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10.妹

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 私は、タイラー様とのこともあるけど、ハリエットのことも心配だった。

 カーステン様を頼りにしていただろうに、あんなことを言われて、この侯爵邸で、一人、さぞ傷ついて、心細い思いをしているのではないかと思った。

 今は、カーステン様に会いたくないけれど、先ほどタイラー様が、カーステン様をお父様が説得していると言っていたから、侍女に案内してもらい、ハリエットの部屋に着いた。

 すると、ドアは閉まっているが、中から女性の怒鳴り声が聞こえた。

 私は、慌てて、居室に入ると、ハリエットが暴れていて、部屋の物を薙ぎ倒し、周りにいる侍女達は、それを必死に、おさめようとしていた。

「ハリエット、落ちついて。」

「来たわね、私を笑いに。」

 ハリエットは、酒を飲んでいたらしく、私を見つけるとじっとりとした座った目で、近づいて来る。

 少しふらふらしているけれど、暴れることはやめたので、ハリエットをソファに侍女達と抱えて、座らせる。

「ハリエット、酔っているのね。

 だとしても、侍女に迷惑をかけたり、物に八つ当たりしてはいけないわ。」

 私は、ハリエットが落ち着いて来たようなので、目で合図して、侍女達を下がらせた。

「相変わらずね。
 お姉様は、どんな時も正しいわ。」

「そんなことはないのよ。

 まずは、お水を飲んで、落ち着きましょう。
 話なら、いくらでも聞くから。」

「ねぇ、お姉様の頭の中は、いつまでお花畑なの?
 もしかして、まだ、気づいてないの?

 どうして、クライトン侯爵家に、お姉様が妾の子であるとバレたと思っているの?」

「さぁ?
 わからないけれど、本当のことだから、何故かは、考えていなかったわ。

 むしろ、お父様が最初に言っているのか、いないのかわからないから、考えても仕方ないわ。」

「もう、イライラするわね。
 どこまでも。

 どうして、そんなに平然としていられるの?」

「平然とはしていなかったわ。

 私は、カーステン様のことが好きだったから、大分ショックを受けたのよ。
 当時は。」

「ふふふ、私が、侯爵宛の手紙に書いてバラしてやったのよ。

 だって、私は、やっと婚約者が見つかりそうになって、お会いしたのは、田舎の男爵子息よ。

 お姉様は、侯爵当主夫人なのに。
 私の方が、正妻の娘なのよ。

 どうして、お姉様なんかに負けないといけないの?」

「あなたは、大切だから、領地に近い男性と結婚させて、結婚しても、いっぱい交流したかったからだと思うわ。

 逆に私は、お父様の地位が上がれば、遠くに住もうと、どうでも良かったのではないかしら?」

「嫌よ。
 侯爵当主夫人になるのは、私よ。

 やっと手に入れたのに、カーステン様は、お姉様の方が妾の子でも、美人だから、私と婚約破棄して、お姉様を手に入れるって、言ってたわ。

 正妻の子と言っても、カーステン様が求めるのは、結局、顔なのね。

 もう最悪よ。」

 そう言って、ハリエットは、泣き出した。
 私は、そんなハリエットが、本当に可哀想だと思う。

 私達は、努力で手に入らないものに、振り回されて生きて来た。

 それが、貴族令嬢と言われれば、それまでだけど、心はそうもいかない。

「お姉様は、妾の子だと、バラした私のこと怒ってないの?」

「当時だったら、怒っていたかもしれないけど、さっきも言ったけど、事実だから、しょうがないわ。

 遅かれ早かれ、妾の子と言われて嫌な思いをするのは、一緒だと思うの。」 

「どこまでも、お姉様らしい。

 ごめんなさい。
 策を講じても、結局私は、カーステン様を手に入れれなかったわ。

 なんて滑稽なの、私は。」

 ハリエットは、酔いも覚めて来たからか、しょんぼりしている。

そんな姿を見たら、怒りなんて遠のく。

「私は、あなたを許しているわ。

 ところで、ハリエットは、今回、カーステン様の裏の顔を見たはずよ。

 彼は、結婚したとしても、きっと将来、若くて、綺麗な女性が現れたら、妾にする可能性がある。

 いつかまた、あなたの存在を脅かす女性が現れるかもしれなくても、あなたは、カーステン様と結婚したいの?」

「もちろんよ。
 カーステン様は、綺麗な人が好きで、頑固な面もあるけど、それ以外は、とても優しいのよ。

 私は、カーステン様を愛してる。」

「わかったわ。
 だったら、私が、話をして来るわ。」

 そう言って、ハリエットを落ち着かせると、お父様に手紙を書いて、クライトン侯爵邸に来てもらう。

 大至急、話が必要だと。




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