身代わりの王女は、王妃回避の策を練る

月山 歩

文字の大きさ
上 下
3 / 10

3.王宮での暮らし

しおりを挟む
「レオナ様今日はどちらに向かいますか?」

「そうね。
 今日は、厨房の方を見たいわ。」

「わかりました。
 では、そのようにミゲルに伝えますね。」

 オードラは、私にお茶を出すと、居室を出て、今日の探索場所をミゲルに伝えに行った。

 この王宮に来てから、少しの時が経っていた。

 私は、セオドロス様に会った次の日から、特に呼ばれることもなく、放置されている。

 だから表向きは、王宮の把握と言うことにして、私は半年後の脱走に向けて、日々王宮の内部を巡り、いかにして脱走するか、思案している。

 居室から出る時は、前後に近衛騎士が必ずつくのだ。

 後ろの近衛騎士も挨拶してくれた。

「僕は、ネイサンです。
 よろしくお願いします。」 

「こちらこそ、よろしくね。」

 ミゲルより、少し若いけれども、騎士なだけあって、しっかりと筋肉はついている。

 そして、この方もまた綺麗な顔をしている。

 どうして、私の周りには、整った顔の騎士ばかりなのだろう?

 前後に綺麗な顔の男性に挟まれて歩く私は、王宮のどこを歩いても、目立ってしまう。

 私は、できれば忍んで、王宮の見取り図と警備の薄い箇所を見つけたいのに、いい男達を見ようと、王宮の侍女達が集まり、何の見せ物だと言う状態になってしまう。

 これでは、どこでいつ手薄な時があるのか、さっぱりわからない。

 それがわからなければ、脱走計画が立てられないのに。

「ねぇ、ミゲル。
 私一人か、オードラと二人で、まわるのはダメかしら?

 王宮内なのだから、女性だけでも危険ではないでしょう?

