君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩

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5.本を読む

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 ある日、タイラー様の横で、私は自分の本を読み、タイラー様は、ロドルフにページを巡ってもらい読書をしていた。

「僕もマリアの読んでいる本を読みたい。」

 タイラー様は、元々は本を読むことも、字を書くこともできたそうだ。

 少年時代に急に、手足に力が入らなくなって、今のような寝たきりになったと話してくれた。

 だから、私がタイラー様の横で読書をするようになると、元々、ロドルフにページを開いてもらって、読んでいたタイラー様は、そばにいる私の読んでいる本も同時に読み出した。

 どうやら、二つの本を同時に読んでいるらしい。

 なんと器用な。

「タイラー様、二冊の本を同時に読めるならば、ロドルフに本を立てかけるものを作ってもらえば、ベッドに二人で並んで読めますよ。」

「どう言う意味?」

「私の読んでいる本とタイラー様の読んでいる本を横に並べて置いて、私は私の読んでいる方だけ読んで、タイラー様は両方とも読むんです。

 私は一ページ読んだら、二冊の本のページをめくります。

 そしたら、ロドルフはその間に他のことができますよね。」

「なるほど、じゃあ早速、ロドルフ、作ってみて。」

「わかりました。」

 翌日から、私とタイラー様は、ベッドに並んで腰かけ、毎日少しずつ並んで読書をするようになった。

 本を読む時は、私もベッドの上に上がって、タイラー様の横に並ぶので、いつもよりも、二人の距離は近い。

 私は、二人分の本をめくりながら、胸がドキドキして、読むスピードはゆっくりになってしまう。

 最初は、私に合わせてゆっくり読んでいたタイラー様だが、元々早く読む方らしく、ほとんど動かなかった自分の手をなんとか動かして、私がページをめくる前に、自分でも本のページを、時々めくってしまう。

 だったら、私のペースは遅いので、元のように、ロドルフにページをめくってもらうか聞いてみる。

 すると、タイラー様は手の運動になるからと、引き続き私の横で、私がめくる他に自分でめくって、二冊同時を読みする。

 私は、この二人で並んで読書する時間が好きなので、タイラー様の器用な二冊同時読みを感心しながら、二冊のページをめくるのだった。



 それを続けている内に、タイラー様は少しずつ、手を動かせるようになって来た。

 最近では、二人で読書をする本を置く台に紙を置き、字を書く練習をしている。

「タイラー様、字が書けるのでしたら、私と手紙のやり取りをしませんか?

 同じ字を何回も書くだけなら、飽きてしまいますよ。」

「そうだね。
 僕もマリアと手紙のやり取りをしてみたい。」

「はい。
 では早速お手紙書きますね。」

 私は、タイラー様と暮らしてみて楽しかったことや、これから二人でやりたいことなどを、書いてタイラー様に読んでもらおうと思う。

 とは言え、私はタイラー様の部屋にいるので、手紙を書いてすぐ、彼の本を読む台に置く。

 すると、タイラー様は、字を書く練習を中断して、私の書いた手紙を読み、返事を書いている。

 タイラー様が、書いた手紙は、大小様々な字が踊っているし、震えたような字で読みづらいが、どんなに大変な思いをして、字を書いているのか、横で見ているので、そのお手紙は私の宝物だ。

 内容は、字を頑張って書いているとか、足を動かす練習をしているとか、それ、全部知ってます。 

 と思うが、どうやら、タイラー様は、以前、私が、カーステン様の手紙を読んで、応援していたと伝えたからだろうか、応援して欲しそうな内容なのである。

 ならば、私のお返事は応援一択である。 

 最近では、もうカーステン様を思い出すこともないし、私を大切にしてくれるタイラー様が好きになっている。

 妾の子である私は、生まれた時に、産みの母を亡くしているので、人生においても、こんなに大切にしてくれる人に、出会ったことがなかった。

 確かにタイラー様ができることは、少ない。

 けれども、いつもそばにいて、大切にしてもらっていることは伝わって来るのだ。

 だから、私は今のままで十分に幸せだ。
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