身代わりの王女は、王妃回避の策を練る

月山 歩

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6.弟からの手紙

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 ある朝、オードラが手紙を差し出した。

「レオナ様、お手紙が届いています。

 差し出し人が書かれてないのですが、イワノフ王国からのものなので、一応、レオナ様に確認をとお持ちいたしました。」

「ありがとう。」

 その手紙は間違いなく、サイラスからの手紙であった。

 サイラスは、学院を履修し、ちゃんと医師になれたのね。

 そして、私との約束を守り、王家の者に見つからないところに、逃げ延びている。

 私は、サイラスのことを忘れていたわけではないけれど、最近はセオドロス様と過ごすことを楽しんでいた。

 ここで暮らす毎日が楽しくて、目を背けていたけれど、私は王女ではない。

 ただの男爵令嬢だ。

 今いるこの場所は、王女のみが許される場所。

 どちらにしても、セオドロス様の子を王女でない私が産んで、彼を騙すわけにはいかない。

 更に罪が増えていくだけだ。

 セオドロス様に好意を持ってしまった今、ここにいることに、罪悪感が募る。

 だからって、セオドロス様に洗いざらい話してしまえば、王国間の摩擦になる。

 やはり、当初の予定通り私は、逃げるしかない。

 でも、それはセオドロス様の人間性を誤解していたからこその案だった。

 とても、彼の人となりを知ってしまった今では、彼を裏切りたくない。

 でも、真実を言うことも、結婚してしまうこともできない。

 だったら、どうしたら良いのだろう?

 いくら考えても、良い案は浮かんで来ない。
 私はその日から、ずっと解決策を考えている。




 最近レオナのようすが、変だ。

 笑っていても、気を抜くと悩んでいる表情を浮かべている。

「悩みごとがあるのか?」

「いいえ、式が近いから緊張しているだけです。」

「ならいいが。」

 レオナはそう言いつつも、食事の手が止まっていることに気づいていない。

 そして、また、顔を曇らせる。
 心なしか、この王国に来た時よりも、痩せた気もする。

 以前の自分であったなら、女性が悩んでいても、気づかないふりをしただろう。

 大概が面倒なことだから。

 でも今は、できることならば、レオナの問題を解決してやりたい。

 そんな自分は、大分もうレオナに惚れている。

 私ならば、ほとんどのことが解決できるのに。

 憂いを帯びたレオナの儚さは増して、私の心を離さない。

 食事中だと言うのに、今すぐ抱きしめて、慰めてやりたくなる。

「セオドロス様、また治療院を訪問してもいいですか?」

「ああ、いいよ。」

「王都から外れたところでもいいですか?」

「何故そんなところに?」

「王都を外れた場所にあっても、等しく治療が受けられているのか、この目で見たいのです。」

「ああ、わかった。
 手配しよう。」

 レオナは、ほっと溜息をつく。




 私は脱走した後、イワノフ王国より、こちらの王国の片隅で、暮らしていきたい。

 そうすれば、セオドロス様の愛するこの王国にい続けることができる。

 そして、再び王宮を出れば、脱走の糸口が見つかるかもしれない。

 もう結婚式まで、あまり時間がない。
 早く脱走しなければ。

 レオナは、治療院に向けて王家の馬車で出発する。





 レオナの出発直後、カサンドラ王女が先ぶれもなく、王宮に辻馬車でたどり着いた。

「私はイワノフ王国のカサンドラ王女よ。
 セオドロス王に会わせてちょうだい。」

 門番は慌てて、入門を許可して良いのか、上官に問い合わせる。

 この女性が、本当に女王なのかも、わからないからである。

「もういつまで、待たせるの。
 不敬ね。」

 カサンドラ王女は、大声で騒いでいる。

 そこに、呼ばれたモーガンがやって来る。

「イワノフの王女様と言うことで?」

「そうよ。
 私は、カサンドラ王女よ。
 さっさと、通してちょうだい。
 セオドロス王に話があるのよ?」

「さようですか。
 軽くどのようなことについてなのか、伺っても?」

「こんなところでする話じゃないわ。
 レオナについてよ。」

「では、お入りください。
 お一人ですか?」

 モーガンは、辻馬車にも驚くが、共の者がいないのにも驚いて、首を傾げる。

「しょうがないでしょ。
 使えない者達ばっかりで、ウンザリなのよ。
 早く、案内して。」

 モーガンは、カサンドラ王女が護衛も侍女もおらず、この場所にたどり着いたのが不思議であるが、彼女が王女なのは間違いない。

 大分昔に、イワノフ王国の王宮で、この王女を見た気がする。

 カサンドラ王女が、少女時代に。

 逆に、レオナ王女は自分の中では、印象に残っていない。

 イワノフ王国の王女として、イワノフ王からの書状を持参し、この王国に入って来ていたから、当たり前に受け入れていただけだ。

 これは、どう言うことなのだ?
 何かがおかしい。

 モーガンは、悩みだした。

 それでも、一応カサンドラ王女を国賓室に案内する。

 すると、その部屋の豪華さにカサンドラ王女は満足し、まるでここが自分の国のようにくつろぎだす。

 旅では、納得のいく対応がされず、イライラが募っていたからである。

 ここに、カサンドラ王女が一人で現れたのには、理由がある。

 最初は、護衛も侍女もいたが、カサンドラ王女が我儘放題に騒いで、途中で彼らを一人ずつ道すがら、置いて来たのである。

 モーガンは、カサンドラ王女を部屋で待たせ、先にセオドロスに報告に向かう。

 一応、部屋の前には、近衛騎士を配備する。

 この女王がトラブルの種になりそうなのは、一目見た時から、感じている。

 あの傲慢な態度は、噂で聞いた方に間違いないだろう。

 とてもじゃないが、先にセオドロス様に自分の口から報告せずに、カサンドラ王女に合わせるわけにはいかない。

 王の間に入ると、執務中のセオドロスが、目を上げる。

「セオドロス様、面倒なことになりました。」

「何だ?
 モーガンが、そんなことを言うのは珍しいな。」

「イワノフ王国のカサンドラ王女と言う方が、たった一人で、護衛もつけずに、門前まで来ました。

 門番達も困り果て、私を呼びに来て、確認しましたが、カサンドラ王女で間違いないようです。

 今さらですが、昔イワノフ王国で、見たことがあるような気がするんです。

 まだ、その頃は王女が幼かったので、はっきりはわかりませんが。

 セオドロス様は、幼い王女などには、目を向けませんから、覚えていないでしょう。

 何よりも、見るからに傲慢な態度が、噂で聞いていた方、そのものです。

 今、国賓室で待たせていますが、どうなさいますか?」

「それは、面倒だね。
 でも、会うしかないか。」

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