3 / 5
3.王宮での暮らし
しおりを挟む
「レオナ様今日はどちらに向かいますか?」
「そうね。
今日は、厨房の方を見たいわ。」
「わかりました。
では、そのようにミゲルに伝えますね。」
オードラは、私にお茶を出すと、居室を出て、今日の探索場所をミゲルに伝えに行った。
この王宮に来てから、少しの時が経っていた。
私は、セオドロス様に会った次の日から、特に呼ばれることもなく、放置されている。
だから表向きは、王宮の把握と言うことにして、私は半年後の脱走に向けて、日々王宮の内部を巡り、いかにして脱走するか、思案している。
居室から出る時は、前後に近衛騎士が必ずつくのだ。
後ろの近衛騎士も挨拶してくれた。
「僕は、ネイサンです。
よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくね。」
ミゲルより、少し若いけれども、騎士なだけあって、しっかりと筋肉はついている。
そして、この方もまた綺麗な顔をしている。
どうして、私の周りには、整った顔の騎士ばかりなのだろう?
前後に綺麗な顔の男性に挟まれて歩く私は、王宮のどこを歩いても、目立ってしまう。
私は、できれば忍んで、王宮の見取り図と警備の薄い箇所を見つけたいのに、いい男達を見ようと、王宮の侍女達が集まり、何の見せ物だと言う状態になってしまう。
これでは、どこでいつ手薄な時があるのか、さっぱりわからない。
それがわからなければ、脱走計画が立てられないのに。
「ねぇ、ミゲル。
私一人か、オードラと二人で、まわるのはダメかしら?
王宮内なのだから、女性だけでも危険ではないでしょう?
申し訳ないけれども、あなた達がいると、侍女達が集まって来てしまって、ゆっくり見て歩けないのよ。」
「そう言われましても、セオドロス陛下の命令は絶対です。」
「あなた達だって、私についているより、もっと活躍できる場所があるでしょうから、申し訳ないわ。」
「いいえ、陛下はレオナ王女を大切に思っているのでしょうから、気にせずに。」
今度、セオドロス陛下に会ったら、不安だけど、絶対に言ってみよう。
だってこの王国は貧しいと、ニクラス公爵子息は言っていた。
なのに、私に二人の近衛騎士がつくなんて、無駄だと思う。
それもあって、カサンドラ王女が婚姻を嫌がったのだから。
でも、この王宮の中にいたら、とても貧しいとは思えない。
イワノフ王国より、明らかに王宮で働いている人数は多いし、食べ物も豊富で、建物も調度品一つ一つが高級だと思う。
今ある私のドレスだって、カサンドラ王女よりもすでに多い。
私は望んでいないのにだ。
私は、贅沢をしたいわけではないので、オードラにこんなにいらないと言うと、
「セオドロス陛下の命令です。」
と、こちらも聞いてもらえない。
私には、セオドロス陛下の考えていることがわからない。
「オードラ、この王国は貧しいのでないの?」
「私は、この王国から出たことがないのでわかりませんが、貧しいと思ったことはありません。
民の不満の声も聞こえて来ません。」
「そうなのね。
私もわけがわからないわ。」
「レオナ様は美しくあるために、ドレスも美容もこのまま受け入れてください。
セオドロス陛下が喜びます。」
「陛下に会うこともないのに?」
「はい、それでもです。」
私はカサンドラ王女が好きな贅沢な暮らしをして、見目の良い男性をいつも侍らせている。
だったら、カサンドラ王女が来れば、良かったのに。
まぁ一番嫌がったセオドロス陛下の人柄は、まだよくわからないけれども。
少なくとも、環境面では嫌ではないはずだ。
私は、オードラに反対することを諦めて、回廊から厨房、その先の勝手口まで、見てまわる。
もちろん前後の近衛騎士と周りの侍女達付きだ。
今は料理中ではないから、厨房の中は閑散としている。
なので、料理長が対応してくれた。
「この勝手口から、野菜が搬入されるのね。
業者の方は王宮のどこまで入って来るのかしら?」
「業者は厨房まで、入りません。
手前の商品受け渡し場までです。
勝手口の前に馬車止めがありますから、そこまで馬車で来ます。
徒歩で来る者も、商品受け渡し場までしか入れないことは同じです。」
「なるほど。
勝手口から厨房へは、商品受け渡し場があるから、直接入れないのね。」
「そうです。
万が一の侵入者を逃さない対策です。」
「そうですか。
立派ですね。」
「はい、ありがとうございます。」
料理長は王宮の勝手口周囲に不備がないことを褒められて、誇らしげだ。
けれども私は、今日も脱走方法を見つけられなくて、ガッカリした。
侵入者を逃さないと言うことは、脱走者も捕まると言うこと。
業者、来場者どのルートでも、必ず門番などがおり、とても脱走できそうにない。
バイアット王国は、貧しいと聞いていたので、王宮の警備も行き届いてないと思っていたのだ。
私の考えが甘かった。
やはり、王宮の外で行方をくらますしかないのか?
