幽閉された王子と愛する侍女

月山 歩

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4.秘密の手紙

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 いつものように、エルベルト様の食事をもらうために、厨房に行くと、最近知り合った料理人がいて、

「今度デートしよう。
 この手紙を読んでくれ」

 と手紙を握らされる。

 今、私は、王宮内で最も人気のない女なのだ。
 だから、手紙をくれる料理人を不審に思う。

 私は、職を失い、王宮を追い出され、勝手に離宮に住み着いて、エルベルト様と関係していると思われている。

 だから、若くて恋愛したいと思う男性達が、最も嫌悪する女なのだ。

 でも、デートしたいと言う割には、口説くこともせずに、わざわざ手紙をくれると言う。

「いらないです。」

 と言ったら、すごい鋭い視線を向けられながら手紙を渡されて、突き返すことは、できなかった。

 最近、厨房でよく会うから、話すこともあるけど、こんなに強引な人だったかしら?

 とりあえず、手紙をポケットにしまうと、後から手紙を捨てることにする。

 そして、離宮に戻り手紙を見てみると、エルベルト様宛てだった。

 どうりで、私へのラブレターと見せかけて、実は、エルベルト様への秘密のお手紙だった。

 それなら、納得だ。

「エルベルト様、厨房で、エルベルト様宛ての手紙を渡されました。」

 エルベルト様に手紙を渡すと、エルベルト様は、すぐにその手紙を読み出す。

 それを読み終わると、エルベルト様は、ここに来て初めての、いつものキリッとしたエルベルト様のお顔をする。

「良い知らせだったのですね。」

「わかるのか?」

「今、王宮での、エルベルト様の顔つきをしましたよ。」

「そうか、そんなに僕は分かりやすいか?」

「多分、私だから、わかったと思います。
 お返事を書きますか?」

「いや、いい。
 僕達が通じていることを、犯人に知られるわけにいかないからな。

 弟からだよ。
 当初から水面下で、動いてくれているらしい。」

「そうですか。
 良かったですね。」

「ああ、弟は、話さずとも、僕を信じてくれていたようだ。
 私には、父を殺すメリットなんてないからな。

 政権など、もうとっくに握っているから、わざわざ父を、殺す必要などない。

 そこまでしても、私を降ろしたかった者の仕業だ。」

「言われてみれば、そうですね。

 では、ハーシェル様が動いてくれているならば、思ったより早めにエルベルト様は、王宮に戻れるのでしょうか?」

「それが、そうでもないらしい。
 今でも全く犯人の尻尾を掴められないらしい。

 だからこそ、弟は、犯人に動きを読まれる危険を承知の上で、君に手紙を託したんだ。」

「そうですか。
 じゃあ、こう言う考え方は、どうでしょう?

 エルベルト様を、離宮に入れて、得をしたのは、誰でしょうか?」

「一番はハーシェルだよ。
 私がいなくなり、政権を握っている。

 考えたくもないけれども、一応その線も考えたが、ここに弟からの手紙が来た時点で、その可能性はなくなる。」

「そうですね。

 犯人は、わざわざ罪をなすりつけた相手に手紙をよこさないですよね。」

「もし、弟が犯人ならば、僕などに関わらず、このまま政権を握っていれば、いいだけだからな。」

「そうですね。
 では、次は誰でしょうか?」

「僕がここに入れられてから、ハーシェルがこの国に戻るまで、政権を握っていた者だな。

 だが、実際は、誰も政権を動かそうとする者など現れず、弟が、政権を引き継いだ時には、王宮の機能は完全に停止し、あちこちで、問題が起きていたらしい。

 だから、僕が幽閉されて、誰も得などしていない。
 だからこそ、ハーシェルにも、犯人が掴めないらしい。」

「わかります。

 私も、エルベルト様がここに来た直後から、こちらでお支えしたいと申し出ても、誰もいいとかダメとか、判断できないようでした。

 結局、ハーシェル様が戻られてから、許可が下りたのです。」

「僕は、大きな力に王位を奪われたと思っていたが、実は、もっと小さなものかもしれない。」

「はい、私もそう思います。

 家臣達は、エルベルト様に普段から頼りきりで、判断する力など持ち合わせていない。

 だから、逆に、エルベルト様を失えば、機能は低下して、何もできなくなる。

 今回のことは、誰もエルベルト様を守ろうとしなかったのではなく、判断できなかったと言うことなのでしょう。」

「結果として、そうなのだろう。」

「エルベルト様は、それだけ、すべてにおいて自身で、判断して来たと言うことです。

 家臣は、エルベルト様に頼りきっていたのですね。
 でも、王政とは、そのようなものでしょう。

 そうなると、エルベルト様以外の者ならば、誰が上に立ってもいいと思っている者か、今はもう、犯人は、王宮から出たのかもしれませんね。

 一時的にエルベルト様の目をかいくぐりたかったとか。」

「その可能性もある。

 僕のことが大嫌いであった者。
 あの頃、僕にバレないように悪事を働いていた者。

 どちらかと言う訳か。」 

「はい、当時もう少しで、エルベルト様に悪事がバレそうで、慌てていた者などいませんでしたか?」

「思い返してみるよ。」

 私達は、テーブルを囲み、お茶を飲みながら、いつもの犯人探しの議論をしている。

 エルベルト様と、こんなに大切なことを、話し合えるとは、何と幸せなのだろう。

 王宮にいた頃、私は、エルベルト様が、執務中に、よく家臣達と議論をしているのを、見かけていた。

 私も、家臣達のように、彼と一緒に政策について、話し合えたらいいのにと、お茶を注ぎながら、思っていた。

 私には、学もなく、知識もない。

 市井に下ったら、子供達に混ざって、勉強してみるのもいいかもしれない。

 令嬢の教育とは、礼儀作法やこの国の知識、家政など、いい妻になる学びだったし、それはそれで、大切だ。

 だが、それでは、エルベルト様と家臣達のように、議論などできないのだ。

 変ね私、市井に下ったら、二度とエルベルト様に会えないのに、彼と議論するための知識を得ても、その先に話す機会などない。

 でも、私は、エルベルト様と議論できる女性を目指してしまうのだ。






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