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7.離縁の提案

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「私は彼を愛しているのよ。
 なのに、別れろだなんて。」

「お母様、お気持ちはわかるけれども、毎回お金を渡しているのでしょう?

 お金目的でないのなら、愛している人に毎回求める人がいるかしら?」

「そうよね。
 あなたのお父様は愛もお金もくれたけど、愛しか求めなかったわ。」

 お母様は、散々泣いていたけれども、やっとお付き合いしているメルビン伯爵が、お母様のお金を使い込んでいることを、理解した。

 私は、旧家で、お母様を慰めている。

 ここまで来るのに、随分メルビン伯爵に、お母様の財産を吸い取られてしまった。

 どうしても、お母様が私に告げる頃には、相手にすでにお金が流れていて、損失は免れない。

 最近では、薔薇の仲介のお仕事のおかげで、イヴァン様から頂いているお金を使わなくても、お花の店主から頂くお金で、お母様を支えることができている。

 今回のメルビン伯爵には、大分減らされたけど。

 お母様の恋愛は、旧家の財産を吸い取られてしまうことがあり、引き続き注意が必要だ。

 お母様は、愛する夫を失ってから、時々不安定になり、あのメルビン伯爵のようなお金目的の人に、甘い言葉を囁かれ、捕まってしまう。

 愛とは何なんだろう?
 私には遠すぎる。

 それでも私には、お父様の遺伝子が色濃くあるから、お母様にきつく言うことはできない。

 亡くなったお父様の代わりに、お母様を支えるのが、私の使命だと思っている。

 邸に戻るとすぐ、薔薇の仲介のために、コーエンが迎えに来た。

 私は自分の力で稼いで、お母様を支えて行きたいから、仕事を頑張るのだ。

 コーエンのエスコートで、馬車に乗り込む。

「ソフィア様、今日は王家の王女様に捧げる薔薇の依頼だよ。」

「まぁ、それは思い切った案件ね。
 うまくいけば、王宮に植えることになる薔薇ってことね。」

「そうなんだ。
 高位すぎて、僕一人では太刀打ちできないよ。」

「あら、いつになく弱気ね。
 愛する人のために、薔薇を植えることに大差はないわ。」

「だとしてもだよ。」

「大丈夫。
 私がいるわ。」

 二人は、馬車に乗って、邸を後にした。





 その姿を、イヴァンは、執務室の窓から見ていた。

「何だ。
 あの優男は?」

「あの方は、ソフィア様の、お花の仲介の仕事のパートナーですよ。」

 ホベルトが答える。

「知っていたのか?」

「ええ、邸の者は、みんな知っていますよ。

 ナットが庭園に植える花を購入している店の者ですから。

 あのように、顔立ちがいいので、邸の女性達は、みんな彼のことが好きで、邸に来るたびに騒いでいますよ。」

「なんだって?
 ソフィアもか?」

「さすがにソフィア様は、上品な方ですから、騒いだりしませんよ。

 でも、コーエンは、話してみると優しくて、人当たりのいい青年ですよ。」

 僕は、何故かイライラした。

 確かに僕は、ソフィアとは白い結婚で、ソフィアとほとんど会わないほど、距離を置いている。

 だが、心のどこかで、ソフィアを自分のものだと思っている。

 自分から、ソフィアを拒否しているのにだ。

 自分でも、傲慢なのはよくわかっている。
 それでも僕は、ソフィアを取られたくない。

 僕がソフィアの夫なんだと、彼女を連れ戻したくなる。

 僕はどうかしている。

 でも、もう心の奥底では、ソフィアを妻と認めているのだろう。

「ソフィアは、ホベルトの目から見ても、上品かい?」

「もちろんです。
 ソフィア様は淑女です。」

 僕が間違っていた。

 彼女は、兄の妻だった人だけれども、男に媚びを売るような下品な女性ではないのは、僕自身話していてわかる。

 もう僕は、ずっと前からわかっていたのに、それを認めたくなかったんだ。

 あの男に向けていたように、僕にも笑顔を向けてほしい。

 あの男に取られたくない。

 だったら、動き出さなければ。
 
 ソフィアとの間に距離をおくのは、もう終わりだ。

 僕は、今さら彼女に振り向いてもらうべく、考え始める。

 まずは、一緒に食事をして、僕のことを受け入れてもらおう。





 邸に戻ると、ニコラが私の帰りを待っていて、夕食の時に、素敵なドレスを着せようと待ち構えていた。

「ソフィア様、やっとお帰りですね。
 イヴァン様が、一緒に夕食をと、待っていらっしゃいます。」

「えっ、イヴァン様が?
 どうしてかしら?」

「さぁ?
 わかりません。
 でも、急いで準備します。」

 私は、ニコラによって、夕食時にピッタリな女性らしいドレスを着て、食堂に向かった。

「お待たせして申し訳ありません。」

「いや、急に誘ったのは僕だから。」

 イヴァン様は、落ち着いた優しい笑みを浮かべている。

 何かあったのだろうか?

「イヴァン様、何かお話がありますか?」

「いや、一緒に夕食をと、思ってね。」

「そうですか。」

 私は、イヴァン様のようすが、いまいち腑に落ちないけれども、まぁせっかく誘ってくださっているのだから、楽しもうと思う。

 二人は穏やかに話ながら、夕食を食べている。

「この前倶楽部で、キアリーニ公爵と言う方に、声をかけられたよ。

 庭園に薔薇を植える仲介をしたんだってね。」

「はい。」

「とても喜ばれて、庭園ができたら、彼が主催の夜会に、僕達を呼んでくれるそうだ。」

「そうなのですね。
 キアリーニ公爵様が、喜ばれているなら良かった。」

 そう言って、ソフィアは笑顔になる。

「君は、商売の才能があるんだね。」

「才能ではないです。
 ただ、素敵なお花を紹介しているだけで。」

「いや、人に喜ばれる商売は素晴らしいと思うよ。」

「ありがとうございます。」

 イヴァン様に、商売について褒められて、嬉しい。

 イヴァン様に、褒めていただいたのは、二人が出会ってから初めてだと思う。

「僕の父も商売をしているけど、商売相手に、そのように言われたことはないんだ。」

「そうですか。」

「ソフィアは前に、兄に感謝していると言っていたけれども、具体的には何についてなんだい?」

「それは、母の生活を資金面で、支えていただいたことです。

 父を失ってから、資金不足で邸も手放す寸前でしたから。」

「君は、そのために兄と結婚したの?」

「そうです。
 大変助かりました。

 お父様は、ファルター様が亡くなった後、今度は、イヴァン様とと、言ってくださいました。

 兄弟でとは思いましたが、やはり私には、母を支えるために、結婚が必要だったものですから、イヴァン様は不本意でしょうけれども、私は助かりました。

 その件ですが、最近、先ほど話した商売が順調で、もしイヴァン様が望むのならば、私達離縁しませんか?」

 そのことを伝えると、やっとイヴァン様の負担を取り除けることができると思い、私は嬉しくなった。

 イヴァン様と、会えなくなるのは残念だけれども、嫌われている身としては、最善だと思う。
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