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3.王宮での暮らし

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「レオナ様今日はどちらに向かいますか?」

「そうね。
 今日は、厨房の方を見たいわ。」

「わかりました。
 では、そのようにミゲルに伝えますね。」

 オードラは、私にお茶を出すと、居室を出て、今日の探索場所をミゲルに伝えに行った。

 この王宮に来てから、少しの時が経っていた。

 私は、セオドロス様に会った次の日から、特に呼ばれることもなく、放置されている。

 だから表向きは、王宮の把握と言うことにして、私は半年後の脱走に向けて、日々王宮の内部を巡り、いかにして脱走するか、思案している。

 居室から出る時は、前後に近衛騎士が必ずつくのだ。

 後ろの近衛騎士も挨拶してくれた。

「僕は、ネイサンです。
 よろしくお願いします。」 

「こちらこそ、よろしくね。」

 ミゲルより、少し若いけれども、騎士なだけあって、しっかりと筋肉はついている。

 そして、この方もまた綺麗な顔をしている。

 どうして、私の周りには、整った顔の騎士ばかりなのだろう?

 前後に綺麗な顔の男性に挟まれて歩く私は、王宮のどこを歩いても、目立ってしまう。

 私は、できれば忍んで、王宮の見取り図と警備の薄い箇所を見つけたいのに、いい男達を見ようと、王宮の侍女達が集まり、何の見せ物だと言う状態になってしまう。

 これでは、どこでいつ手薄な時があるのか、さっぱりわからない。

 それがわからなければ、脱走計画が立てられないのに。

「ねぇ、ミゲル。
 私一人か、オードラと二人で、まわるのはダメかしら?

 王宮内なのだから、女性だけでも危険ではないでしょう?

 申し訳ないけれども、あなた達がいると、侍女達が集まって来てしまって、ゆっくり見て歩けないのよ。」

「そう言われましても、セオドロス陛下の命令は絶対です。」

「あなた達だって、私についているより、もっと活躍できる場所があるでしょうから、申し訳ないわ。」

「いいえ、陛下はレオナ王女を大切に思っているのでしょうから、気にせずに。」

 今度、セオドロス陛下に会ったら、不安だけど、絶対に言ってみよう。

 だってこの王国は貧しいと、ニクラス公爵子息は言っていた。

 なのに、私に二人の近衛騎士がつくなんて、無駄だと思う。

 それもあって、カサンドラ王女が婚姻を嫌がったのだから。

 でも、この王宮の中にいたら、とても貧しいとは思えない。

 イワノフ王国より、明らかに王宮で働いている人数は多いし、食べ物も豊富で、建物も調度品一つ一つが高級だと思う。

 今ある私のドレスだって、カサンドラ王女よりもすでに多い。

 私は望んでいないのにだ。

 私は、贅沢をしたいわけではないので、オードラにこんなにいらないと言うと、

「セオドロス陛下の命令です。」

 と、こちらも聞いてもらえない。

 私には、セオドロス陛下の考えていることがわからない。

「オードラ、この王国は貧しいのでないの?」

「私は、この王国から出たことがないのでわかりませんが、貧しいと思ったことはありません。

 民の不満の声も聞こえて来ません。」

「そうなのね。
 私もわけがわからないわ。」

「レオナ様は美しくあるために、ドレスも美容もこのまま受け入れてください。

 セオドロス陛下が喜びます。」

「陛下に会うこともないのに?」

「はい、それでもです。」

 私はカサンドラ王女が好きな贅沢な暮らしをして、見目の良い男性をいつも侍らせている。

 だったら、カサンドラ王女が来れば、良かったのに。
 
 まぁ一番嫌がったセオドロス陛下の人柄は、まだよくわからないけれども。

 少なくとも、環境面では嫌ではないはずだ。



 私は、オードラに反対することを諦めて、回廊から厨房、その先の勝手口まで、見てまわる。

 もちろん前後の近衛騎士と周りの侍女達付きだ。

 今は料理中ではないから、厨房の中は閑散としている。

 なので、料理長が対応してくれた。

「この勝手口から、野菜が搬入されるのね。

 業者の方は王宮のどこまで入って来るのかしら?」

「業者は厨房まで、入りません。
 手前の商品受け渡し場までです。

 勝手口の前に馬車止めがありますから、そこまで馬車で来ます。

 徒歩で来る者も、商品受け渡し場までしか入れないことは同じです。」

「なるほど。
 勝手口から厨房へは、商品受け渡し場があるから、直接入れないのね。」

「そうです。
 万が一の侵入者を逃さない対策です。」

「そうですか。
 立派ですね。」

「はい、ありがとうございます。」

 料理長は王宮の勝手口周囲に不備がないことを褒められて、誇らしげだ。

 けれども私は、今日も脱走方法を見つけられなくて、ガッカリした。

 侵入者を逃さないと言うことは、脱走者も捕まると言うこと。

 業者、来場者どのルートでも、必ず門番などがおり、とても脱走できそうにない。

 バイアット王国は、貧しいと聞いていたので、王宮の警備も行き届いてないと思っていたのだ。

 私の考えが甘かった。

 やはり、王宮の外で行方をくらますしかないのか?

 だとしても、今は二人の近衛騎士だけど、王宮の外なら、後何人追加されるのか?

 近衛騎士達を巻き込んで、彼らの落ち度にしたくないから、王宮から一人で抜け出そうとしたけれど、もう無理だと知ってしまった。

 私は諦めて、重い足取りで、居室に戻る。

 サイラスとまた会おうと約束したけれど、とても半年で脱走するルートなんて、見つけられそうもない。





「セオドロス様、今日もレオナ王女は王宮内を探索していましたよ。」

 モーガンは執務室の中で、レオナの話をするのがお気に入りだ。

「そうか。」

「レオナ王女は、何をしたいのでしょうか?
 表向きは、王宮の把握と言うことになっていますが。」

「我が王宮の警備体制か人員配置か?
 普通に王宮内を見たいだけか?

 何にせよ、当初の私達の予想は外れたな。
 近衛騎士に手を出して来ない。

 だが、何か企んでいるはずだ。
 警戒は怠るな。
 影はついているな?」


「はい、どうやら近衛騎士達に、侍女と二人で王宮内を周りたいと話したそうです。

 せっかく、見目の良い男達を揃えたのに、そのことには興味なしだそうで、あえて接近しても、誘って来ないようです。」

「そうか、たまたまその者達が好みでないとか?」

「それはわかりません。
 でも、無類の男好きで無ければ、男達を何人も侍らせていませんよ。

 普通は、タイプの男のみに絞るはずですから。」

「私達は何の話をしてるんだ?
 王女の好みか?
 そんなことはどうでもいい。

 とにかく、レオナが面白いのは、確かだな。
 私達の想像を超えて来る。

 男達に興味がないなら、食事でもして、探ってみるか?」

「ぜひ、そうなさってください。
 何しろ婚約者なのに、あの日以来会っていないのですから。」

「手配しておいてくれ。」



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