幽閉された王子と愛する侍女

月山 歩

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7.市井での暮らし

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 離宮から、逃げるように飛び出して、市井に下ったけれど、ミレイアには、ハーシェル様からもらった僅かながらの給金しかない。

 家と仕事を探さなきゃ。

 だったら、まずは、仕事ね。

「あのう、仕事を探すのには、どこに行けばいいですか?」

 わからないので、とりあえず、目についたお店の前にいた人に聞いてみる。

「あら、あなた仕事を探しているの?」

「はい。」

「だったら、あの角の店よ。」

「ありがとうございます。」

「ちょっと、その前にここで占ってみない?」

「占いですか。

 私今、あまりお金に余裕がなくて、占いに出す分がないんです。

 すみません。」

「あら、残念ね。
 どういう仕事があっているか、調べてあげるのに。」

「それなら、もう決まっています。
 侍女をしていたので。」

「そうなの?
 じゃあ、私の家に来ない?

 家の事をやってくれたら、300ルバを出すわ。」

「そうなのですか?
 ぜひ、お願いします。」

「私、マデリンって言うの。
 よろしくね。」

 マデリンさんは、細身で、占いをしているせいか神秘的な女性だ。

「私は、ミレイアです。
 よろしくお願いします。」

 マデリンさんのお家は、すぐ裏の割と大きめな古びた邸だった。

「汚くてごめん。
 私、家のことが、苦手なのよ。」

「そうですか。」

 案内された邸の中は、古いけれど、それ以上に、物が散乱している。

 これは、離宮以上だわ。

 ミレイアは、最初に離宮に入った時の衝撃を思い出した。

 あの時は、エルベルト様を、思うことに必死で、彼の部屋を少しでも、居心地の良い空間にしようと意欲に溢れていたなあ。

「汚くて、言葉も出ないでしょ。

 少しずつ、綺麗にしていってくれたら、助かるわ。」

「汚れていても、綺麗にすればいいだけなので、問題はありません。

 ただ、今すぐやりたいのですが、私、住む家もなくて、探してからでいいですか?」

「住む家がないなら、ここに住んでいいわよ。
 部屋なら、余っているから。」

「えっ、いいんですか?
 ありがとうございます。」

「じゃあ、私は、占いの仕事に行って来るから、空いている好きな部屋に住んでいいわよ。

 掃除も頼むわね。」

 そう言って、マデリンさんは、いなくなった。

 マデリンさんは、自由な感じの人だわ。
 神秘的で、自由、猫のようね。

 そう考えながら、居室と自分の部屋や台所などを順番に掃除していく。

 夜になると、マデリンさんが、帰って来た。

「えっ、もうこんなに綺麗にしてくれたの?
 嬉しいわ。
 ご飯は作れる?」

「ご飯は作ったことは、ないです。
 専門の料理人がいたので。」

「そう。
 じゃあ、私が作るから、覚えて。」

「わかりました。」

 マデリンさんは、手早く食事を作り、私にも振る舞ってくれる。

 二人は、テーブルを囲み、食事を食べ、その後、お話をしている。

「じゃあ、ミレイアさんは、ずっと、王宮に勤めていたの?」

「そうです。」

「だから、こんなに大きな邸の掃除も嫌にならないのね。

 この邸は、親から譲り受けたけれど、とにかく大き過ぎて、掃除する前に嫌になってしまうのよ。」

「そうなのですね。
 私は、このくらいの大きさなら、全然嫌にはなりません。」

「そう?
 なら助かるわ。

 正直、誰かを雇おうとこの邸に連れて来ると、みんな嫌がって、断られるのよ。

 広すぎて、一人なら無理だって。
 あなたのような人は、初めてよ。

 気分がいいから、あなたをタダで、占ってあげる。
 手を貸して。」

「えっ、いいんですか?
 はい、お願いします。」

 私は、手を差し出す。

「あらやだ。
 あなたすぐ結婚してしまうじゃない。
 ウチの掃除はどうなるのよ?」

「すみません、多分それ当たらないと思います。
 私の好きな人は、絶対に結婚できない人なので。」

「あら、そう?
 私の占いは、外れることはないのよ。

 でも、ついて行ってはいけないわ。
 その人は、誰かにされたことをミレイアさんにしてしまう。」

 マデリンさんの占いを否定して、申し訳ないけれど、私は、多分一生結婚しないだろう。

 エルベルト様とは結婚できない以上、これだけ初恋を拗らした私は、誰か他の人を好きになることはないから。

 エルベルト様より、素敵な人も、愛せる人も出て来るはずはない。

 どうして、よりにもよって王国一の人を好きになってしまったのだろう。

 これでは、この先いくら、男の人と出会ったとしても、素敵だと思える訳がない。

 今となっては、悲しいけれど。

 エルベルト様は、今頃、手紙を読んでくれているだろう。

 私を文官にと、誘ってくれたのに、裏切ってしまった。

 今頃、怒ってますか?
 呆れてますか?

 それとも、もう私は、考える価値もなく、忘れ去られていますか?

 もし、王宮で文官として、エルベルト様を支えられたら、どんなに幸せだっただろう。

 でも、皮肉にも一番やりたいその夢は、叶うことはない。

 もし、時間が巻き戻って、再び同じことが起きたとしても、私は同じ道を選んだから。

 幽閉されたエルベルト様を、支えたくなってしまう。

 エルベルト様、もう二度と、離宮に幽閉されないでくださいね。

 私はもう、あなたの元に、行けないのですから。


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