幽閉された王子と愛する侍女

月山 歩

文字の大きさ
上 下
5 / 8

5.犯人のあぶり出し

しおりを挟む
 最初にエルベルト様への秘密のお手紙を受け取ってからは、ハーシェル王子も同じ結論に達したようで、彼の側近が、隠すことなくエルベルト様宛てに、手紙を渡すようになった。

 今度はそれに、異を唱える者を、炙り出す作戦らしい。

 それに伴って、ハーシェル王子は、自分では、手余しする案件の執務を、エルベルト様に回して来るようになった。

 なので、エルベルト様は、幽閉されていながら、この王国の執務をするという不思議な状況が出来上がっているのにも関わらず、誰も異を唱えない。

 だからこそ、エルベルト様は、今日も離宮で忙しく、執務をしている。

「エルベルト様、そろそろ一旦、お茶を飲んで、休憩しませんか?」

「ああ、そうだな。
 ミレイアにも、手伝わせて、悪いな。」

「いいえ、私などが、エルベルト様の執務を手伝わせていただけるなんて、幸せです。」

「いや、ミレイアは、執務がよくできている。
 文官になれるよ。」

「それは、嬉しいです。
 ありがとうございます。」

 私達は、ハーシェル王子からの甘くない差し入れのスコーンをつまみながら、お茶を飲んで一息ついている。

「これだけ、僕が執務に関わっていると示しているのに、全然、異を唱える者がいないとは、どうなっているんだろうな?」

「エルベルト様が、執務をしないと、仕事が捗らず、困っていた家臣達がたくさんいたと言うことですよ。

 でなければ、誰かしらが、言ってくるでしょう。」

「今回動いてみて、この策では、犯人を炙り出すことができないとわかったよ。

 ならば、違う案を試したいが、僕、個人が嫌いで、嵌めた犯人なら、もう王宮の者全体を疑わないといけなくなる。

 それだと絞りきれない。

 なので、僕の近くにいたけれど、この者は仕事ができないと、僕個人が思っている者を、十人ほど出してみた。

 僕が、仕事ができないと思っていると言うことは、その者に対する態度にも現れて、結果、嫌われている可能性があると思ったんだ。」

「いいですね。
 新たな切り口です。」

「後、他に考えるとしたら、本人にとっては大事だが、僕としては、些細なことをして、探られたくない者とかかな?」

「その場合もありますね。
 記憶にありますか?
 些細なことは、思い出しにくいですよね。」

「ああ、でも、何とか思い出すから、その者達の名簿をハーシェルの側近に、渡してほしい。」

「わかりました。」

 ハーシェル王子と表立って関わり出したことで、エルベルト様に美味しい食事や服などが、王宮から届き出した。

 なので、エルベルト様にとって離宮は、どんどん暮らし易くなって来ている。

 離宮での生活は、建物の古さはあるが、困ることはない。

 私は、エルベルト様に預かっていた犯人の可能性がある者達の名簿を、ハーシェル王子の側近に渡した。




 すると、数日後に、ハーシェル王子が、家臣達を引き連れて、離宮にやって来た。

「やあ、兄さん、遅くなって悪かった。」

「いや、僕こそ、ハーシェルには、迷惑をかけたね。」

「ついに、犯人を捕まえたよ。

 その者は、王宮の資金を横領していて、それを、兄さんに指摘されそうになって、偽の書状、多数の証言者、協力者を金を積んで、集めたそうだ。

 もう少しで王宮での仕事を、辞める予定だったので、王政を混乱させて、その間に、退職できればそれで良かったそうだ。

 今、偽の証言者、協力者が20人以上もいたことから、執務棟の周りは大混乱さ。」 

「くだらない。
 そんな者の為に、僕は、ここに幽閉されたと言うのか。」

「うん、本人もこんなにうまくいくとは、思って無かったみたいだよ。
 なので、明日、王宮に戻って。

 その者は、地下牢にいるけど。
 会う?」

「いや、いい。
 その者の沙汰は、第三者のハーシェルに、任せるよ。

 それにしても、二度とこのようなことがないように、この国の体制を変えないと、ダメだな。」

「そうですね。」

 二人は今後、その件を早急に解決することにして、ハーシェル王子は、王宮へ戻って行った。

「エルベルト様、おめでとうございます。
 最後に、夕食で、乾杯しましょう。」

「そうだな。」



 私とエルベルト様は、久しぶりのワインで、乾杯し、夕食を楽しんでいる。

「今日で、こちらの生活は終わりですね。」

「ああ、ミレイアには、感謝している。

 ミレイアがいなかったら、心は荒み、一人惨めな暮らしをしていただろう。

 君といると癒されて、夜もよく眠れるようになっていたよ。

 夜に寝ないと、いくら思考していても、結局、解答に辿り着けない。

 だから、ミレイアがいなかったら、一生ここで、犯人について、考え続けるか、途中で人生を諦めていたかもしれない。 

 一人だったらきっと、ここから出るのは、不可能だっただろう。

 戻ったら、僕の側近の一人にならないか?
 君と一緒なら、思考も捗る。」

「ありがとうございます。
 これほどに、私を評価していただけたなんて。
 考えておきます。」

「ああ、よく考えて。

 まあ、令嬢として、側近より、侍女の方がいいと言うならば、無理にとは言わないけれど。」

「ありがとうございます。
 今日は、エルベルト様と知り合ってから、最高の夜です。」

「そうだね。
 僕もそう思うよ。

 僕は、側近とならば、こうして、酒を酌み交わすこともあるから、王宮に戻っても、ミレイアと、食事をしたり、酒を飲みたい。」

「ありがとうございます。」



 翌朝、エルベルト様の元に家臣達が、彼を迎えに来た。

「ミレイア、一緒に行こう。」 

「エルベルト様、私は先にここを片付けてからにします。」

「わかった。
 では、先に行っているよ。
 では、後で。」

 そう言っていなくなるエルベルト様の背中を、見えなくなるまで見送った。

 こうして、私の恋は、終わった。

 さようなら、エルベルト様。


 私は、離宮の門番をしてくれていた近衛兵のアーサーに、彼への手紙を託した。

 アーサーとは、こちらに来てから、離宮に入るたびに挨拶をする仲だ。

 私とエルベルト様の接している雰囲気から、二人が男女の関係にないと感じている多分たった一人の者だろう。

 だから、アーサーは、私に最後まで、好意的だった。




 エルベルト様へ

 離宮を出ることが、できておめでとうございます。

 最後にこうしてお支えできて、嬉しかったです。

 私は実はもう、王宮で、働くことが出来ない身なのです。

 そして、離宮で、エルベルト様といたことで、エルベルト様と深い仲になっているなどと、口さがないことを言う人もいるでしょう。

 あなたの周りに私がいれば、エルベルト様の評判に傷がついてしまう。

 私は、それだけは、避けたいのです。

 エルベルト様には、何の後ろ暗いところのない光溢れる中で、輝いてほしいから。

 今まで、ありがとうございました。
 あなたの活躍を祈っております。





 そうして、私は、市井に下った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」 「嫌ですぅ!」 惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。 薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!? ※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。

処理中です...