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1.婚約破棄
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侯爵家のマリア・ローレは、同じく侯爵家のカーステン・クライトンと婚約している。
それは、マリアの父であるローレ侯爵とクライトン侯爵が同じ侯爵同士だからと、物心ついた時から決められていた。
しかし、婚約者のカーステンは王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、直接会ったことはなく、手紙でのやり取りのみであった。
ある時、クライトン侯爵家から、ローレ侯爵に書状が届く。
すると、ローレ侯爵は、マリアを執務室に呼び出してこう告げた。
「マリア、申し訳ない。
クライトン侯爵から書状が届いて、大切なクライトン次期侯爵当主を妾の子のマリアとは、結婚させらないと言って来た。
一方的に婚約破棄されてしまったよ。
私は、その事を最初に話したはずなんだが、聞いてないと大変お怒りの様子でね。
だから、ちょうどいい療養中の次男との婚約に変えるって書いているんだ。
こんな一方的にとは思うんだけれども、それは、致し方ないと思うんだよ。
悪いね。」
「お父様、カーステン様とはお会いしたことはありませんが、お手紙のやり取りを続けて来ました。
ですので、私はカーステン様と結婚したいと思っておりましたが、私には何も言うことはできませんね。
嫌と言いたいけれど、…わかりました。」
私は彼に直接会ったことはないけれど、カーステン様とお手紙のやり取りしているうちに、彼のことを好きだと思っていた。
手紙の文面では、カーステン様が、学問も武術もとても頑張る日々の様子が書き綴られていて、その頑張る姿を応援するそんな恋だった。
でも、私は確かに妾の子だから、侯爵家の方が否と言えば、カーステン様には不釣り合いなのだろう。
だから、私はこのまま諦めるしかない。
つらいけれど。
私の出生ばかりは、どうにもならない真実なのだから。
「それでなんだが、お前達の婚約は世間にも知られているから、妹のハリエットを婚約者に立てることとなった。
悪いな。」
お父様は、さすがに気が引けるのか、私の顔をチラチラ見ながら私の反応を確認している。
では、カーステン様とは、義兄妹となって顔を合わせることもあるってことなの?
さすがに、結婚できなかった方と顔を合わせるなんてつらいわ。
よりにもよって、義兄妹なんて。
私の運命はなんて過酷なの。
「それは、カーステン様も承諾しているんですよね?」
「わからん。
だか、子息だって当主の判断に逆らえまい。」
「そうですね。
カーステン様も同じ立場ですものね。」
「わかりました。」
私は、この決定を受け入れるしかない。
心の中での思いはどうであれ。
「それでな。
そのお前が婚約した次男は、療養しているとさっき伝えたと思うんだが、その者は寝たきりで、世話が必要だからすぐにお前に来てほしいとある。」
「えっ、私にですか?」
「ああ、本当に申し訳ない。
こちらが、妾の子だと内緒にしていたことになっているから、立場が弱くて断れない。
お前も結婚したら、遅かれ早かれその人を世話することになるんだからいいだろ?」
私はおしゃれをして、婚約者と王都の街をデートしたり、夜会でダンスを踊ったりすることを夢見て来た。
でも、私の婚約者は寝たきりで、お世話を必要とする方なのですね。
冷静になって考えると、やっぱりショックだった。
カーステン様と結婚できない上に、お世話が必要な方ですか。
病気の方と結婚することも、結婚してから怪我や病気になりお世話することも、最初からその方と言われていたら、多分受け入れた。
でも、私はカーステン様を思っていたので、違い過ぎる未来に愕然とする。
私は、お父様に何も言葉を発することができないまま、執務室を後にした。
すると、廊下でハリエットが私を待ち構えている。
「お姉様、私とカーステン様の婚約の事を、お父様から聞いた?」
「ええ。
あなたが代わりに彼と婚約したみたいね。」
「うん、お姉様ごめんなさい。
お姉様の婚約者を奪う形になってしまって。
でも、私達はお互い結婚しても、姉妹であることは変わらないわ。
私が義姉になるけど。」
「そうね。
言われてみれば逆転するわね。」
「お姉様、これからもよろしくね。」
「そうね、よろしく。
ああ、そうだ。
ハリエットは、今まで婚約者がいなかったわね。
婚約おめでとう。
ちょっと、私は動揺していて、言うのが遅くなってしまったわね。
ごめんなさい。」
「いいのよ。
お姉様が大変なのはわかるわ。」
「ええ、私はすぐにクライトン侯爵家に行くことになったから、これから準備とか色々あって、ハリエットとゆっくり話す時間もないわ。
いずれまた、会いましょう。」
「わかったわ。
お姉様。」
本当はハリエットとゆっくりお茶しながら婚約の事をお話したいけれど、すぐに準備しないとならないし、申し訳ないけれど、ちょっと私の方がいっぱいいっぱいだわ。
カーステン様と婚約破棄になってしまったことや、新しい婚約者の世話をしなければならないことを考えて、心の余裕なんてなくなった。
