幽閉された王子と愛する侍女

月山 歩

文字の大きさ
上 下
6 / 8

6.ミレイアが消えた後

しおりを挟む
 エルベルトは、王宮の元の部屋に戻り、執務室で家臣達に、幽閉された時に、助けれなかったことを涙を流して、謝られた。

 それを、何故か冷めた目でみている自分に気がついた。

 確かにあの時は、家臣達だって、是非も分からずに動けなかったとは、頭では理解している。

 けれども、感情面では、見放された自分を反省すべきとは、わかっていても、どこか、納得していないと言うようなわだかまりがある。

 もしまた、同じようなことがあった場合も、この者達は、自分のために誰一人として、動かないのだろうと思うと、引いてしまう。

 家臣達とうまくやっていたと言う自負があるために、なおさら傷ついている。

 これが、私に対する皆の評価と言うことだ。

 王子たる者、いつも冷静であれとは理解しているが、どうしても、気持ちが追いつかなかった。

 早く、ミレイアに会いたい。

 結局、僕を見放さなかったのは、ハーシェルとミレイアだけである。

 その事実が、僕の心を冷たくする。

 執務が終わったので、居室に戻るが、ミレイアがいない。

 さすがに離宮の片付けも終わっているはずだが、どうしたのだろう。

 そう思っていると、側近が、

「こちらを預かっています。」

 と言って、手紙を差し出しす。

 中を開いてみると、ミレイアからの手紙だった。

 ミレイアが、離宮に来た時には、もう辞職していて、僕の妾だと、皆に思われているから、僕の評判の悪化を危惧して、市井に下るだと。

 何て、ことだ。

 全く気がつかなかった。
 あの日離宮に来たミレイアは、僕のために、すべてを捨てて、来ていたんだ。

 言われてみれば、わかることだ。

 幽閉された僕側につけば、王国の方針に逆らうことになるし、そこまでして、その閉ざされた離宮で、二人きりでいれば、妾だと思われるのも、当然のことだ。

 僕は、そのようなことになるのではないかと、思うことがあったものの、結局、深く考えることをやめて、ミレイアにあまえていたんだ。

 すべてを失う覚悟で、支えてくれた君に。

 僕は愕然とした。

 僕のそばにいれば、うるさい男達に追いかけられないで済むと言う君の言葉に甘えて、女性である君の名誉を傷つけてしまったんだね。

 覚悟を持ってそばにいてくれた君に、僕は、どうやって、償えばいい?
 僕は、君のために、何ができる?

 しばらく、考えると、心を決めた。

 もう、王位継承権を放棄しよう。

 そして、ミレイアが、好きだと自分自身に認め、彼女に愛を伝えよう。

 王位は、ハーシェルに渡せばいい。

 僕には、ついて来る家臣もいない。

 すべてを捨てて、ついて来てくれたミレイアを守ることもできなかった。

 僕を、一番許せないのは、僕自身だった。

 その後、エルベルトは、ハーシェルの居室を訪ね、彼と話し、自分の思いを伝える。

「僕は、この度の件で、王位を継ぐのは、自信も、やる気も失ってしまい相応わしくないんだ。」

「兄さんの気持ちもわかるけど、もう少し様子を見てから、判断したら?」

「それはできない。

 僕は、ずっと自分の気持ちに向き合わないようにして来たけれど、今回のことで、僕の唯一を見つけてしまった。

 ミレイアと結婚するためにも、王位などいらないよ。」

「そう言うことなら、いいよ。
 僕が、なってあげる。

 僕は、遊学中に出会った王女と、結婚するつもりだから。」

「そうなのか?」

「ああ、ごめん。

 そのために、いつまでも遊学していたから、兄さんが、大変な思いをして、この王国を守っていたことに気づかなかった。 

 だから、今回の件は、僕のせいでもある。」

「いや、ただ単に僕の力不足さ。」

「それについてだけど、今兄さんが離宮にいたから、僕一人ではやりきれない程の執務があって、僕は潰れそうになっていたんだ。

 だから、元々、兄さんが一人でやっていたのが、今回の事件が起こった原因じゃないかなと思ったんだ。

 他国では、数人で手分けしてやっているんだよ。」

「そうなのか?

 確かに僕は、いつもいっぱいいっぱいで限界だったが、だからと言って、王とはそんなものだと思っていたよ。

 なるほど父も、そうして早くに病に倒れ、療養中であることを考えると、今回の事件が起こらず、このまま続けていたら、僕は父と同じく、早くに病に倒れた可能性があったんだな。」

「そうだよ。

 だから、王位は僕が継いでも、兄さんも一緒にやると約束をして。

 それが、条件だよ。」

「わかった。
 ありがとう。」

 僕は、ハーシェルを支える約束をした。

 僕は、今まで知らずに、多くの執務を抱えていたせいで、見落としたり、家臣達に雑な対応をしたりしていたんだな。

 だから、いざと言う時には、家臣達から守られない王子になってしまっていたのかもしれない。

 これからは、ハーシェルを支えて、僕が彼を守ろう。

 やっと僕は、自分の失敗から学んで、前をむき出した。

 ミレイア、僕は、この先の未来を、君と一緒に生きて行きたいんだ。

 そして今、王位を手放すことで、やっとその資格を得ることができた。

 ミレイア、今君がどこにいたとしても、必ず見つけて、求婚するよ。

 だから、待っていて。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

処理中です...