 申し訳ないけれども、あなた達がいると、侍女達が集まって来てしまって、ゆっくり見て歩けないのよ。」

「そう言われましても、セオドロス陛下の命令は絶対です。」

「あなた達だって、私についているより、もっと活躍できる場所があるでしょうから、申し訳ないわ。」

「いいえ、陛下はレオナ王女を大切に思っているのでしょうから、気にせずに。」

 今度、セオドロス陛下に会ったら、不安だけど、絶対に言ってみよう。

 だってこの王国は貧しいと、ニクラス公爵子息は言っていた。

 なのに、私に二人の近衛騎士がつくなんて、無駄だと思う。

 それもあって、カサンドラ王女が婚姻を嫌がったのだから。

 でも、この王宮の中にいたら、とても貧しいとは思えない。

 イワノフ王国より、明らかに王宮で働いている人数は多いし、食べ物も豊富で、建物も調度品一つ一つが高級だと思う。

 今ある私のドレスだって、カサンドラ王女よりもすでに多い。

 私は望んでいないのにだ。

 私は、贅沢をしたいわけではないので、オードラにこんなにいらないと言うと、

「セオドロス陛下の命令です。」

 と、こちらも聞いてもらえない。

 私には、セオドロス陛下の考えていることがわからない。

「オードラ、この王国は貧しいのでないの?」

「私は、この王国から出たことがないのでわかりませんが、貧しいと思ったことはありません。

 民の不満の声も聞こえて来ません。」

「そうなのね。
 私もわけがわからないわ。」

「レオナ様は美しくあるために、ドレスも美容もこのまま受け入れてください。

 セオドロス陛下が喜びます。」

「陛下に会うこともないのに?」

「はい、それでもです。」

 私はカサンドラ王女が好きな贅沢な暮らしをして、見目の良い男性をいつも侍らせている。

 だったら、カサンドラ王女が来れば、良かったのに。
 
 まぁ一番嫌がったセオドロス陛下の人柄は、まだよくわからないけれども。

 少なくとも、環境面では嫌ではないはずだ。



 私は、オードラに反対することを諦めて、回廊から厨房、その先の勝手口まで、見てまわる。

 もちろん前後の近衛騎士と周りの侍女達付きだ。

 今は料理中ではないから、厨房の中は閑散としている。

 なので、料理長が対応してくれた。

「この勝手口から、野菜が搬入されるのね。

 業者の方は王宮のどこまで入って来るのかしら?」

「業者は厨房まで、入りません。
 手前の商品受け渡し場までです。

 勝手口の前に馬車止めがありますから、そこまで馬車で来ます。

 徒歩で来る者も、商品受け渡し場までしか入れないことは同じです。」

「なるほど。
 勝手口から厨房へは、商品受け渡し場があるから、直接入れないのね。」

「そうです。
 万が一の侵入者を逃さない対策です。」

「そうですか。
 立派ですね。」

「はい、ありがとうございます。」

 料理長は王宮の勝手口周囲に不備がないことを褒められて、誇らしげだ。

 けれども私は、今日も脱走方法を見つけられなくて、ガッカリした。

 侵入者を逃さないと言うことは、脱走者も捕まると言うこと。

 業者、来場者どのルートでも、必ず門番などがおり、とても脱走できそうにない。

 バイアット王国は、貧しいと聞いていたので、王宮の警備も行き届いてないと思っていたのだ。

 私の考えが甘かった。

 やはり、王宮の外で行方をくらますしかないのか?

 だとしても、今は二人の近衛騎士だけど、王宮の外なら、後何人追加されるのか?

 近衛騎士達を巻き込んで、彼らの落ち度にしたくないから、王宮から一人で抜け出そうとしたけれど、もう無理だと知ってしまった。

 私は諦めて、重い足取りで、居室に戻る。

 サイラスとまた会おうと約束したけれど、とても半年で脱走するルートなんて、見つけられそうもない。





「セオドロス様、今日もレオナ王女は王宮内を探索していましたよ。」

 モーガンは執務室の中で、レオナの話をするのがお気に入りだ。

「そうか。」

「レオナ王女は、何をしたいのでしょうか?
 表向きは、王宮の把握と言うことになっていますが。」

「我が王宮の警備体制か人員配置か?
 普通に王宮内を見たいだけか?

 何にせよ、当初の私達の予想は外れたな。
 近衛騎士に手を出して来ない。

 だが、何か企んでいるはずだ。
 警戒は怠るな。
 影はついているな?」


「はい、どうやら近衛騎士達に、侍女と二人で王宮内を周りたいと話したそうです。

 せっかく、見目の良い男達を揃えたのに、そのことには興味なしだそうで、あえて接近しても、誘って来ないようです。」

「そうか、たまたまその者達が好みでないとか?」

「それはわかりません。
 でも、無類の男好きで無ければ、男達を何人も侍らせていませんよ。

 普通は、タイプの男のみに絞るはずですから。」

「私達は何の話をしてるんだ?
 王女の好みか?
 そんなことはどうでもいい。

 とにかく、レオナが面白いのは、確かだな。
 私達の想像を超えて来る。

 男達に興味がないなら、食事でもして、探ってみるか?」

「ぜひ、そうなさってください。
 何しろ婚約者なのに、あの日以来会っていないのですから。」

「手配しておいてくれ。」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結】虐げられてきた孤独な王女は政略結婚で呪われた獣人皇帝に嫁ぎました。

朝日みらい
恋愛
王女フィオナは姉ばかりを溺愛する両親に冷遇され、唯一の心の支えはペットのハム豚・ルルだった。そんな彼女は、姉の代わりに隣国の冷酷で毒舌な皇帝エイゼンへ政略結婚を命じられる。エイゼンは無情に振る舞うが、その裏には夜ごと獣人に変身する呪いを隠す秘密があった―――!

怖がりの女領主は守られたい

月山 歩
恋愛
両親を急に無くして女領主になった私は、私と結婚すると領土と男爵位、財産を得られるからと、悪い男達にいつも攫われそうになり、護衛に守られながら、逃げる毎日だ。そんなある時、強い騎士と戦略を立てるのが得意な男達と出会い、本当に好きな人がわかり結婚する。 ゆるめなお話です。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。 たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。 そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…? 傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。

愛され女は、秘されたギフトを惜しまない

月山 歩
恋愛
アリスは適職がわかるギフトがある。それを秘密にしつつ、孤児院の子供達に使っている。幼馴染のレイモンドはそんな彼女の世話をやく。しかし、いつしかそのギフトは悪事を企む人々に知られることになり、彼女に危機が迫る。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

処理中です...