そして翌日には、新しい婚約者の世話をするために、クライトン侯爵家の迎えの馬車に乗り、王都へ向かった。
それは、マリアの父であるローレ侯爵とクライトン侯爵が同じ侯爵同士だからと、物心ついた時から決められていた。
しかし、婚約者のカーステンは王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、直接会ったことはなく、手紙でのやり取りのみであった。
ある時、クライトン侯爵家から、ローレ侯爵に書状が届く。
すると、ローレ侯爵は、マリアを執務室に呼び出してこう告げた。
「マリア、申し訳ない。
クライトン侯爵から書状が届いて、大切なクライトン次期侯爵当主を妾の子のマリアとは、結婚させらないと言って来た。
一方的に婚約破棄されてしまったよ。
私は、その事を最初に話したはずなんだが、聞いてないと大変お怒りの様子でね。
だから、ちょうどいい療養中の次男との婚約に変えるって書いているんだ。
こんな一方的にとは思うんだけれども、それは、致し方ないと思うんだよ。
悪いね。」
「お父様、カーステン様とはお会いしたことはありませんが、お手紙のやり取りを続けて来ました。
ですので、私はカーステン様と結婚したいと思っておりましたが、私には何も言うことはできませんね。
嫌と言いたいけれど、…わかりました。」
私は彼に直接会ったことはないけれど、カーステン様とお手紙のやり取りしているうちに、彼のことを好きだと思っていた。
手紙の文面では、カーステン様が、学問も武術もとても頑張る日々の様子が書き綴られていて、その頑張る姿を応援するそんな恋だった。
でも、私は確かに妾の子だから、侯爵家の方が否と言えば、カーステン様には不釣り合いなのだろう。
だから、私はこのまま諦めるしかない。
つらいけれど。
私の出生ばかりは、どうにもならない真実なのだから。
「それでなんだが、お前達の婚約は世間にも知られているから、妹のハリエットを婚約者に立てることとなった。
悪いな。」
お父様は、さすがに気が引けるのか、私の顔をチラチラ見ながら私の反応を確認している。
では、カーステン様とは、義兄妹となって顔を合わせることもあるってことなの?
さすがに、結婚できなかった方と顔を合わせるなんてつらいわ。
よりにもよって、義兄妹なんて。
私の運命はなんて過酷なの。
「それは、カーステン様も承諾しているんですよね?」
「わからん。
だか、子息だって当主の判断に逆らえまい。」
「そうですね。
カーステン様も同じ立場ですものね。」
「わかりました。」
私は、この決定を受け入れるしかない。
心の中での思いはどうであれ。
「それでな。
そのお前が婚約した次男は、療養しているとさっき伝えたと思うんだが、その者は寝たきりで、世話が必要だからすぐにお前に来てほしいとある。」
「えっ、私にですか?」
「ああ、本当に申し訳ない。
こちらが、妾の子だと内緒にしていたことになっているから、立場が弱くて断れない。
お前も結婚したら、遅かれ早かれその人を世話することになるんだからいいだろ?」
私はおしゃれをして、婚約者と王都の街をデートしたり、夜会でダンスを踊ったりすることを夢見て来た。
でも、私の婚約者は寝たきりで、お世話を必要とする方なのですね。
冷静になって考えると、やっぱりショックだった。
カーステン様と結婚できない上に、お世話が必要な方ですか。
病気の方と結婚することも、結婚してから怪我や病気になりお世話することも、最初からその方と言われていたら、多分受け入れた。
でも、私はカーステン様を思っていたので、違い過ぎる未来に愕然とする。
私は、お父様に何も言葉を発することができないまま、執務室を後にした。
すると、廊下でハリエットが私を待ち構えている。
「お姉様、私とカーステン様の婚約の事を、お父様から聞いた?」
「ええ。
あなたが代わりに彼と婚約したみたいね。」
「うん、お姉様ごめんなさい。
お姉様の婚約者を奪う形になってしまって。
でも、私達はお互い結婚しても、姉妹であることは変わらないわ。
私が義姉になるけど。」
「そうね。
言われてみれば逆転するわね。」
「お姉様、これからもよろしくね。」
「そうね、よろしく。
ああ、そうだ。
ハリエットは、今まで婚約者がいなかったわね。
婚約おめでとう。
ちょっと、私は動揺していて、言うのが遅くなってしまったわね。
ごめんなさい。」
「いいのよ。
お姉様が大変なのはわかるわ。」
「ええ、私はすぐにクライトン侯爵家に行くことになったから、これから準備とか色々あって、ハリエットとゆっくり話す時間もないわ。
いずれまた、会いましょう。」
「わかったわ。
お姉様。」
本当はハリエットとゆっくりお茶しながら婚約の事をお話したいけれど、すぐに準備しないとならないし、申し訳ないけれど、ちょっと私の方がいっぱいいっぱいだわ。
カーステン様と婚約破棄になってしまったことや、新しい婚約者の世話をしなければならないことを考えて、心の余裕なんてなくなった。
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