身代わりの王女は、王妃回避の策を練る

月山 歩

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8.真実が暴かれた時

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 カサンドラ王女は、バイアットの王宮に入った時から、ここが気に入っていた。

 お父様が言っていた通り、王宮の豪華さ、使用人の数、お仕着せの布地に至るまでバイアット王国の方が豪華だわ。

 明らかにこちらの国の方が富んでいると、カサンドラ王女は確信した。

 きっとここの王妃になった方が、沢山贅沢ができる。 

 この王国は、私の物よ。

 そう思ってセオドロス陛下との面会を待っていた。



「カサンドラ王女待たせたな。
 何の用だ。」

 カサンドラ王女は威勢よく、王宮まで乗り込んで来たのに、セオドロスの眼を見て、たじろいでいる。

 ああ、そうだった。

 レオナも最初はこのように怯えた顔をしていたな。

 イワノフ王国では、よっぽど私のことは、恐れられているらしい。

 カサンドラ王女を目の前にしても、考えるのは、レオナのことだった。

「セオドロス陛下、私お伝えしたいことがありまして、参りましたの。
 レオナの出生に関することですわ。

 この話を聞いたら、セオドロス陛下の妃には、私がふさわしいと、ご理解いただけると思いますわ。」

「どんな理由でカサンドラ王女の方が相応しいと?
 とりあえず聞こうか。」

 「レオナから聞いていないと思いますが、実は彼女は、イワノフ王の血を分けた娘ではないのですわ。
 本当はただの男爵令嬢なのです。」

「何だって。
 どうして、そんなことが?」

「お恥ずかしい話ですが、当初私がセオドロス陛下のことを誤解しておりまして、レオナにイワノフ王の娘のふりを命じましたの。」

「レオナは、どうしてそれに従ったんだ?」

「レオナには、弟がおりまして、その者を処刑すると脅すと、あっさり言うことを聞きまして。」

「なるほど。
 だから、レオナは王女じゃないから、私に相応しくないと。」

「はい、その通りです。

 セオドロス陛下には、私のような洗練された本物の王女こそがふさわしいのです。」

「なるほど。
 では、どうして今更、そのことを私に伝える気になったのだ?」

「それは、バイアット王国の方が豊かだと知ったからですわ。

 豊かな王国には、私のような高貴な者がふさわしいでしょう。

 私は、レオナよりも美女ですから、豪華なドレスが似合いますし、この身体で、セオドロス陛下を満足させることもできますわ。

 民達も美しい私を見て、喜びますの。」

「わかった。
 では、カサンドラ王女を彼女にふさわしい地下牢へご案内してやって。」

「御意。」

 セオドロスがそう言うと、近衛騎士達は両脇からカサンドラ王女を捕まえて、そのまま引きずるように、喚く王女を連れ去った。




 カサンドラ王女が去った王の間では、セオドロスとモーガンが話している。

「レオナが弟思いなのを利用して、無理矢理王女のフリをさせるとは、カサンドラ王女は噂通りの酷い女だったな。

 それが悪いとも思っていない。
 一緒の空気を吸うだけで、ぞっとする。」

「そうですね。
 あれだけ毒を撒き散らすような王女が妃になったら、大変なことになります。

 セオドロス様、女ならば誰でもいいは、絶対にダメです。」

「ああ、わかっている。
 今となっては、レオナしか考えられない。

 だから、もう大丈夫だ。

 それにしても、予想外のカサンドラ王女の訪問で、レオナの今までの不可解な行動の謎が解けた。

 レオナは、この王国から何とかして逃げようと、策を練っていたんだな。」

 セオドロスとモーガンの前に、早馬で駆けつけた泥まみれのネイサンが、ふらつく足取りでひざまづく。

「セオドロス陛下、ご報告がございます。
 レオナ王女の乗った馬車が、土砂崩れに遭いまして、ただ今行方不明です。

 土砂ごと崖に落ちて行ったと思われます。

 私は、その前の土砂を片付けていて、巻き込まれずに済みましたが、レオナ王女とミゲルの行方が掴めず、捜索しておりました。

