いちいちやらかす僕の妻

月山 歩

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2.王都の外れで

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 ナイジェルは今日は王都にある怪しい店の見張りに来ていた。

 そこは、王都と言っても大分外れの方に位置し、もう夕方なため、人通りもほとんどない場所であった。

 仕事内容は店に悪い輩が出入りしていないか、向かえの食堂の窓から、交代で見張ると言うものだ。

 でも、本来ならナイジェルは文官でそんなことは業務にない。

 ただ単に、なかなか尻尾を掴ませない悪い輩の見張りが長引き、役人だけでは手が回らず、文官でも見張りぐらいはできるだろうと駆り出されただけだ。

 だが、今日も店に怪しい動きはない。

 すでに交代要員が来て、同僚が申し送りをしている。
 これが終われば、今日の仕事から、やっと解放される。

 相変わらず、面倒なことばかりだ。

 ナイジェルは役人達の申し送りが終わるまで、手を抜くことなく、窓から街を見張っている。

 すると泣いている小さな男の子が、一人でトコトコと道を歩いて来た。

 こんな辺鄙な場所で、迷子か?

 子供が一人で道にいるのは、大変危険とは思うが、まだ、申し送り中だから、怪しい店から目を離せないので、ナイジェルが、駆けつけることはできない。

 その子に何かあったら困るので、早く駆けつけたくて、ジリジリしていると、ドレスを来た女性がやって来て、その男の子に声をかけ、手を引いた。

 ナイジェルは、これで安心と怪しい店の見張りを続けるが、助けたはずのその女性は男の子を連れたまま、通りを行ったり来たり繰り返す。

 女性は、何をしているんだろう。
 まさか、女性まで迷子になったのか?

 もうガッカリな展開に、申し送りが済んで任務が完了した瞬間に、ナイジェルは、その二人の元に駆けつけた。



「すみません。
 当局はどちらですか?」

 コーデリアは、やっと見つけた通行人に声をかける。

「アッ、あなたでしたか?」

 そこにいたのは、この前、王宮で枝から落ちそうになった時、助けてくれた男性だった。

「君はあの時の?」

「あのぅ、すみません。
 私、道がわからなくなってしまって。

 迷子のこの子を助けようとして、自分もどこにいるのかわからなくなって。」

 コーデリアは再び困っているところを見られて、恥ずかしいような、助けられて嬉しいような複雑な思いで、モジモジする。

「とりあえず、二人を当局にお連れします。」

 コーデリアのようすにも、ナイジェルは無表情で、返す。

 三人は、ナイジェルの先導で、その先の当局にたどり着いた。

 そこには、男の子の母親が不安気に男の子の無事を願っており、二人のおかげで再会できたことに、何度も礼をして帰って行った。

 親子を見送ると、

「今度こそ、お礼をさせてください。」

 とコーデリアは強く言う。

 ナイジェルは、迷っているようだったが、コーデリアにジッと見つめられ、渋々ついてきた。

 二人は近くの食堂に入り、お茶を飲んでいた。

「重ね重ねありがとうございました。
 いつもピンチを救ってくれるなんて、あなたは、私にとってヒーローです。

 私はコーデリア・スノウと申します。
 お名前を伺っても?」

「僕はナイジェル・トルクです。」

「まぁ、ナイジェル様とおっしゃるのですか、ありがとうございました。
 私はそそっかしいところがありまして。」

「そのようですね。」

「いつもナイジェル様のような方に会えたら、幸せですわ。」

「僕もたまたまですから。」

「そうですよね、ふふ。」

 お茶が飲み終わるとコーデリアはナイジェルの分も払い、何度も礼を言いながら、帰って行った。

 貴族でありながら、供もつけず歩き、挙げ句に迷子になる。

 コーデリアは、信じられないほどに型破りな令嬢だった。

 彼女と別れ、ナイジェルは、帰りの馬車の道筋で思う。

 あれっ?
 なんか変だぞ。

 この流れはいつもと違う。

 僕は、コーデリアが擦り寄って、上目遣いに媚を売り、今後も二人で会いたいなどと言って来ると思っていた。

 だか、実際は僕の爵位を聞いてくるようすもなく、コーデリアは本当にお礼だけして帰って行った。

 前回お礼がしたいと言った時だって、実は僕個人になど興味もなく、ただお礼がしたかっただけだったのか?

 これでも、どんな女性にも、有望と思われている侯爵子息だぞ。

 顔だって、整っているし、モテる方なんだぞ。

 そんな僕に興味を示さない女性がいるだなんて。
 何か癪に触る。

 ナイジェルは自分に靡かないコーデリアに、逆に自分が気になり出したことに気づいていなかった。





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