だとしても、今は二人の近衛騎士だけど、王宮の外なら、後何人追加されるのか?
近衛騎士達を巻き込んで、彼らの落ち度にしたくないから、王宮から一人で抜け出そうとしたけれど、もう無理だと知ってしまった。
私は諦めて、重い足取りで、居室に戻る。
サイラスとまた会おうと約束したけれど、とても半年で脱走するルートなんて、見つけられそうもない。
「セオドロス様、今日もレオナ王女は王宮内を探索していましたよ。」
モーガンは執務室の中で、レオナの話をするのがお気に入りだ。
「そうか。」
「レオナ王女は、何をしたいのでしょうか?
表向きは、王宮の把握と言うことになっていますが。」
「我が王宮の警備体制か人員配置か?
普通に王宮内を見たいだけか?
何にせよ、当初の私達の予想は外れたな。
近衛騎士に手を出して来ない。
だが、何か企んでいるはずだ。
警戒は怠るな。
影はついているな?」
「はい、どうやら近衛騎士達に、侍女と二人で王宮内を周りたいと話したそうです。
せっかく、見目の良い男達を揃えたのに、そのことには興味なしだそうで、あえて接近しても、誘って来ないようです。」
「そうか、たまたまその者達が好みでないとか?」
「それはわかりません。
でも、無類の男好きで無ければ、男達を何人も侍らせていませんよ。
普通は、タイプの男のみに絞るはずですから。」
「私達は何の話をしてるんだ?
王女の好みか?
そんなことはどうでもいい。
とにかく、レオナが面白いのは、確かだな。
私達の想像を超えて来る。
男達に興味がないなら、食事でもして、探ってみるか?」
「ぜひ、そうなさってください。
何しろ婚約者なのに、あの日以来会っていないのですから。」
「手配しておいてくれ。」
「そうね。
今日は、厨房の方を見たいわ。」
「わかりました。
では、そのようにミゲルに伝えますね。」
オードラは、私にお茶を出すと、居室を出て、今日の探索場所をミゲルに伝えに行った。
この王宮に来てから、少しの時が経っていた。
私は、セオドロス様に会った次の日から、特に呼ばれることもなく、放置されている。
だから表向きは、王宮の把握と言うことにして、私は半年後の脱走に向けて、日々王宮の内部を巡り、いかにして脱走するか、思案している。
居室から出る時は、前後に近衛騎士が必ずつくのだ。
後ろの近衛騎士も挨拶してくれた。
「僕は、ネイサンです。
よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくね。」
ミゲルより、少し若いけれども、騎士なだけあって、しっかりと筋肉はついている。
そして、この方もまた綺麗な顔をしている。
どうして、私の周りには、整った顔の騎士ばかりなのだろう?
前後に綺麗な顔の男性に挟まれて歩く私は、王宮のどこを歩いても、目立ってしまう。
私は、できれば忍んで、王宮の見取り図と警備の薄い箇所を見つけたいのに、いい男達を見ようと、王宮の侍女達が集まり、何の見せ物だと言う状態になってしまう。
これでは、どこでいつ手薄な時があるのか、さっぱりわからない。
それがわからなければ、脱走計画が立てられないのに。
「ねぇ、ミゲル。
私一人か、オードラと二人で、まわるのはダメかしら?
王宮内なのだから、女性だけでも危険ではないでしょう?