 ですが、夜になり松明で照らしても崖の下まで光が届かず、明日の朝まで、捜索は打ち切りになり、私は報告に参りました。

 レオナ王女を守れず、申し訳ありません。」

 ネイサンは泥だらけで、一人で立ち上がれないほどに憔悴しており、悔し涙を流している。

「お前の役目はここまでだ。
 後は任せてよい。」

 そう言うと、近衛騎士達は、ネイサンを連れて辞した。

「モーガン行くぞ。」

「はい。」

 セオドロスは、カサンドラ王女の話に衝撃を受けたが、それよりも行方不明になってしまったレオナを案じていた。




 セオドロスを乗せた軍馬は、月明かりを頼りに道を駆け続け、土砂崩れ現場にたどり着いた。

 だが、土砂が流れた崖は急勾配で、下を覗いても、ネイサンが言っていたように暗くてほとんど見えない。

 口には出さないがこの下で、とても命が助かっているとは思えなかった。

 けれども、セオドロスは諦めきれず、崖を下ろうと足を踏み出す。

「セオドロス様、お気持ちはわかりますけれど、おやめください。
 ここを進めば、セオドロス様も土砂に巻き込まれてしまいます。

 日の出と共に再び参りましょう。
 今は堪えてください。」

 モーガンの説得に、セオドロスは諦めるしかなかった。

 自分の身には、王国全体の未来がかかっている。

 この国の王として、ここで自分も遭難し、命を失うわけにはいかない。

「わかったよ。
 でも、こんなに王であることが嫌だと思ったことはない。

 ただの自分だったら、レオナをすぐにでも救出に向かうのに。」

 セオドロスは、崖下を見つめた。

 この判断が、レオナの命に関わるとしても、動くことができない。

 セオドロス達は近くの宿で、日の出まで、時間を潰すことにした。

 そして、日の出前に腹ごしらえして、出発しようとしていると、宿に早馬が到着する。

「セオドロス陛下、レオナ王女様が近くの治療院にいると、報告がありました。」

「何だって?」

「まだ、詳しい状況はわからないそうです。
 昼間訪問した治療院です。」

「わかった。
 すぐに向かう。」

 セオドロスは、風を切るように軍馬を走らせ、治療院にたどり着いた。

「セオドロス陛下こちらです。」

 医師が案内した先には、汚れて傷だらけな上、青白い顔をしてベッドに横たわるレオナ王女がいる。

「レオナ。」

 声をかけるが、レオナは眼を覚まさない。
 頬を触るとひんやりとしている。

「レオナは、大丈夫なのか?」

「まだはっきりわかりませんが、大きな傷はなく、極度の疲労のため意識を失ったと思われます。

 レオナ王女様は、足に傷のある少年を背負われて、土砂崩れ現場から、ここまで歩いて来たと思われます。」

「あの距離を?」

「はい、普通に歩くだけでも、か弱い御身では大変な距離です。

 なのに、少年を、背負われて。
 一人でここまでなんて。

 さぞかし大変だったと思われます。」

「そうだな。
 レオナは頑張ったんだな。」

 セオドロスは、横たわるレオナの頭を撫でる。

 少年を助けようと必死に歩くレオナの姿が、目に浮かぶ。

 レオナなら、そのような子供を見つけたら、無理をしてでも、助けようとするだろう。

 レオナは、私と同じように民のことを案じている。
 そう言う女性だ。

 セオドロスは、眼を覚まさないレオナを見つめる。

 レオナが生きていて、本当に良かった。

 そして、一連のことから、レオナがこの王国に来てから、何をしようとして、何に悩みながら過ごして来たか、セオドロスは理解した。

 そうか、レオナは弟を守るために、一人でこの国に来たんだな。

 そして、押しつけられた結婚から逃げるために、王宮を探索したり、王都の施設をまわったりしていた。

 それでも、王宮の警備は強固だし、王宮の外で逃げれば、護衛していた者達に迷惑をかけてしまう。

 だから、この国の者達を知れば知るほど、悩みは深くなっていたんだな。

 今回やっと逃げ出す機会があったのに、子供を放っておくことができなかった。

 その判断は、どこまでもレオナらしい。

 でも、君は間違っている。



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