
どんなに色々な場所で暮らしても、時々海が恋しくなる。」
「ふふ、わかるわ。」
ビクトルのカントリーハウスは、海が一望できる居室がある静かな邸で、二人は並んでソファに座り、遠くに夜景が広がる海を眺めている。
「はっきり言うけれど、セシルが必要なのは、お金だよね。
借金や従者への支払いをするつもりだと言うが、従者は十年後にお金がほしいわけじゃない。
今すぐに支払ってほしいんだ。
だから、僕から提案がある。
君が僕の婚約者のフリをするんだ。
僕がそのためのお金を支払う。
そうすれば、借金を返して、従者達にもこれまでの給金を渡せるだろう?」
「どうして、そんなにお金を用意してくれると言うの?
あなたは私を利用した後、騙してお金を払わずに逃げるつもりね。」
「僕がそんな事をするとでも?」
「だって、私を憎んでいるんでしょ?」
「そのことはもういいんだ。
僕は確かにいっぱい稼いで、いつか君を見返してやろうと思っていた。
けれども、君は僕が見下さなくても、充分に貧しくなったから、もうそんなことはどうでもいい。
それよりも、今の僕の問題は、僕との結婚を狙う女性達からつけまわされて、ウンザリしていることだ。
だから、君にお金を払い、婚約者として隣に立ち、女性達を遠ざけてほしいと思っている。
いずれ、偽りの婚約を解消した時に、貴族籍も捨てて、社交会からも消えるのならば問題ないだろ?」
「そう言われても、私は簡単にビクトルを信じることはできないわ。」
「わかった。
じゃあ、明日、邸にお金を持って行って、君の抱えている借金を返し、従者達に必要な給金を払ってやる。
そして、君と婚約を解消する時に、残りのお金を払う。
そうすれば、信用するだろ?
僕は嘘はつかない。」
「わかったわ。
何より、今まで頑張ってくれた従者達に給金を渡したいの。」
「じゃあ、契約成立だな。
ただし、僕の婚約者役はしっかりと務めてもらうからな。」
「わかったわ。」
「じゃ、馬車で送らせるよ。
そして明日は、昼過ぎに邸へ行くよ。」
「ええ。
待っているわ。」
結局、セシルはビクトルの言う通りに、婚約者役を引き受けることにした。
でも、そんなことをして、本当に大丈夫なのだろうか?
でも、借金やその他のお金の問題について、私一人の力では到底返せるなんて言えないのが、現実だった。
最低限、それらが解決できれば、後は何とかなるかもしれない。
こうなったからには、ビクトルの言う通りにするしかないのだと思う。
結局、私は良くないとわかっているのに、またビクトルと関わることになってしまった。
心の中で彼への気持ちが燻っている以上、本当は離れるべきなのに。
ビクトルは夜会で再びセシルを見た時、彼女は僕よりもお金のある男を選んだ女だとわかっていながらも、どうしても手を差し伸べたくなった。
あれほどの美貌を持ちながら、何年もドレス一枚買えず、借金に苦しんでいるのに、それでもどこか凛としたあの瞳を、もう一度輝かせてあげたいと思ってしまった。
今の僕には、数え切れないほどのお金があるのだから、少しぐらいセシルに渡しても構わない。
もし、お金を渡すことでセシルを少しでも手に入れることができるなら、それも悪くないのではないだろうか。
結局、僕はネルソン男爵の邸を追い出された時から、「見返してやる。」と言いながら、本当はセシルを取り戻したかったのかもしれない。
それを仮初の契約だとしても、果たすことができたなら、僕はもうずっと燻ったままのセシルへの思いを、ようやく終わらせることができるのではないだろうか?
浅ましくお金を欲しがるセシルを見て、心底嫌になったら、心置きなく関係を終わらせられる。
それまでは、楽しもう。
「ええ。」
それから二年の月日が流れ、再び二人は夜会で顔を合わせた。
「君、大丈夫かい?
そのドレス、二年前と同じだろ?」
思わずビクトルは、女性に言ってはいけない声がけをしてしまい、しまったと口をつぐむ。
「ふふ、よく覚えているのね。
私、もう新しいドレスを買う余裕なんてないの。
お父様が亡くなって、貴族の称号も返上するつもり。
住んでいる邸も手放すわ。
あなたからしたら、私達が落ちぶれてせいせいしたと言うところかしら。
今日はお母様と私にとって、最後の夜会なの。
お母様が、今までお世話になった方々に挨拶したいと言ったから。
だから、あなたと会うのもこれで最後ね。
元気でね。」
セシルは微笑みを浮かべたまま、ビクトルに言いたいことを伝えたから、もう振り返らずに立ち去りたかった。
ビクトルとは、これ以上関わるのは危険だとわかっているし、今では裕福になった彼との違いを突きつけられるのは、辛くなるだけだから。
「失礼なことを言ってしまって、申し訳ない。
少し話をしよう。」
「もう、私達には話すことなんてないわ。」
「いや、ある。
今回は逃がさない。
前回のように明日なんて言っていたら、君はいなくなってしまうだろう。
だから、このまますぐに話をしよう。」
「私はあなたと再び関わって、傷つきたくないの。
今色々と大変で、あなたにまで追い詰められたくないの。」
「僕が君を傷つけるつもりだって言うのかい?」
「あなたの気持ちはわかっているわ。」
「僕の気持ちを君がわかっているはずがない。
はっきり言おう。
君はネルソン男爵が残した借金を抱えているだろう。
すべて手放したとして、今まで邸で働いてくれた者達の給金はどうするつもりだ?