申し訳ないけれども、あなた達がいると、侍女達が集まって来てしまって、ゆっくり見て歩けないのよ。」
「そう言われましても、セオドロス陛下の命令は絶対です。」
「あなた達だって、私についているより、もっと活躍できる場所があるでしょうから、申し訳ないわ。」
「いいえ、陛下はレオナ王女を大切に思っているのでしょうから、気にせずに。」
今度、セオドロス陛下に会ったら、不安だけど、絶対に言ってみよう。
だってこの王国は貧しいと、ニクラス公爵子息は言っていた。
なのに、私に二人の近衛騎士がつくなんて、無駄だと思う。
それもあって、カサンドラ王女が婚姻を嫌がったのだから。
でも、この王宮の中にいたら、とても貧しいとは思えない。
イワノフ王国より、明らかに王宮で働いている人数は多いし、食べ物も豊富で、建物も調度品一つ一つが高級だと思う。
今ある私のドレスだって、カサンドラ王女よりもすでに多い。
私は望んでいないのにだ。
私は、贅沢をしたいわけではないので、オードラにこんなにいらないと言うと、
「セオドロス陛下の命令です。」
と、こちらも聞いてもらえない。
私には、セオドロス陛下の考えていることがわからない。
「オードラ、この王国は貧しいのでないの?」
「私は、この王国から出たことがないのでわかりませんが、貧しいと思ったことはありません。
民の不満の声も聞こえて来ません。」
「そうなのね。
私もわけがわからないわ。」
「レオナ様は美しくあるために、ドレスも美容もこのまま受け入れてください。
セオドロス陛下が喜びます。」
「陛下に会うこともないのに?」
「はい、それでもです。」
私はカサンドラ王女が好きな贅沢な暮らしをして、見目の良い男性をいつも侍らせている。
だったら、カサンドラ王女が来れば、良かったのに。
まぁ一番嫌がったセオドロス陛下の人柄は、まだよくわからないけれども。
少なくとも、環境面では嫌ではないはずだ。
私は、オードラに反対することを諦めて、回廊から厨房、その先の勝手口まで、見てまわる。
もちろん前後の近衛騎士と周りの侍女達付きだ。
今は料理中ではないから、厨房の中は閑散としている。
なので、料理長が対応してくれた。
「この勝手口から、野菜が搬入されるのね。
業者の方は王宮のどこまで入って来るのかしら?」
「業者は厨房まで、入りません。
手前の商品受け渡し場までです。
勝手口の前に馬車止めがありますから、そこまで馬車で来ます。
徒歩で来る者も、商品受け渡し場までしか入れないことは同じです。」
「なるほど。
勝手口から厨房へは、商品受け渡し場があるから、直接入れないのね。」
「そうです。
万が一の侵入者を逃さない対策です。」
「そうですか。
立派ですね。」
「はい、ありがとうございます。」
料理長は王宮の勝手口周囲に不備がないことを褒められて、誇らしげだ。
けれども私は、今日も脱走方法を見つけられなくて、ガッカリした。
侵入者を逃さないと言うことは、脱走者も捕まると言うこと。
業者、来場者どのルートでも、必ず門番などがおり、とても脱走できそうにない。
バイアット王国は、貧しいと聞いていたので、王宮の警備も行き届いてないと思っていたのだ。
私の考えが甘かった。
やはり、王宮の外で行方をくらますしかないのか?
だとしても、今は二人の近衛騎士だけど、王宮の外なら、後何人追加されるのか?
近衛騎士達を巻き込んで、彼らの落ち度にしたくないから、王宮から一人で抜け出そうとしたけれど、もう無理だと知ってしまった。
私は諦めて、重い足取りで、居室に戻る。
サイラスとまた会おうと約束したけれど、とても半年で脱走するルートなんて、見つけられそうもない。
「セオドロス様、今日もレオナ王女は王宮内を探索していましたよ。」
モーガンは執務室の中で、レオナの話をするのがお気に入りだ。
「そうか。」
「レオナ王女は、何をしたいのでしょうか?
表向きは、王宮の把握と言うことになっていますが。」
「我が王宮の警備体制か人員配置か?
普通に王宮内を見たいだけか?
何にせよ、当初の私達の予想は外れたな。
近衛騎士に手を出して来ない。
だが、何か企んでいるはずだ。
警戒は怠るな。
影はついているな?」
「はい、どうやら近衛騎士達に、侍女と二人で王宮内を周りたいと話したそうです。
せっかく、見目の良い男達を揃えたのに、そのことには興味なしだそうで、あえて接近しても、誘って来ないようです。」
「そうか、たまたまその者達が好みでないとか?」
「それはわかりません。
でも、無類の男好きで無ければ、男達を何人も侍らせていませんよ。
普通は、タイプの男のみに絞るはずですから。」
「私達は何の話をしてるんだ?
王女の好みか?
そんなことはどうでもいい。
とにかく、レオナが面白いのは、確かだな。
私達の想像を超えて来る。
男達に興味がないなら、食事でもして、探ってみるか?」
「ぜひ、そうなさってください。
何しろ婚約者なのに、あの日以来会っていないのですから。」
「手配しておいてくれ。」
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
白い結婚の契約ですね? 喜んで務めさせていただきます
アソビのココロ
恋愛
「ジニー、僕は君を愛そうとは思わない」
アッシュビー伯爵家の嫡男ユージンに嫁いだホルスト男爵家ジニーは、白い結婚を宣告された。ユージンには愛する平民の娘がいたから。要するにジニーは、二年間の契約でユージンの妻役を務めることを依頼されたのだ。
「慰謝料の名目で、最低これだけ払おう」
「大変結構な条件です。精一杯努力させていただきます」
そして二年が経過する。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる