君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩

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8.王都で

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 王子のご成婚披露パーティーの前日に、王都のクライトン侯爵家に、馬車で着いた。

 タイラー様が、ゆっくりと歩いて馬車から降りると、クライトン侯爵、カーステン様、ハリエットが待ち構えている。

「よく帰ったな。
 タイラー。

 本当に歩けるようになったんだな。
 肌も元通りになって本当に良かった。

 手紙では聞いていたけれど、実際に見ると感極まるよ。」

 クライトン侯爵は、目に涙を浮かべている。

「タイラー、良くやったな。
 おめでとう。

 疲れただろう。
 応接室に行ってから挨拶をしよう。」

「ああ、そうしてくれると助かるよ。」

 私とハリエットは、お互いに笑顔を交わすと、クライトン侯爵家の方々と、応接室に移動した。

 それぞれ、並んでテーブルを囲んで、お茶を飲んでいる。

「改めて、初めてみんな揃ったな。

 息子二人共、婚約中で、義娘を連れて、この邸に来てくれて感謝する。

 私は、義娘達とはもう会っているが、息子達は初めてだろう。

 紹介してくれ。」

「じゃ、僕から。
 僕は、兄のカーステンです。

 隣が婚約者で、マリアの妹のハリエットだ。

 僕は、マリアとは手紙のやり取りをしていたけど、会ったのは初めてだね。
 よろしく。」

「次は、僕だね。
 僕は、タイラー。

 以前は寝たきりで、別邸に住んでいる。
 今はこの通り、ゆっくりなら歩けるようになったんだ。

 隣が、婚約者のマリア。
 マリア達は、姉妹だね。
 よろしく。」

「君達姉妹は、似ていないんだね。

 僕達兄弟は似てるだろ?
 眼の色が水色か、紫かの違いだけなんだ。」

「そうですわね。
 私達姉妹は、母親が違うから、あまり似てないんです。

 顔も性格も。」

「性格なら、僕達も違うよ。
 兄さんは、昔から何でもできて、僕の憧れなんだ。」

 穏やかな会話をしているが、テーブルの下で、タイラー様は私と手を繋いだまま離さなかった。



 翌日の夜、王宮では、王子のご成婚披露パーティーが行われ、私達二人とカーステン様達二人は、揃ってパーティーに向かう。

 この日のために、あつらえた私とタイラー様の二人は彼の瞳の色、紫を基調にしたドレスとタキシードを着ている。

 タイラー様は、長らく療養中であったため、ほぼ初めて社交界に出席した美男美女カップルとして、注目を集める。

 私も王都から離れた田舎の領地の出身で、王都から遠いし、早くからカーステン様と婚約していたこともあり、出会いを求めて夜会などに出席することもなかった。

 第一王子夫妻に、タイラー様とご結婚の祝福の挨拶が済むと、パーティー会場の隅の方で休んでいた。

 タイラー様は、ゆっくりなら歩けるとはいえ、疲れ易いからだ。

 ホールの中央では、王子と王妃を始めとして、多くのカップルがダンスをしている。

 カーステン様が、ハリエットとダンスを踊った後、私達のところにやって来た。

「マリア、一緒に踊らないかい?

 以前手紙のやり取りをしていた時、一緒にダンスを踊るのが夢だと、書いてくれていたよね。 

 タイラーは、ダンスをするにはもう少しかかりそうだから。」

「…でも。」

 確かに、王都の夜会でダンスをするのは私の憧れだった。

 でもそれは、以前、二人が婚約者同士だったから手紙に書いたことで、タイラー様はいい思いをしないだろう。

 私が断ろうとすると、タイラー様が遮る。

「僕のことはいいから、マリア、お兄様とダンスをしておいで。

 僕は、ハリエットと、ここで待っているよ。」

「タイラーもそう言うんだ。
 行こう。」

 カーステン様は、半ば強引に私をホールに連れ出し、二人は踊り始める。

 タイラー様のお顔に似ていて、瞳の色ぐらいしか違わないカーステン様とのダンスは、始めはぎこちなかったが、次第に息もピッタリ合い楽しい。

 カーステン様は、ダンスしているうちに、私をどんどん引き寄せて踊る。

 そして、耳元でこう告げるのだった。

「マリア、君はハリエットよりもずっと美しい。

 僕は間違えたようだ。
 帰ったら父に話して、僕達がやり直せるようにするから。

 妾の子でも、こんなに美人なら、君の方が僕に相応しい。」

 それを、聞いた瞬間に、私は動揺して笑顔が消え、ダンスもぎこちなくなる。

 呆然としながらも、カーステン様にエスコートされ、タイラー様のところに戻る。

 タイラー様は、私の顔を見ると、すぐに自分達は疲れたからと、カーステン様達に話し、私をエスコートしながら、邸に戻ることにしてくれた。

 帰りの馬車の中で、タイラー様は、

「兄に何か言われたんだね。
 帰ってからゆっくり聞くけど、大体想像はついているよ。」

 そう言って、私をあやすように抱きしめてくれた。

 タイラー様に、抱きしめられるのは初めてで、本当はもっと胸がドキドキするはずだが、今は、彼に包まれる安心感でいっぱいだった。

 私達はいつの間にか、一緒にいるのが当たり前で、彼の香りに包まれていれば、どんなことがあっても、私は満たされる。

 そして、私は、馬車の中で、彼に抱かれたままいつの間にか寝てしまい、気がついたら朝だった。

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