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11.タイラーとロドルフ

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 タイラーが、マリアに思いを告げ、マリアがタイラーの居室から出て行くと、部屋にはタイラーとロドルフだけとなる。

「タイラー様、何で、マリア様にこれからのことを、好きに選んでいいって、言ったんですか?

 今は、タイラー様と婚約中なんだから、何も言わなければ、マリア様は、このままいてくれるかもしれないのに。」

 そう言うと、ロドルフは泣き出した。

「どうして、ロドルフが先に泣くの?」

「だって、僕ですよ。
 タイラー様を、ずっと見てきた僕ですよ。

 タイラー様が、マリア様に釣り合う男になるために、陰で、どれだけ運動も、学問も頑張ってきたかを、ずっと見てきた僕ですよ。」

「そうだったね。
 ロドルフ、泣いていい。」

「タイラー様~。」

 ロドルフは、椅子に座っているタイラーに抱きついて、泣いた。

「タイラー様、かっこつけないで、マリアは僕のものだって、言えば良かったじゃないですか。

 絶対に、誰にも渡さないって。」

 タイラーは、泣きつくロドルフの背中を撫でながら、ポツリポツリと、口を開く。

「僕は、かっこつけたわけじゃない。
 本当にただ、マリアの幸せを優先したかっただけ。

 僕は、彼女に、たくさんのものをもらった。

 この動くようになった体も、皮膚がボロボロでも、受け入れてくれる女性がいるって、知ったのも。

 すべては、彼女に出会えたからだし、寝たきりの僕を前にしても、マリアは、嫌な顔をしないし、文句一つ言わなかった。

 それどころか、一緒に本を読む台を、考えてくれたり、庭園に連れ出そうとしてくれて、僕はもう、充分過ぎるほど、彼女にもらっているんだ。

 何より、彼女は、僕に人を愛する気持ちを、教えてくれた。

 じゃあ、僕がマリアのために、できることって、何だろうって考えたら、彼女が選ぶ人生を、僕が邪魔しないことだと思うんだ。

 僕が、彼女にしてあげられることは、もうそれぐらいしかないから。」

「タイラー様~。」

「ごめんな。

 ロドルフは、マリアと出会った頃、僕達だけじゃなく、三人の方が絶対楽しいって、言ってくれたのに。

 また、僕と二人きりになるかもな。

 僕は、この先も、マリア以外の女性と結婚したいと思うことは、一生ないだろう。」

 そう言うと、タイラーも、目に涙を浮かべる。

「わかりました。
 もういいです。

 僕は、タイラー様と二人でも、一生そばにいますから。」

「ありがとう、ロドルフ。」

 二人は、タイラーの病気が、人に移すものかわからないから、ずっと二人でやって来たし、これからも、二人でいるだけだとわかっている。

 でも、二人にとって、マリアがいる生活といない生活は、天と地ほどの違いがあることもまた、わかっていた。






 翌日の朝、お父様は、慌てて、クライトン侯爵家に着き、クライトン侯爵とカーステン様、お父様と私で、話し合いの場を設けることになった。

 応接室で、それぞれ挨拶が済むと、

 カーステン様は、満面の笑みで、私に話す。

「マリア、僕は君とやり直したい。
 最初の婚約に、戻るだけだよ。」

 でも、私は、今のカーステン様には、嫌悪しか感じない。

 私を手に入れたいからと、みんなの気持ちを考えず、傷つけることを躊躇わない。

 第一、私は今は美人だけど、年を重ねたら、若くて美人な女性に奪われるかもと、怯える生活なんてぞっとする。

「カーステン様、もう私達は、それぞれ別の道を進んでいます。

 私のことは、諦めてください。

 私達の終わりは、二人がお手紙をやりあっていたのに、私が妾の子だからと、お父様の言うことを聞いて、私と会おうともしなかった。

 あの時です。

 あの時、私に会って、今のように、お父様を説得してくれたら、私は、あなたと結婚していたでしょう。

 でも、あの時、あなたは動かなかった。

 二人で、手紙の中で、夢を語っていたのにです。

 だから、もう運命を受け入れてください。」

 お父様達は頷き、カーステン様の説得にかかる。

 いくら、侯爵子息が、わがままを言ったって、侯爵当主達にとって、大切なのは、血なのだ。

 貴族とは、そんなもの。

 それに、カーステン様と私が、結婚したら、お父様達はお互いに、もう一人の子供の結婚相手を失うことを意味する。

 侯爵当主達には、今更もう一人の子供達に新しい相手を見つけることは困難で、その子供達の子も、いざと言う時には、血を繋ぐために必要なのだ。

 私は、言いたいことは、言ったので、後は、お父様達にお任せして、タイラー様の元へ向かった。
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