未払いがあると聞いている。」
「それは、これから私が働いて返していくつもりよ。」
「それは一体いつになるんだ?
明日か?
十年後か?
君にいい方法を教えるよ。
時間をくれるね。」
ビクトルは、セシルが断るための理由を考える時間を与えなかった。
「ええ、わかったわ。」
そうして、二人は夜会の会場を後にし、ビクトルの所有するカントリーハウスへと向かうことになった。
「この部屋から、海が見えるのね。
素敵。」
「ここは僕の別邸なんだ。
どんなに色々な場所で暮らしても、時々海が恋しくなる。」
「ふふ、わかるわ。」
ビクトルのカントリーハウスは、海が一望できる居室がある静かな邸で、二人は並んでソファに座り、遠くに夜景が広がる海を眺めている。
「はっきり言うけれど、セシルが必要なのは、お金だよね。
借金や従者への支払いをするつもりだと言うが、従者は十年後にお金がほしいわけじゃない。
今すぐに支払ってほしいんだ。
だから、僕から提案がある。
君が僕の婚約者のフリをするんだ。
僕がそのためのお金を支払う。
そうすれば、借金を返して、従者達にもこれまでの給金を渡せるだろう?」
「どうして、そんなにお金を用意してくれると言うの?
あなたは私を利用した後、騙してお金を払わずに逃げるつもりね。」
「僕がそんな事をするとでも?」
「だって、私を憎んでいるんでしょ?」
「そのことはもういいんだ。
僕は確かにいっぱい稼いで、いつか君を見返してやろうと思っていた。
けれども、君は僕が見下さなくても、充分に貧しくなったから、もうそんなことはどうでもいい。
それよりも、今の僕の問題は、僕との結婚を狙う女性達からつけまわされて、ウンザリしていることだ。
だから、君にお金を払い、婚約者として隣に立ち、女性達を遠ざけてほしいと思っている。
いずれ、偽りの婚約を解消した時に、貴族籍も捨てて、社交会からも消えるのならば問題ないだろ?」
「そう言われても、私は簡単にビクトルを信じることはできないわ。」
「わかった。
じゃあ、明日、邸にお金を持って行って、君の抱えている借金を返し、従者達に必要な給金を払ってやる。
そして、君と婚約を解消する時に、残りのお金を払う。
そうすれば、信用するだろ?
僕は嘘はつかない。」
「わかったわ。
何より、今まで頑張ってくれた従者達に給金を渡したいの。」
「じゃあ、契約成立だな。
ただし、僕の婚約者役はしっかりと務めてもらうからな。」
「わかったわ。」
「じゃ、馬車で送らせるよ。
そして明日は、昼過ぎに邸へ行くよ。」
「ええ。
待っているわ。」
結局、セシルはビクトルの言う通りに、婚約者役を引き受けることにした。
でも、そんなことをして、本当に大丈夫なのだろうか?
でも、借金やその他のお金の問題について、私一人の力では到底返せるなんて言えないのが、現実だった。
最低限、それらが解決できれば、後は何とかなるかもしれない。
こうなったからには、ビクトルの言う通りにするしかないのだと思う。
結局、私は良くないとわかっているのに、またビクトルと関わることになってしまった。
心の中で彼への気持ちが燻っている以上、本当は離れるべきなのに。
ビクトルは夜会で再びセシルを見た時、彼女は僕よりもお金のある男を選んだ女だとわかっていながらも、どうしても手を差し伸べたくなった。
あれほどの美貌を持ちながら、何年もドレス一枚買えず、借金に苦しんでいるのに、それでもどこか凛としたあの瞳を、もう一度輝かせてあげたいと思ってしまった。
今の僕には、数え切れないほどのお金があるのだから、少しぐらいセシルに渡しても構わない。
もし、お金を渡すことでセシルを少しでも手に入れることができるなら、それも悪くないのではないだろうか。
結局、僕はネルソン男爵の邸を追い出された時から、「見返してやる。」と言いながら、本当はセシルを取り戻したかったのかもしれない。
それを仮初の契約だとしても、果たすことができたなら、僕はもうずっと燻ったままのセシルへの思いを、ようやく終わらせることができるのではないだろうか?
浅ましくお金を欲しがるセシルを見て、心底嫌になったら、心置きなく関係を終わらせられる。
それまでは、楽しもう。
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